2016年6月2日木曜日

「敢へて(動詞)」について。

(01)
① 無人不死=
① 無〔人不(死)〕⇒
① 〔人(死)不〕無=
① 〔人として(死せ)不るは〕無し=
① 人であって、死なないものはゐない。
然るに、
(02)
② 無人不死=
② 無[人〔不(死)〕]⇒
② [〔(死)不〕人]無=
② [〔(死せ)不る〕人]無し=
② 死なない人間はゐない。
従って、
(01)(02)により、
(03)
① 無〔人不(死)〕。
であっても、
② 無[人〔不(死)〕]。
であっても、「意味」としては、「同じこと」である。
然るに、
(04)
① 無人不死。
の場合は、
① 人不(死)=
① 人(死)不=
① 人(死せ)ず。
の「否定」である。
従って、
(03)(04)により、
(05)
① 無〔人不(死)〕。
であって、
② 無[人〔不(死)〕]。
ではない。
(06)
③ 沛公敢背項王=
③ 沛公敢背(項王)⇒
③ 沛公敢(項王)背=
③ 沛公敢へて(項王に)背く=
③ 沛公は敢へて項王を裏切る。
然るに、
(07)
あへて【敢へて】[副詞](動詞ハ下二「敢ふ」の連用形+接続助詞「て」)① しいて。すすんで。無理を押して。 
(三省堂、全訳読解古語辞典、2007年、50頁)
従って、
(06)(07)により、
(08)
③ 沛公敢背項王=
③ 主語+副詞+動詞+目的語(補足語)。
である。
従って、
(08)により、
(09)
④ 沛公不敢背項王=
④ 主語+否定+副詞+動詞+目的語(補足語)。
である。
従って、
(06)(09)により、
(10)
④ 沛公不敢背項王=
④ 沛公不〔敢背(項王)〕⇒
④ 沛公〔敢(項王)背〕不=
④ 沛公〔敢へて(項王に)背か〕不=
④ 沛公は、敢へて項王を裏切らない。
然るに、
(11)
あへて【敢へて】[副詞]① しいて。
ではなく、仮に、
あへて【敢へて】[動詞]①(意を)決して・・・する。
であるならば、
④ 沛公不敢背項王=
④ 主語+否定+動詞+動詞+目的語(補足語)。
である。
従って、
(11)により、
(12)
⑤ 沛公不敢背項王=
⑤ 沛公不[敢〔背(項王)〕]⇒
⑤ 沛公[〔(項王)背〕敢]不=
⑤ 沛公[〔(項王に)背くこと〕敢へてせ]不=
⑤ 沛公は、項王に背くことを「決してし」ない。
といふ、ことになる。
然るに、
(13)
⑥ 百獣之見我而敢不走乎=
⑥ 百獣の我を見て敢へて走らざらんや。
の場合は、「反語」である。
従って、
(13)により、
(14)
⑥ 敢不走乎=
⑥ 敢〔不(走)〕乎=
⑥ 〔(走)不〕敢乎=
⑥ 〔(走ら)不ること〕敢へてせんや。
の場合は、
⑥ 敢不走乎=
⑥ 不敢不走=
⑥ 不[敢〔不(走)〕]⇒
⑥ [〔(走)不〕敢]不=
⑥ [〔(走ら)不ること〕敢へてせ]不=
⑥ 逃げないことを「決して」しない=
⑥ 必ず、逃げるに決まってゐる。
といふ、「意味」になる。
従って、
(11)~(14)により、
(15)
 敢=(意を)決して・・・する。
不敢=(意を)決して・・・ない。
とすれば、分り易い。
然るに、
(16)
1 市販の問題集・参考書の類、教科書・教師用指導書の類では、「不敢」を「決して・・・ない」と訳している。
(江連隆、漢文語法ハンドブック、1997年、81頁)
従って、
(15)(16)により、
(17)
1 市販の問題集・参考書の類、教科書・教師用指導書の類は、
「不敢」は、「決して・・・・ない」と、すべきではなく、
「不敢」は、「決して・・・ない」と、すべきである。
平成28年06月02日、毛利太。

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