(01)
イワシはすぐにいたむ魚、弱い魚だから「鰯」という字がつくられてあてられているのだといわれます。漢字一字として考えればそういうことになりますが、「弱」も「魚」も漢字としては存在しているので、日本語の「イワシ」に「弱魚」といふ漢字二字をあてることだってできなくはない(今野真二、漢和辞典の謎、2016年、30頁)。
(02)
先には「漢字一字で書きたいというさらに限定的な要素」と述べましたが、漢字の音を借りて日本語「イワシ」を「伊倭志」、あるいは「伊和志」「伊和之」などと「表音的」に書くこともできていたので、さきほどの要求は「漢字一字で表意的に書きたい」という、さらに「限定的な要求」だったことがわかります(今野真二、漢和辞典の謎、2016年、31頁)。
従って、
(01)(02)により、
(03)
① 好鰯 =鰯を好む。
② 好弱魚 =弱魚を好む。
③ 好伊和志=伊和志を好む。
に於いて、「命題」としては、
①=②=③
である。
然るに、
(04)
② 好弱魚 =弱魚を好む。
の「返り点」は、「普通」は、
② 二 一
であるが、
② レ ‐
であっても、「間違ひ」ではない。
従って、
(05)
① 好鰯 =鰯を好む。
② 好弱魚 =弱魚を好む。
③ 好伊和志=伊和志を好む。
に対する「返り点」は、次のやうになる。
従って、
(03)(05)により、
(06)
① 好鰯 =鰯を好む。
② 好弱魚 =弱魚を好む。
③ 好伊和志=伊和志を好む。
に於いて、
「命題」としては、
①=②=③
である一方で、
「返り点」に関しては、
①≠②≠③
である。
(07)
① 好鰯=鰯を好む。
に於いて、
① 好む のは、
① イワシ であって、
① サンマ ではない。
従って、
(07)により、
(08)
① 好鰯=鰯を好む。
に於いて、
① 好 といふ「漢字の意味」は、
① 鰯 に及んでゐる。
(09)
④ 不好鰯=鰯を好まず。
といふ「命題」は、
① 好鰯=鰯を好む。
といふ「命題」の、「否定」である。
従って、
(09)により、
(10)
④ 不好鰯=鰯を好まず。
に於いて、
④ 不 といふ「漢字の意味」は、
④ 好鰯 に及んでゐる。
(11)
④ 不好鰯=鰯を好まず。
に於いて、
④ 不 といふ「漢字の意味」が、
④ 好鰯 に及んでゐて、
④ 好 といふ「漢字の意味」が、
④ 鰯 に及んでゐるならば、その時に限って、
といふことを、
④ 不〔好(鰯)〕=〔(鰯を)好ま〕ず。
といふ「括弧」で、表すことにする。
従って、
(09)(10)(11)により、
(12)
⑤ 不好鰯。不好鯛。
であれば、
⑤ 不〔好(鰯)〕。 不〔好(鰯)〕。
である。
然るに、
(13)
⑤ 不好鰯。
⑤ 不〔好(鰯)〕。
に於いて、
不〔 〕⇒〔 〕不
好( )⇒( )好
といふ「移動」を行へば、
⑤ 不〔好(鰯)〕⇒
⑤ 〔(鰯)好〕不=
⑤ 〔(鰯を)好ま〕ず。
といふ、「漢文訓読」が、成立する。
然るに、
(14)
⑥ 不好鰯不好鯛=
⑥ 不[好(鰯)不〔好(鯛)〕]。
に於いて、
不[ ]⇒[ ]不
好( )⇒( )好
不〔 〕⇒〔 〕不
好( )⇒( )好
といふ「移動」を行へば、
⑥ [(鰯)好〔(鯛)好〕不]不=
⑥ [(鰯を)好みて〔(鯛を)好ま〕ずんば]あらず=
⑥ 鰯を好むのに、鯛を好まない。といふことない。
といふ、「漢文訓読」が、成立する。
然るに、
(15)
本来の「漢文(白文)」には、「句読点」が無い。
従って、
(16)
⑤ 不好鰯。不好鯛。
⑥ 不好鰯不好鯛。
は、両方とも、
⑤ 不好鰯不好鯛
⑥ 不好鰯不好鯛
である。
従って、
(14)(15)(16)により、
(17)
⑤ 不好鰯不好鯛
⑥ 不好鰯不好鯛
といふ「漢文」は、
⑤ 鰯を好まない。鯛を好まない。
⑥ 鰯を好むのに、鯛を好まない。といふことない。
といふ「二通りの、解釈」が、可能となる。
然るに、
(18)
「含意の定義」、「二重否定律」、「ド・モルガンの法則」により、
⑦ P→Q
⑥ ~P∨Q
⑥ ~P∨~〔~(Q)〕
⑥ ~〔P& ~(Q)〕
に於いて、
⑦=⑥
である。
然るに、
(19)
⑥ ~〔P&~(Q)〕
⑥ 〔P&(Q)~〕~
に於いて、
⑥=⑥
である。
従って、
(18)(19)により、
(20)
⑥ 〔P&(Q)~〕~
⑥〔鰯を好むのに(鯛を好ま)ない〕といふことはない。
⑦ P→Q
⑦ 鰯を好むのであれば、鯛も好む。
に於いて、
⑥=⑦
である。
従って、
(19)(20)により、
(21)
⑥ 鰯を好むのに、鯛を好まない。といふことない。
⑦ 鰯を好むのであれば、鯛も好む。
に於いて、
⑥=⑦
であるのであれば、
⑥ 鰯を好むのに、鯛を好まない。といふことない。
といふ「日本語」には、少なくとも、
⑥〔鰯を好むのに(鯛を好ま)ない〕といふことはない。
といふ「括弧」が、無ければならない。
従って、
(21)により、
(22)
⑥ 不好鰯不好鯛。
⑥ 鰯を好むのに、鯛を好まない。といふことない。
⑦ 如好鰯則好鯛。
⑦ 鰯を好むのであれば、鯛も好む。
に於いて、
⑥=⑦
であるのであれば、
⑥ 不好鰯不好鯛。
といふ「漢文」にも、少なくとも、
⑥ 不〔好鰯不(好鯛)〕。
といふ「括弧」が、無ければならない。
(23)
⑥ ~〔P&~(Q)〕=
⑦ P→Q
であって、尚且つ、「漢文」も「日本語」も、「論理(学)的」であるならば、そのやうに、考へざるを得ない。
平成28年10月15日、毛利太。
―「関連記事」―
「漢文の補足構造」としての「括弧」の付け方(http://kannbunn.blogspot.com/2016/09/blog-post_22.html)。
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