2018年7月28日土曜日

「不敢視、不敢不告」について。

(01)
① 敢視=敢へて視る。
② 敢不(視)=敢へて(視)ず。
③ 不(敢視)=(敢へて視)ず。
④ 不〔敢不(視)〕=〔敢へて(視)ずんば〕あらず。
といふ風に「読む」ならば、「敢へて」は、「副詞」である。
然るに、
(02)
② 敢不(視)=敢へて(視)ず。
③ 不(敢視)=(敢へて視)ず。
であれば、
② 敢へて視ず。
③ 敢へて視ず。
であるため、「訓読」としては、「区別」が付かない。
然るに、
(03)
① 敢(視)=(視ること)敢へてす。
② 敢〔不(視)〕=〔(視)ざること〕敢へてす。
③ 不〔敢(視)〕=〔(視ること)敢へてせ〕ず。
④ 不[敢〔不(視)〕]=[〔(視)ざること〕敢へてせ]ず。
といふ風に「読む」ならば、「敢へてす」は、「サ変動詞」である。
然るに、
(04)
あえて①アヘて【《敢(え)て】()知ることの少なさ・浅さ・狭さから来る誤りが有ったり、多少の抵抗・困難が有ったりすることは承知の上で、そうすることを表わす。
(新明解 国語辞典、第四版、1991年、6頁)
従って、
(03)(04)により、
(05)
② 敢〔不(視)〕=〔(視)ざること〕敢へてす。
③ 不〔敢(視)〕=〔(視ること)敢へてせ〕ず。
であれば、
② 視ざること敢へてす=視ないことは困難であっても、視ないことを、敢へてする。
③ 視ること敢へてせず=視ることは、困難であるため、視ることを、 敢へてしない。
といふ、ことになる。
然るに、
(06)
② ~することは、困難であっても、~といふことを、敢へてする。
といふのではなく、
③ ~することは、困難であるため、~といふことを、敢へてしない。
といふのであれば、ほとんど、
③ ~することは、困難であるため、~といふことが、出来ない
といふことと、同じである。
従って、
(05)(06)により、
(07)
② 敢〔不(視)〕=〔(視)ざること〕敢へてす。
③ 不〔敢(視)〕=〔(視ること)敢へてせ〕ず。
に於いて、どちらが、「視たくとも、視ることが出来ない。」といふ「意味」になり得るのか、と言へば、③であって、②ではない。
然るに、
(08)
〔訓読〕
蘇秦は、鬼谷先生を師とす。
初め出游し、困しんで歸る。
妻は機を下らず、嫂は爲に炊がず。
是に至って、從約の長と爲り、六國に并せ相たり。
行いて洛陽を過ぐ。車騎輜重、王者に擬す。
昆弟妻嫂、目を側めて敢へて視ず、俯伏して侍して食を取る。
〔通釈〕
蘇秦は鬼谷先生を師として学んだ。初め故郷の洛陽を出て諸国に遊説したが。志を得ず困窮して帰ってきた。その時妻は秦を軽蔑して機織台から下りても来ず、兄嫁も秦のために飯をたいてもくれなかった。ところが今度は、六国同盟の長となり、六国同盟の長となり、六国の宰相を兼務する身となった。そして道すがら故郷の洛陽に立ち寄った。護衛の車馬、荷車は、王者のそれにまごうばかりであった。それを見た兄弟や妻や兄嫁は、恐れ入ってそっと横目で見てまともには見ず、うつむいて側にはべってお給仕をした。
(林秀一、十八史略・史記 漢書、1966年、81・82頁)
従って、
(02)(07)(08)により、
(09)
「目を側めて敢へて視ず」の「原文」は、
② 側目敢不視 ではなく、
③ 側目不敢視 でなければ、ならない。
然るに、
(10)
蘇秦者、師鬼谷先生。
初出游、困而歸。
妻不下機、嫂不爲炊。
至是、爲從約長、并相六國。
行過洛陽。車騎輜重、擬於王者。
昆弟妻嫂、側目不敢視、俯伏侍取食。
(林秀一、十八史略・史記 漢書、1966年、81頁)
従って、
(09)(10)により、
(11)
「敢て視ず」の「原文」は、
② 敢不視 ではなく、
不敢視 でなければ、ならず、尚且つ、果たして、
不敢視 である。
従って、
(06)(07)(11)により、
(12)
不敢 視=視ることは、  困難であるため、視ることが、     出来ない。
不敢不告=告げないことは、困難であるため、告げないといふことが、出来ない。
といふ、「意味」になる。
然るに、
(13)
④ 告げないといふことが、出来ない
といふことは、
④ 告げざるを、得ない
といふ、ことである。
従って、
(12)(13)により、
(14)
以吾從大夫之後、不敢不告也=
吾大夫の後に従へるを以もって、敢へて告げずんばあらざるなり=
私は大夫の末席につらなる者として、告げないことは、困難であるため、告げざるを得ない(論語、憲問第十四)。
といふ、「意味」になる。
平成30年07月28日、毛利太。

(a)『返り点と括弧』については、『「括弧」の「順番」(https://kannbunn.blogspot.com/2018/01/blog-post.html)』他をお読み下さい。
(b)『返り点』については、『「返り点」の「付け方」を教へます(https://kannbunn.blogspot.com/2018/01/blog-poslt_3.html)』他をお読み下さい。

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