2016年8月25日木曜日

「括弧」は「返り点」の「代用」ではない。

(01)
任意の表述の否定は、その表述を’~(  )’という空所にいれて書くことにしよう(W.O.クワイン、現代論理学入門、1972年、15頁改)。
従って、
(01)により、
(02)
① 読漢文。
の「否定」は、
① ~(読漢文)。
といふ風に、書くことにする。
然るに、
(03)
括弧は、論理演算子のスコープ(scope)を明示する働きを持つ。スコープは、論理演算子の働きが及ぶ範囲のことをいう(産業図書、数理言語学辞典、2013年、四七頁:命題論理、今仁生美)。
従って、
(02)(03)により、
(04)
① ~(読漢文)。
に於いて、「~」といふ「演算子の意味」は、(読漢文)に及んでゐる
然るに、
(05)

を、「漢字」で書けば、この場合は、
~=不
である。
従って、
(04)(05)により、
(06)
① 不(読漢文)。
に於いて、「不」といふ「漢字の意味」は、(読漢文)に及んでゐる。
然るに、
(07)
① 読漢文。
に於いて、「何を読むのか」と言へば、「漢文」である。
従って、
(07)により、
(08)
① 読(漢文)。
に於いて、「読」といふ「漢字の意味」は、 (漢文)に及んでゐる。
従って、
(07)(08)により、
(09)
① 不読漢文。
に於いて、「不」といふ「漢字の意味」は、(読漢文)に及んでゐて、
① 読漢文。
に於いて、「読」といふ「漢字の意味」は、 (漢文)に及んでゐる。
然るに、
従って、
(09)により、
(10)
① 不読漢文。
といふ「漢文」は、
① 不〔読(漢文)〕。
といふ「構造(シンタックス)」をしてゐる。
然るに、
(11)
漢語における語順は、国語と大きく違っているところがある。すなわち、その補足構造における語順は、国語とは全く反対である(鈴木直治、
中国語と漢文、1975年、二九六頁)。
然るに、
(12)
① 不〔読(漢文)〕。
に於いて、
 不〔 〕⇒〔 〕不
 読( )⇒( )読
といふ「倒置」を行ふと、
① 不〔読(漢文)〕⇒
① 〔(漢文)読〕不=
① 〔(漢文を)読ま〕ず。
といふ「漢文訓読」が、成立する。
従って、
(11)(12)により、
(13)
① 不〔読(漢文)〕。
といふ「括弧」は、「漢文の補足構造」であって、
① 〔(漢文を)読ま〕ず。
といふ「括弧」は、「国語の補足構造」である。
従って、
(14)
① 不読漢文=
① 不〔読(漢文)〕⇒
① 〔(漢文)読〕不=
① 〔(漢文を)読ま〕ず。
に於ける、
① 〔( )〕
といふ「括弧」は、単なる、「返り点」の「代用」ではなく、むしろ、
① レ 二 一
といふ「返り点」こそが、
① 〔( )〕
といふ「括弧(補足構造)」を「写し」てゐる。
然るに、
(15)
我非生而知之(論語)。
非必怪奇偉麗也(蘇軾)。
といふ「二つ」を合わせた、
我非生而知之(論語+蘇軾)。
といふ「漢文(作例)」は、「正しい」。
従って、
(16)
我非必生而知之(論語+蘇軾)。
② 求以解英文法解漢文(旺文社、漢文の基礎)。
といふ「二つ」を合わせた、
我非必求以解英文法解漢文(論語+蘇軾+旺文社)。
といふ「漢文(作例)」は「正しい」。
従って、
(16)により、
(17)
我非必求以解英文法解漢文
我は必ずしも英文を解する法を以って漢文を解せんことを求むる者に非ず
といふ「漢文訓読」は、「正しい」。
cf.
漢字には、品詞も、性も数も格も、時制もなく、漢字で綴られた漢文には文法もない。漢文の意味を理解する手掛かりは、古典の熟字の用例しかない。そのため漢字の使用法に精通するには、膨大な量の古典のテキストを丸暗記しなければならない(岡田英弘、誰が中国を作ったか、2005年、19頁)。
然るに、
(18)
② 我非必求以解英文法解漢文者。
② 我は必ずしも英文を解する法を以って漢文を解せんことを求むる者に非ず。
に於いて、『何が「否定」されてゐるのか』と言へば、「必ず英文を解する法を以って漢文を解せんことを求むる者である。といふこと」である。
(19)
② 求以解英文法解漢文。
に於いて、「何を求めてゐるのか」と言へば、「英文を解する法を以って漢文を解せんこと」である。
(20)
② 以解英文法。
に於いて、「何を用ゐるのか」と言へば、「英文を解する法」である。
(21)
② 解英文。
に於いて、「何を解するのか」と言へば、「英文」である。
(22)
② 解漢文。
に於いて、「何を解するのか」と言へば、「漢文」である。
従って、
(18)~(22)により、
(23)
② 我非必求以解英文法解漢文者。
といふ「漢文」が、
② 我は必ずしも英文を解する法を以って漢文を解せんことを求むる者に非ず。
といふ風に、「訓読」出来る以上、
「非」といふ「漢字の意味」は、{必求以解英文法解漢文者}に及んでゐて、
「求」といふ「漢字の意味」は、[以解英文法解漢文]に及んでゐて、
「以」といふ「漢字の意味」は、〔解英文法〕に及んでゐて、
「解」といふ「漢字の意味」は、(英文)に及んでゐて、
「解」といふ「漢字の意味」は、(漢文)に及んでゐる。
従って、
(10)(23)により、
(24)
① 我不読漢文。
② 我非必求以解英文法解漢文者。
といふ「漢文」は、
① 我不〔読(漢文)〕。
② 我非{必求[以〔解(英文)法〕解(漢文)]者}。
といふ「構造(シンタックス)」をしてゐる。
従って、
(11)(24)により、
(25)
② 我非必求以解英文法解漢文者=
② 我非{必求[以〔解(英文)法〕解(漢文)]者}⇒
② 我{必[〔(英文)解法〕以(漢文)解]求者}非=
② 我は{必ずしも[〔(英文を)解する法を〕以って(漢文を)解せんことを]求むる者に}非ず=
② 私は{必ずしも[〔(英文を)理解する方法を〕用ゐて(漢文を)理解しようと]努める者}ではない。
といふ「括弧」による、「漢文訓読」が、成立する。
(26)
② 必求=必+求
② 英文=英+文
② 漢文=漢+文
に於いて、
② 必+ は、「 副詞 」であって、
② 英+ は、「形容詞」であって、
② 漢+ も、「形容詞」である。
然るに、
(27)
「副詞」は「動詞」修飾し、「形容詞」は「名詞」を修飾する。
従って、
(26)(27)により、
(28)
② 必求=必+求
② 英文=英+文
② 漢文=漢+文
に於いて、
「必」は、「求」に及んでゐて、
「英」は、「文」に及んでゐて、
「漢」は、「文」に及んでゐる。
然るに、
(29)
② 英文を解する法
② 必ず英文を解する法を以って漢文を解せんことを求むる者
に於いて、
             「英文を解する」      といふ「連体形」は、「法」を修飾してゐて、
「必ず英文を解する法を以って漢文を解せんことを求むる」といふ「連体形」は、「者」を修飾してゐる。
従って、
(24)(29)により、
(30)
② 解英文+法
② 必求以解英文法解漢文+者
に於いて、
       「解英文」は、「法」に及んでゐて、
「必求以解英文法解漢文」は、「者」に及んでゐる。
加へて、
(31)
② 我非
の場合も、
② 我非=我+非
であって、「我+」は、「非」に及んでゐる。
とする。
従って、
(25)(29)(30)(31)により、
(32)
② 我非必求以解英文法解漢文者。
② 我+非{必+求[以〔解(英+文)+法〕解(漢+文)]+者}。
に於いて、「我+」は、「非」を介して、{必求以解英文法解漢文者}の「全体」に及んでゐる。
従って、
(33)
③ 若+非(吾+故人)。
③ なんぢは吾が故人に非ず。
に於いて、「若+」も、「非」を介して、(吾故人)の「全体」に及んでゐる。
然るに、
(34)
③ 若+非(吾+故人)。
③ なんぢは吾が故人に非ず。
④ 若+非(吾+故人)乎。
④ なんぢは吾故人に非ざるか。
に於いて、
④ は、③ の「疑問形」である。
従って、
(34)により、
(35)
③ 若+非(吾+故人)。
に対して、
③ 乎
が加はると、
③ 若+非(吾+故人)。
の「全体」が、「疑問形」に変はる。
従って、
(36)
③ 若+非(吾+故人)。
に対して、
④ 若+非(吾+故人)乎。
の場合は、
④ 〔若+非(吾+故人)〕乎。
といふ、ことになる。
(37)
⑤ 不(走)。
に対して、
⑥ 不(走)乎。
が「疑問」ではなく、「反語」であれば、
⑥ 不(走)乎=
⑥ 〔不(走)〕乎=
⑥ 〔不(走)〕無⇒
⑥ 〔(走)不〕無=
⑥ 〔(走ら)不るは〕無し。
といふ、「意味」になる。
平成28年08月25日、毛利太。
―「関連記事」―
(a)「レ点」は要らない。「括弧」があれば、「返り点」も要らない。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_22.html) (b)「一二点」だけでは、「読みにくい」。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_26.html
(c)「(レ点を含む)返り点」は、「構造(syntax)」を表してゐない。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/syntax.html
(d)「括弧と返り点」で表すこと出来る「訓読」の「順番」。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_31.html
(e)「括弧」の読み方。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/09/blog-post.html
(f)「返り点、括弧、構造化。」(http://kannbunn.blogspot.com/2016/09/blog-post_11.html

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