2015年10月3日土曜日

返り点に対する「括弧(函)」の用法Ⅲ。

(01)
① 我見〔荘子釣(於濮水)〕⇒
① 我〔荘子(於濮水)釣〕見=
① 我〔荘子の(濮水に)釣るを〕見る。
然るに、
(02)
漢語における語順は、国語と大きく違っているところがある。その補足構造における語順は、国語とは全く反対である(鈴木直治著、中国語と漢文、1975年、296頁)。
従って、
(01)(02)により、
(03)
① 我見〔荘子釣(於濮水)〕。
① 我〔荘子の(濮水に)釣るを〕見る。
に於ける、
① 〔 ( ) 〕
① 〔 ( ) 〕
といふ「括弧」は、
① といふ「漢文の補足構造」を表してゐて、
① といふ「訓読の補足構造」を表してゐる。
然るに、
(04)
① 我見〔荘子釣(於濮水)〕。
① 我〔荘子の(濮水に)釣るを〕見る。
に於いて、
① 〔 ( ) 〕と、
① 〔 ( ) 〕は、等しい。
従って、
(03)(04)により、
(05)
① 我見〔荘子釣(於濮水)〕。
① 我〔荘子の(濮水に)釣るを〕見る。
に於いて、「語順」は異なるが、「補足構造(シンタックス)」は、等しい。
然るに、
(06)
② I saw〔her standing(there)〕⇒
② I 〔her(there)standing〕saw =
② 私は〔彼女が(そこに)立ってゐるのを〕見た。
(07)
③ You are[doing〔what(here)〕]⇒
③ You [〔(here)what〕doing]are=
③ あなたは[〔(ここで)何を〕して]ゐる。
従って、
(04)~(07)により、
(08)
① 我見荘子釣於濮水。
② I saw her standing there.
③ You are doing what here?
といふ「補足構造」は、それぞれ、
①    〔 ( ) 〕
②    〔 ( ) 〕
③ [ 〔 ( ) 〕 ]
を介して、
① 我荘子の濮水に釣るを見る。
② 私は彼女がそこに立ってゐるのを見た。
③ あなたは、ここで何をしてゐる。
といふ「補足構造」に、等しい。
然るに、
(09)
④ What(are[you doing〔here)〕]⇒
④ ([you〔here)What〕doing]are =
④ ([あなたは〔ここで)何を〕して]ゐる。
に於ける、
④ ( [ 〔 ) 〕 ]
④ ( [ 〔 ) 〕 ]
は、「括弧」とは、言へない。
従って、
(07)(08)(09)により、
(10)
③ You are doing what here? ⇒
③ あなたは、ここで何をしてゐる。
④ What are you doing here? ⇒
④ あなたは、ここで何をしてゐる。
に於いて、
③ であれば、「語順」は異なるが、「補足構造(シンタックス)」は、等しい。
④ であれば、「語順」は異なるし、「補足構造(シンタックス)」も、等しくない。
cf.
英語はWH句を義務的に移動しなくてはいけない言語である。このWH句の移動を制限する制約がある。その制約を一般にWHの島の制約と呼んでいる。島となるのは複合名詞句と文主語
と等位構造である(Webサイト:英語は - nifty)。
然るに、
(11)
③ 四[三〔二(一)〕]⇒
③[〔(一)二〕三]四。
④ 三(五[一四〔二)〕]⇒
④ ([一〔二)三〕四]五。
従って、
(10)(11)により、
(12)
③ You are doing what here? ⇒
③ あなたは、ここで何をしてゐる。
に付く「返り点」は、
③ 四 三 二 一
であって、
④ What are you doing here? ⇒
④ あなたは、ここで何をしてゐる。
に付く「返り点」は、
④ 三 五 一 四 二
であるものの、
④ 三 五 一 四 二
といった、「ユニークなそれ」は、「漢文訓読」では有り得ない。
然るに、
(13)
「漢文訓読」ではなく、「白話(中国語)訓読」であれば、(14)で示す通り、
⑤ 下 二 上 一
⑥ 二 五 三 一 四
⑦ 二 三レ 一
といふ、「ユニークなそれ」を、見ることが、出来る。
(14)

cf.
訓読法の限界は、白話文、つまり口語の文章には適用できないことだといわれます。つまり、文語(文言)の文章だけしか訓読法で読むことができないのです。中国語の文語文(つまり漢文)は、漢字の表意文字たる性質を十二分に生かして、簡潔な表現になっておりますから、訓に非常に適しています。これに対し、白話(口語)の文章は、熟語や助字が多く、冗長です。そのため訓読には不向きなのです(Webサイト:日本漢文の世界)。
従って、
(12)(13)(14)により、
(15)

What are you doing here? ⇒
④ あなたは、ここで何をしてゐる。
⑤ 只‐管要纏我 ⇒
⑤ ヒタスラ 我ガ ヤツカイニナル。
⑥ 端‐的看不出這婆‐子的本‐事来 ⇒
⑥ 端的に這の婆子の本事を看出だし来たらず。
⑥ 西門慶促‐忙促-急儧‐造不出床来 ⇒
⑥ 西門慶促忙促急に床を儧造し出し来たらず。
⑦ 吃了不多酒 ⇒
⑦ 吃むこと多からず。
に付く「それは」は、
④ 三 五 一 四 二
⑤ 下 二 上 一
⑥ 二 五 三 一 四
⑦ 二 三レ 一
であるものの、
⑤ 下 二 上 一
⑦ 二 三レ 一
の場合は、このやうな「それ」が「返り点」でないことについての、「明言」が有る。
すなはち、
(16)
上中下点(上・下、上・中・下)
必ず一二点をまたいで返る場合に用いる(数学の式における( )が一二点で、{ }が上中下点に相当するものと考えるとわかりやすい)。(原田種成、私の漢文講義、1995年、41・43頁)
とある以上、
 二 一 
ではない、
 二  一
は、「返り点」ではない。
加へて、
(17)
三・四点も同じくレ点といっしょにはならない(江連隆、総合新漢文、1968年、15頁)。
とある以上、
⑦ 三レ 
は、有り得ないため、
⑦ 二 三レ 一
は、「返り点」ではない。
(09)により、
(18)
④ 三 五 一 四 二
⑤ 下 二 上 一
⑥ 二 五 三 一 四
⑦ 二 三レ 一
といふ四つの内の、
④ 三 五 一 四 二
に対する「括弧」
④ ( [ 〔 ) 〕 ]
である。
(19)
⑤ 下 二 上 一
⑥ 二 五 三 一 四
⑦ 二 三レ 一
の場合、
⑤ 四 二 三 一
⑥ 二 五 三 一 四
⑦ 二 四 三 一
と「同じこと」であるが、
⑤ 四[二(三〔一)〕]
⑥ 二(五[三〔一)〕四]
⑦ 二(四[三〔一)〕]
である。
従って、
(18)(19)により、
(20)
④ ( [ 〔 ) 〕 ]
⑤ [ ( 〔 ) 〕 ]
⑥ ( [ 〔 ) 〕 ]
⑦ ( [ 〔 ) 〕 ]
であって、
④ 三 五 一 四 二
⑤ 四 二 三 一
⑥ 二 五 三 一 四
⑦ 二 四 三 一
であって、それ故、
④ 3<5 1 4>2
⑤ 4 2<3>1
⑥ 2<5 3 1>4
⑦ 2<4 3>1
であるものの、「結論」だけを、書くならば、
④ L<M>N & L=N+1
といふ「語順」を含まない限り、「括弧」と「返り点」が、成立する。
従って、
(21)
④ 3<5 1 4>2
⑤ 4 2<3>1
⑥ 2<5 3 1>4
⑦ 2<4 3>1
といふ「順番」を、
④ 5>3 1 2<4
⑤ 4 3>2>1
⑥ 5>3 2 1<4
⑦ 4>2 1<3
といふ「順番」に換へれば、「括弧」と「返り点」は、成立する。
すなはち、
(22)
④ 5>3 1 2<4
⑤ 4 3>2>1
⑥ 5>3 2 1<4
⑦ 4>2 1<3
であれば、
④ 5〔3(12)4〕
⑤ 4[3〔2(1)〕]
⑥ 5[3〔2(1)〕4]
⑦ 4〔2(1)3〕
であるため、
④ 〔 ( ) 〕
⑤ [ 〔 ( ) 〕 ]
⑥ [ 〔 ( ) 〕 ]
⑦ 〔 ( ) 〕
は、「括弧」であり、
④ 5>3 1 2<4
⑤ 4 3>2>1
⑥ 5>3 2 1<4
⑦ 4>2 1<3
といふ「順番」は、
④ 下 二 一 上
⑤ レ レ レ
⑥ 二 レ レ 一
⑦ 二 レ 一
といふ「返り点」に、相当する。
cf.

平成27年10月03日、毛利太。

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