2018年11月7日水曜日

兎は耳が長い(ので、兎は象ではない)。

(a)『返り点と括弧』については、『「返り点」と「括弧」(略8)(https://kannbunn.blogspot.com/2018/09/blog-post_17.html)』他もお読み下さい。
(b)『返り点』については、『「返り点」の「付け方」を教へます(https://kannbunn.blogspot.com/2018/01/blog-post_3.html)』他をお読み下さい。
(01)
new********さん2007/8/919:18:35
「象は鼻が長い」の主語は結局何なんでしょうか?
(02)
ベストアンサーに選ばれた回答
sid********さん 編集あり2007/8/1002:37:00
主語はありません。
「象は鼻が長い。」という文は、日本語という言語には主語は存在しないことを主張するために、三上章氏が使った例文のひとつです。
その趣旨を考えるなら、主語は存在しないのです。
「象の鼻が長いこと」を文にするとき、「象の鼻は長い。」という表現もできますが、「象」を主題にすれば「象は鼻が長い。」という文になります。
「象は」の助詞「は」は、文の題目を示すとともに、助詞「の」を兼務しています。
この「象は鼻が長い。」の文で、文の柱となるものは述語「長い」てあり、「象は」「鼻が」の両文節は、述語に対して同格の修飾語(連用修飾語)であると考えます。
三上文法は、英語・仏語などでの主語・述語の関係を日本語文法に当てはめる無理を批判し、日本語には英語のような強い力をもつ主語はないと主張しています。
これまで「主語」としてきた文節は、述語に対する修飾語のひとつであると考えます。
実際、そのように考えて作文をしてみると、かなり合理性を感じますよ。
主語がないからこそ、「象は鼻が長い。」の主語を特定する作業に無理があるのです。
然るに、
(03)
1     (1)象は鼻が長い。 A
1     (〃)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)} A
1     (〃)すべてのxについて、xが象であるならば、有るyはxの鼻であって長く、すべてのzについて、zがxの鼻でないならば、zは長くない。 A
 2    (2)兎の耳は長く、兎の耳は鼻ではない。              A
 2    (〃)∀x{兎x→∃y(耳yx&長y)&∀z(耳zx→~鼻zx)} A
 2    (〃)すべてのxについて、xが兎であるならば、有るyはxの耳であって長く、すべてのzについて、zがxの耳ならば、zはx鼻ではない。 A
  3   (3)有る兎は象である。                      A
  3   (〃)∃x(兎x&象x)                      A
  3   (〃)あるxは兎であって象である。                 A
1     (4)   象a→∃y(鼻ya&長y)&∀z(~鼻za→~長z)  1UE
 2    (5)   兎a→∃y(耳ya&長y)&∀z(耳za→~鼻za)  1UE
   6  (6)   兎a&象a                       A
   6  (7)   兎a                          6&E
   6  (8)      象a                       6&E
1  6  (9)      ∃y(鼻ya&長y)&∀z(~鼻za→~長z)  47MPP
 2 6  (ア)      ∃y(耳ya&長y)&∀z(耳za→~鼻za)  58MPP
1  6  (イ)      ∃y(鼻ya&長y)               9&E
 2 6  (ウ)      ∃y(耳ya&長y)               ア&E
    エ (エ)         鼻ba&長b                A
     オ(オ)         耳ba&長b                A
1  6  (カ)                 ∀z(~鼻za→~長z)  9&E 
 2 6  (キ)                 ∀z(耳za→~鼻za)  ア&E
1  6  (ク)                    ~鼻ba→~長b   カUE  
 2 6  (ケ)                    耳ba→~鼻ba   キUE
    オ (コ)                    耳ba        オ&E
 2 6オ (サ)                        ~鼻ba   ケコMPP
12 6オ (シ)                         ~長b   クコMPP
    オ (ス)             長b                オ&E
12 6オ (セ)             長b&~長b            シス&I
12 6  (ソ)             長b&~長b            ウオセEE
123   (タ)             長b&~長b            36ソEE
12    (チ)~∃x(兎x&象x)                     3タRAA
12    (ツ)∀x~(兎x&象x)                     チ量化子の関係
12    (テ)  ~(兎a&象a)                     ツUE
12    (ト)  ~兎a∨~象a                      テ、ド・モルガンの法則
12    (ナ)   兎a→~象a                      ト含意の定義
12    (ニ)∀x(兎x→~象x)                     ナUI
12    (〃)すべてのxについて、xが兎であるならば、xは象ではない。   ナUI
12    (〃)兎は象ではない。                       ナUI
∴     (〃)象は鼻が長く、兎の耳は長く、兎の耳は鼻ではない。ならば、兎は象ではない。12ニCP
従って、
(03)により、
(04)
1     (1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)} A
 2    (〃)∀x{兎x→∃y(耳yx&長y)&∀z(耳zx→~鼻zx)} A
ではなく、
1     (1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)} A
 2    (〃)∀x{兎x→∃y(耳yx&長y)&∀z(耳zx→~鼻zx)} A
であったとしても、
12    (ヌ)∀x(兎x→~象x)                     ナUI
12    (〃)兎は象ではない。                       ナUI
といふことには、ならない。
従って、
(03)(04)により、
(05)
「象は鼻が長く、兎の耳は長く、兎の耳は鼻ではない。」ならば「兎は象ではない。」
といふ「推論」を、「述語論理」を用ゐて行ふためには、
① 象は鼻が長い。
② ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}
に於いて、
①=② でなければ、ならない。
然るに、
(06)
1  (1)象は動物である。     A
1  (〃)∀x{象x→動物x}   A
1  (〃)すべてのxについて、xが象ならばxは動物である。 A
 2 (2)動物は植物でない。    A
 2 (〃)∀x{動物x→~植物x} A
 2 (〃)すべてのxについて、xが動物ならばxは植物ではない。 A
1  (3)   象a→  動物a  1UE
 2 (4)   動物a→~植物a  2UE
  5(5)   象a        A
1 5(6)       動物a   15MPP
125(7)      ~植物a   46MPP
12 (8)   象a→~植物a   57CP
12 (9)∀x{象x→~植物x}  8UI
12 (〃)すべてのxについて、xが象であるならば、xは植物ではない。 8UI
12 (〃)象は植物ではない。 8UI
∴  (〃)象は動物であって、動物は植物ではない。ならば、象は植物ではない。
従って、
(06)により、
(07)
「象は動物であって、動物は植物ではない。」ならば「象は植物ではない。」
といふ「推論」を、「述語論理」を用ゐて行ふためには、
③ 象は動物である。
④ ∀x{象x→動物x} 
に於いて、
③=④ でなければ、ならない。
従って、
(05)(07)により、
(08)
① 象は鼻が長い。
② ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}
③ 象は動物である。
④ ∀x{象x→動物x}
に於いて、
①=② ではなく、
③=④ ではないのであれば、
「象は鼻が長く、兎の耳は長く、兎の耳は鼻ではない。」ならば「兎は象ではない。」
「象は動物であって、動物は植物ではない。」ならば「象は植物ではない。」
といふ「推論」を、「述語論理」を用ゐて行ふことが、できない。
従って、
(08)により、
(09)
「述語論理」が、「日本語」に於いても、「有効」であるためには、
① 象は鼻が長い。
③ 象は動物である。
に於ける、
① 象は
③ 象は
といふ「それ」は、二つとも、
② ∀x{象x→
② ∀x{象x→
でなければ、ならない。
従って、
(09)により、
(10)
「述語論理」といふ「立場」からすれば、
① 象は鼻が長い。
③ 象は動物である。
に於ける、
① 象は
③ 象は
といふ「二つ」は、「同じもの」である。
然るに、
(11)
伝統論理学を速水滉『論理学』(016)で代表させよう。わたしのもっているのが四十三年の第十九冊一万部中の一冊で、なお引続き刊行だろうから、前後かなり多くの読者をもつ論理学書と考えられる。新興の記号論理学の方は、沢田充茂『現代論理学入門』(062)を参照することとする。(三上章、日本語の論理、1963年、4頁)
(12)
「象は鼻が長い」はどれが主辞がわからないから、このままでは非論理的な構造の文である、と言う人がもしあった(沢田『入門』二九ペ)とすれば、その人は旧『論理学』を知らない人であろう、これはこのままで、
 象は 鼻が長い。 
 主辞  賓辞
とはっきりしている。速水式に簡単明リョウである。意味も、主辞賓辞の関係も小学生にもわかるはずの文である。これに文句をつけたり、それを取り次いだりするのは、人々が西洋文法に巻かれていることを語る以外の何物でもない。このまま定理扱いしてもよろしい。そしてこの定理の逆は真でないとして、鼻の長いもの例に、鞍馬山の天狗だの、池の尾の禅珍内供だのを上げるのも一興だろう。それでおしまいである。
(三上章、日本語の論理、1963年、13・14頁)
従って、
(10)(11)(12)により、
(13)
「述語論理」といふ「立場」と、「三上章氏」の立場からすれば、
① 象は鼻が長い。
③ 象は動物である。
に於ける、
① 象は
③ 象は
といふ「それ」は、二つとも、「主辞」である。
然るに、
(14)
大辞林 第三版の解説
しゅじ【主辞
主語」に同じ。
従って、
(13)(14)により、
(15)
「述語論理」といふ「立場」と、「三上章氏」の立場と、「大辞林」の解説からすれば、
① 象は鼻が長い。
③ 象は動物である。
に於ける、
① 象は
③ 象は
といふ「それ」は、二つとも、「主語(主辞)」である。
平成30年11月07日、毛利太。

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