― おとといの「記事」を補足します。―
(01)
しかも、語法的には、訓読の送り仮名に従うわけであるから、日本文語文といってよいのである。だから、この書き下し文から原文をある程度推測することは可能であるが、完全な復元は困難である。たとえば、「書ヲ読ム」という簡単な文の場合は別として、すこし複雑な文になると、よほどの学力がないとできない(二畳庵主人、漢文法入門、昭和59年、84頁)。
然るに、
(02)
次のやうな「書き下し文」であれば、「(原文の)復文」は、難しくはない。
すなはち、
①而
②也
③使
④也
⑤
⑥
⑦之 而 不 乎
⑧
⑨与
⑩
⑪不 而 也
⑫也
を補った、
①虎百獣を求め而之を食らひ狐を得たり。
②狐曰く、子敢へて我を食らふこと無かれ也。
③天帝、我をして百獣に長たら使む。
④今子我を食らはば、是れ天帝の命に逆らふ也。
⑤子我を以て信なら不と為さば、吾子の為に先行せむ。
⑥子我が後に随ひて観よ。
⑦百獣之我を見、而敢へて走ら不らん乎。と。
⑧虎以て然りと為す。
⑨故に遂に之与行く。
⑩獣之を見て皆走る。
⑪虎獣の己を畏れ而走るを知ら不る也、
⑫以て狐を畏るると為す也。と。
といふ「書き下し文」であれば、
①虎求百獣而食之得狐。
②狐曰子無敢食我也。
③天帝使我長百獣。
④今子食我是逆天帝命也。
⑤子以我為不信吾為子先行。
⑥子随我後観。
⑦百獣之見我而敢不走乎。
⑧虎以為然。
⑨故遂与之行。
⑩獣見之皆走。
⑪虎不知獣畏己而走也。
⑫以為畏狐也。
といふ風に「復文」することは、難しくはない。
加へて、
(03)
「漢音」でも、「呉音」でも、「慣用音」でも、何でもよいのであれば、
①虎求百獣而食之得狐。
②狐曰子無敢食我也。
③天帝使我長百獣。
④今子食我是逆天帝命也。
⑤子以我為不信吾為子先行。
⑥子随我後観。
⑦百獣之見我而敢不走乎。
⑧虎以為然。
⑨故遂与之行。
⑩獣見之皆走。
⑪虎不知獣畏己而走也。
⑫以為畏狐也。
といふ「白文」を、例へば、
①コキュウヒャクジュウジショクシトクコ。
②コエツシムカンショクガヤ。
③テンテイシガチョウヒャクジュウ。
④コンシショクガゼギャク。
⑤シイガヰフシンゴヰシセンコウ。
⑥シズイガコウカン。
⑦ヒャクジュウシケンガジカンフツソウコ。
⑧コイヰゼン。
⑨コツイヨシコウ。
⑩ジュウケンシカイソウ。
⑪コフツチジュウイキジソウヤ。
⑫イヰイコヤ。
と「音読」することは、簡単である。
従って、
(02)(03)により、
(04)
「(声を出して行ふ)復文」に慣れてゐる人物が、
①虎百獣を求め而之を食らひ狐を得たり。
②狐曰く、子敢へて我を食らふこと無かれ也。
③天帝、我をして百獣に長たら使む。
④今子我を食らはば、是れ天帝の命に逆らふ也。
⑤子我を以て信なら不と為さば、吾子の為に先行せむ。
⑥子我が後に随ひて観よ。
⑦百獣之我を見、而敢へて走ら不らん乎。と。
⑧虎以て然りと為す。
⑨故に遂に之与行く。
⑩獣之を見て皆走る。
⑪虎獣の己を畏れ而走るを知ら不る也、
⑫以て狐を畏るると為す也。と。
を「暗記」出来れば、
①コキュウヒャクジュウジショクシトクコ。
②コエツシムカンショクガヤ。
③テンテイシガチョウヒャクジュウ。
④コンシショクガゼギャク。
⑤シイガヰフシンゴヰシセンコウ。
⑥シズイガコウカン。
⑦ヒャクジュウシケンガジカンフツソウコ。
⑧コイヰゼン。
⑨コツイヨシコウ。
⑩ジュウケンシカイソウ。
⑪コフツチジュウイキジソウヤ。
⑫イヰイコヤ。
といふ風に「暗誦」することは、簡単である。といふ、ことになる。
然るに、
(05)
私は、「(声を出して行ふ)復文」に慣れてゐて、尚且つ、
①虎百獣を求め而之を食らひ狐を得たり。
②狐曰く、子敢へて我を食らふこと無かれ也。
③天帝、我をして百獣に長たら使む。
④今子我を食らはば、是れ天帝の命に逆らふ也。
⑤子我を以て信なら不と為さば、吾子の為に先行せむ。
⑥子我が後に随ひて観よ。
⑦百獣之我を見、而敢へて走ら不らん乎。と。
⑧虎以て然りと為す。
⑨故に遂に之与行く。
⑩獣之を見て皆走る。
⑪虎獣の己を畏れ而走るを知ら不る也、
⑫以て狐を畏るると為す也。と。
を、覚えてゐる。
従って、
(04)(05)により、
(06)
私は、
①コキュウヒャクジュウジショクシトクコ。
②コエツシムカンショクガヤ。
③テンテイシガチョウヒャクジュウ。
④コンシショクガゼギャク。
⑤シイガヰフシンゴヰシセンコウ。
⑥シズイガコウカン。
⑦ヒャクジュウシケンガジカンフツソウコ。
⑧コイヰゼン。
⑨コツイヨシコウ。
⑩ジュウケンシカイソウ。
⑪コフツチジュウイキジソウヤ。
⑫イヰイコヤ。
といふ風に、「暗誦」出来る。
然るに、
(05)(06)により、
(07)
この場合は、
①虎求百獣而食之得狐。
②狐曰子無敢食我也。
③天帝使我長百獣。
④今子食我是逆天帝命也。
⑤子以我為不信吾為子先行。
⑥子随我後観。
⑦百獣之見我而敢不走乎。
⑧虎以為然。
⑨故遂与之行。
⑩獣見之皆走。
⑪虎不知獣畏己而走也。
⑫以為畏狐也。
といふ「復文」の結果としての、
①コキュウヒャクジュウジショクシトクコ。
②コエツシムカンショクガヤ。
③テンテイシガチョウヒャクジュウ。
④コンシショクガゼギャク。
⑤シイガヰフシンゴヰシセンコウ。
⑥シズイガコウカン。
⑦ヒャクジュウシケンガジカンフツソウコ。
⑧コイヰゼン。
⑨コツイヨシコウ。
⑩ジュウケンシカイソウ。
⑪コフツチジュウイキジソウヤ。
⑫イヰイコヤ。
といふ、「暗誦」であるため、「紙と鉛筆」が有れば、
①虎求百獣而食之得狐。
②狐曰子無敢食我也。
③天帝使我長百獣。
④今子食我是逆天帝命也。
⑤子以我為不信吾為子先行。
⑥子随我後観。
⑦百獣之見我而敢不走乎。
⑧虎以為然。
⑨故遂与之行。
⑩獣見之皆走。
⑪虎不知獣畏己而走也。
⑫以為畏狐也。
といふ「白文」を、書くことが、出来る。
従って、
(02)~(07)により、
(08)
私は、
①虎求百獣而食之得狐。
②狐曰子無敢食我也。
③天帝使我長百獣。
④今子食我是逆天帝命也。
⑤子以我為不信吾為子先行。
⑥子随我後観。
⑦百獣之見我而敢不走乎。
⑧虎以為然。
⑨故遂与之行。
⑩獣見之皆走。
⑪虎不知獣畏己而走也。
⑫以為畏狐也。
といふ風に、自分で書いて、その「白文」を、
①虎百獣を求め而之を食らひ狐を得たり。
②狐曰く、子敢へて我を食らふこと無かれ也。
③天帝、我をして百獣に長たら使む。
④今子我を食らはば、是れ天帝の命に逆らふ也。
⑤子我を以て信なら不と為さば、吾子の為に先行せむ。
⑥子我が後に随ひて観よ。
⑦百獣之我を見、而敢へて走ら不らん乎。と。
⑧虎以て然りと為す。
⑨故に遂に之与行く。
⑩獣之を見て皆走る。
⑪虎獣の己を畏れ而走るを知ら不る也、
⑫以て狐を畏るると為す也。と。
といふ風に、「訓読」出来るし、単なる「音読」であれば、「漢文」を一切知らない小中学生でも、出来ないことは、無い。
(09)
①虎百獣を求め而之を食らひ狐を得たり。
から「ひらがな」を除くと、
①虎百獣求而之食狐得。
然るに、
(10)
SOV ⇒ SVO
により、
①虎百獣求而之食狐得。
を並び替へると、
①虎求百獣而食之得狐。
といふ、「原文(白文)」を、得ることに、なる。
然るに、
(11)
その一方で、
『漢文から中国語への道(田中秀、燈影舎、昭和56年、110頁)』によると、
①虎求百獣而食之得狐。
に対する、「中国語(中華人民共和国語)」は、
①老虎找各種野獣做食物、有一天找到一隻狐狸。
①lau hu zhao ge zhong ye shou zou shi wu you yi tian zhao dau yi zhi hu li.
との、ことであるが、この場合、
①老虎找各種野獣做食物、有一天找到一隻狐狸。
といふ現代文の中から、「漢字」を選択して、並び変へても、
①虎求百獣而食之得狐。
といふ「漢文」には、ならない。
従って、
(09)~(11)により、
(12)
少なくとも、
①虎求百獣而食之得狐。
を「暗誦」する上では、
①虎百獣求而之食狐得。
の方が、
①老虎找各種野獣做食物、有一天找到一隻狐狸。
に対して、アドバンテージが有る。はずである。
平成25年10月24日、毛利太。
(13)
国語漢語と現代中国語のくいちがいを示すひとつのパターンは、国語漢語は中国古典の語彙をかなり残し、現に使用しているが、本場の中国においては、そのことばが死語になっていて、現在では別のいいかたがふつうになっているという場合である(鈴木修次、漢語と日本人、1978年、207頁)。
(14)
古今の漢語を比べると、語彙の変化が最も大きく、これは確かに難点である(洪誠、訓詁学講義、2003年、73頁)。
(15)
大学に入っても、一般に中国文学科では訓読法を指導しない。漢文つまり古典中国語も現代中国語で発音してしまうのが通例で、訓読法なぞ時代遅れの古臭い方法だと蔑む雰囲気さえ濃厚だという(古田島洋介、日本近代史を学ぶための文語文入門、2013年、iv)。
(16)
では『論語』を現代中国語の発音で読めばよいか、というと、そう単純には言えない。過去二千数百年のあいだに中国語の発音は大きく変化してしまったからだ。―中略―、一方、日本漢字音では、「学」「我」はガク、ガ、などと堅固な擬音感が残っている。―中略―、日本人が『論語』を読むとき、擬音感に留意すれば、より深く含意を味わえる(加藤徹、本当は危ない『論語』、2011年、144頁)。
(17)
是以我不求以解中華人民共和国語法学漢文也=
是以我不{求[以〔解(中華人民共和国語)法〕学(漢文)]}也⇒
是以我{[〔(中華人民共和国語)解法〕以(漢文)学]求}不也=
是を以て、我、中華人民共和国語を解する法を以て、漢文を学ぶことを求め不るなり。
(18)
独学漢文、無如以声復文矣=
独学(漢文)、無[如〔以(声)復文〕]矣⇒
独(漢文)学、[〔(声)以復文〕如]無矣=
独り漢文を学ぶは、声を以て復文するに如くは無し。
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