2016年8月28日日曜日

「(レ点を含む)返り点」は、「構造(syntax)」を表してゐない。

(01)
① 恐衆狙之不馴己。
① 衆狙の己になれざるを恐る。
① 猿たちが自分(狙公)に馴れ従はなくなることを(狙公が)心配する。
然るに、
(02)
① 恐衆狙之不馴己。
に於いて、「何を恐れるのか」と言へば、[衆狙が己に馴れないこと]である。
(03)
① 不馴己。
に於いて、「何をしないのか」と言へば、〔己に馴れること〕である。
(04)
① 馴己。
に於いて、「誰に馴れるのか」と言へば、(己に)である。
従って、
(01)~(04)により、
(05)
① 恐衆狙之不馴己。
に於いて、
「恐」といふ「漢字の意味」は、[衆狙之不馴己]に及んでゐて、
「不」といふ「漢字の意味」は、〔馴己〕に及んでゐて、
「馴」といふ「漢字の意味」は、(己)に及んでゐる。
従って、
(05)により、
(06)
① 恐衆狙之不馴己。
といふ「漢文」は、
① 恐[衆狙之不〔馴(己)〕]。
といふ「補足構造」をしてゐる。
然るに、
(07)
「志学」は意義からだけいえば、「志学」で十分であるが、語調をゆるやかにして、落ち着きを持たせるために「」を添えたのである。
(中澤希夫・澁谷玲子、漢文訓読の基礎、1985年、217頁、269頁)
従って、
(06)(07)により、
(08)
① 恐衆狙之不馴 己。
② 恐衆狙之不馴己。
といふ「漢文」は、両方とも、
① 恐[衆狙之不〔馴( 己)〕]。
② 恐[衆狙之不〔馴(己)〕]。
といふ「補足構造」をしてゐる。
然るに、
(09)
漢語における語順は、国語と大きく違っているところがある。すなわち、その補足構造における語順は、国語とは全く反対である。
(鈴木直治、中国語と漢文、1975年、二九六頁)
従って、
(08)(09)により、
(10)
① 恐衆狙之不馴 己=
② 恐衆狙之不馴於己=
② 恐[衆狙之不〔馴(於己)〕]⇒
② [衆狙之〔(於己)馴〕不]恐=
② [衆狙の〔(己に)馴れ〕不るを]恐る。
といふ「漢文訓読」が、成立する。
従って、
(08)(10)により、
(11)
① 恐[衆狙之不〔馴( 己)〕]。
② 恐[衆狙之不〔馴(於己)〕]。
に於ける、
① [〔( )〕]
② [〔( )〕]
といふ「括弧」は、
① 恐衆狙之不馴 己。
② 恐衆狙之不馴於己。
といふ「漢文」の「補足構造」を表してゐて、尚且つ、
① 衆狙の己になれざるを恐る。
② 衆狙の己になれざるを恐る。
といふ「訓読」の「語順」を表してゐる。
然るに、
(12)

に於いて、
③ 二 一レ レ ‐
といふ「返り点」は、「過去」に有ったはずであるが、「現在」は、無い。
従って、
(12)
① 恐衆狙之不馴 己。
② 恐衆狙之不馴於己。
に対する「返り点」は、
① 二 一レ レ
② 二 一レ 二 一
であるため、「返り点」に於いて、
② である。
然るに、
(11)により、
(13)
① 恐衆狙之不馴 己。
② 恐衆狙之不馴於己。
に対する「括弧」は、
① [〔( )〕]
② [〔( )〕]
であるため、「括弧」に於いて、
①=② である。
従って、
(08)(12)(13)により、
(14)
①=② である所の、
① [〔( )〕]
② [〔( )〕]
といふ「括弧」は、
① 恐衆狙之不馴 己。
② 恐衆狙之不馴於己。
といふ「漢文」の「補足構造」を、表してゐる一方で、
② である所の、
① 二 一レ レ
② 二 一レ 二 一
といふ「返り点」は、
① 恐衆狙之不馴 己。
② 恐衆狙之不馴於己。
といふ「漢文」の「補足構造」を、表してはゐない。
(15)
③ 読(書) =(書を)読む。
④ 読(英文)=(英文を)読む。
に於いて、
③ の「補足構造」と、
④ の「補足構造」は、「等しい」。
然るに、
(16)
「レ点」が有るため、
③ 読(書) =(書を)読む。
④ 読(英文)=(英文を)読む。
の「返り点」は、
③ レ
④ 二 一
である。
然るに、
(17)
③ レ
④ 二 一
に於いて、
④ である。
従って、
(15)(17)により、
(18)
④ である所の、
③ レ
④ 二 一
といふ「返り点」は、
③ 読書。
④ 読英文。
といふ「漢文」の「補足構造」を、表してはゐない。
(19)

に於いて、これらの「四つ」は、「同じ語順」で「訓読」される。
(20)
④ 三 レ 二 一
の場合は、「よく有る間違ひ」とされるものの、
① 二 一レ 二 一
と較べれば、
④ 三 レ 二 一
の方が、「素直で、分りやすい」。
従って、
(21)
「過去」に於いて、
① 二 一レ 二 一
といふ「語順」を表す所の、
④ 三 レ 二 一
といふ「返り点」が有ったとしても、「不思議」ではない。
(22)
(a)一 二 三 四 五 六 七
(b)甲 乙 丙 丁 戊 己
(c)上 中 下 松 竹
(d)天 地 人 間
(e)-(ハイフン)
ではなく、
(a)レ 一レ 上レ 甲レ 天レ
(b)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・ ・ ・ ・ ・
(c)上 中 下
(d)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(e)天 地 人
(f)-(ハイフン)
からなる、「学校で習ふ、返り点」を「マスター」しようと思ふのであれば、「返り点」は、必ずしも「合理的」ではない。
といふことを、「確認する必要」が有る。
平成28年08月28日、毛利太。
―「関連記事」―
(a)「レ点」は要らない。「括弧」があれば、「返り点」も要らない。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_22.html
(b)「括弧」は「返り点」の「代用」ではない。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/01_25.html
(c)「一二点」だけでは、「読みにくい」。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_26.html
(d)「括弧と返り点」で表すこと出来る「訓読」の「順番」。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_31.html
(e)「括弧」の読み方。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/09/blog-post.html
(f)「返り点、括弧、構造化。」(http://kannbunn.blogspot.com/2016/09/blog-post_11.html

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