―「09月12日の記事」を書き直します。―
(01)
括弧は、論理演算子のスコープ(scope)を明示する働きを持つ。スコープは、論理演算子の働きが及ぶ範囲のことをいう。
(産業図書、数理言語学辞典、2013年、四七頁:命題論理、今仁生美)
(02)
漢文に於ける、括弧は、漢字のスコープ(管到)を明示する働きを持つ。管到は、漢字の意味が及ぶ範囲のことをいふ。
従って、
(02)により、
(03)
① 君子不{以[其所‐以〔養(人)〕者]害(人)}。
であれば、
① 不 の意味は、{以其所‐以養人者害人}に及んでゐて、
① 以 の意味は、[其所‐以養人者]に及んでゐて、
① 所‐以 の意味は、〔養人〕に及んでゐて、
① 養 の意味は、(人)に及んでゐて、
① 害 の意味は、(人)に及んでゐる。
然るに、
(04)
① 不{以其所‐以養人者害人}
に於いて、
① {以其所‐以養人者害人}は、
① 不 の「補足語」であって、
① 害(人)
に於いて、
① (人)は、
① 害 の「補足語」である。
従って、
(02)(03)(04)により、
(05)
① 君子不{以[其所‐以〔養(人)〕者]害(人)}。
に於ける「括弧」は、「管到の合成」である所の、「補足構造」を表してゐる。
然るに、
(06)
漢語における語順は、国語と大きく違っているところがある。すなわち、その補足構造における語順は、国語とは全く反対である。
(鈴木直治、中国語と漢文、1975年、二九六頁)
従って、
(05)(06)により、
(07)
① 君子不{以[其所‐以〔養(人)〕者]害(人)}。
に於いて、
不{ }→{ }不
以[ ]→[ ]以
所‐以〔 〕→〔 〕所‐以
養( )→( )養
害( )→( )害
といふ「倒置」を行ふと、
① 君子不{以[其所‐以〔養(人)〕者]害(人)}→
① 君子{[其〔(人)養〕所‐以者]以(人)害}不=
① 君子は{[其の〔(人を)養ふ所‐以の〕者を]以て(人を)害せ}不。
といふ「漢文訓読」が、成立する。
従って、
(07)により、
(08)
① 君子は{[其の〔(人を)養ふ所‐以の〕者を]以て(人を)害せ}不。
に於いて、「平仮名」を無視して、
不{ }←{ }不
以[ ]←[ ]以
所‐以〔 〕←〔 〕所‐以
養( )←( )養
害( )←( )害
② 君子不{以[其所‐以〔養(人)〕者]害(人)}。
といふ「漢文復文」が、成立する。
従って、
(03)~(08)により、
(09)
① 君子不以其所以養人者害人。
といふ「白文」を、或る人(例へば私)が、
① 君子は其の、人を養ふ所‐以の者を以て、人を害せ不。
といふ風に、「訓読」出来るのであれば、其の人は、
① 君子不以其所以養人者害人。
といふ「白文」の、
① 君子不{以[其所‐以〔養(人)〕者]害(人)}。
といふ「補足構造」を把握してゐる。
然るに、
(10)
① 君子は{[其の〔(人 を)養ふ所‐以の〕者を]以て(人 を)害せ}不。
② 君子は{[其の〔(人間を)養ふ所‐以の〕者を]以て(人 を)害せ}不。
③ 君子は{[其の〔(人 を)養ふ所‐以の〕者を]以て(人間を)害せ}不。
④ 君子は{[其の〔(人間を)養ふ所‐以の〕者を]以て(人間を)害せ}不。
従って、
(07)(10)により、
(11)
① 君子不以其所以養人者害人。
② 君子不以其所以養人間者害人。
③ 君子不以其所以養人者害人間。
④ 君子不以其所以養人間者害人間。
といふ「漢文」の「補足構造」は、
① { [ ‐ 〔 ( )〕 ] ( )}
② { [ ‐ 〔 ( )〕 ] ( )}
③ { [ ‐ 〔 ( )〕 ] ( )}
④ { [ ‐ 〔 ( )〕 ] ( )}
といふ「一通り」しか、無い。
然るに、
(12)
従って、
(11)(12)により、
(13)
① { [ ‐ 〔 ( )〕 ] ( )}
② { [ ‐ 〔 ( )〕 ] ( )}
③ { [ ‐ 〔 ( )〕 ] ( )}
④ { [ ‐ 〔 ( )〕 ] ( )}
といふ「一通り」に対して、「漢文訓読の返り点に括弧を導入して構造化する試み」の場合は、
① v( v( ( )v( v ) ) v )
② v( v( ( )v( v( ) ) v )
③ v( v( ( )v( v ) ) v( ))
④ v( v( ( )v( v( ) ) v( ))
といふ「四通り」である。
(14)
「返り点に対する括弧の用法(このブログ)」を、「用法」とし、
「漢文訓読の返り点に括弧を導入して構造化する試み」を「試み」とする。
(15)
(a)「試み」は、「丸括弧」だけを用ゐるが、「用法」は、さうではない。
(b)「用法」が、「ハイフン」用ゐるの所を、「試み」は、「括弧」を用ゐる。
(c)「用法」は「一字の補語」と「二字以上の補語」を区別しないが、「試み」はさうではない。
(16)
(a)に関しては、
① ( ( ‐ ( ( )) ) ( ))
② ( ( ‐ ( ( )) ) ( ))
③ ( ( ‐ ( ( )) ) ( ))
④ ( ( ‐ ( ( )) ) ( ))
といふ「用法」があっても良いため、「本質的な違ひ」ではない。
(17)
「用法」の場合は、
⑤ 訓‐読(漢文) =(漢文を)訓‐読す。
であるのに対して、
「試み」の場合は、(b)であるため、
⑤(訓読)v(漢文)=(漢文を)(訓読す)。
である。
従って、
(17)により、
(18)
「試み」は、「補足語」以外にも、「括弧」が付く。
(19)
「用法」の場合は、
⑥ 読(書) =(書を)読む。
⑦ 読(漢文)=(漢文を)読む。
であるのに対して、
「試み」の場合は、(c)であるため、
⑥ 読v書 = 書を読む。
⑦ 読v(漢文)=(漢文を)読む。
である。
然るに、
(20)
⑥ 我読書 =SVO(英語第3文型)
⑦ 我読漢文=SVO(英語第3文型)
であるため、
⑥ 読書 =VO
⑦ 読漢文=VO
である。
従って、
(19)(20)により、
(21)
「試み」の場合は、
(c)「一字の補語」と「二字以上の補語」を区別する。が故に、
⑥ 読書 =VO
⑦ 読漢文=VO
に対して、
⑥ 読v書。
⑦ 読v(漢文)。
といふ、「二通り」が有ることになる。
然るに、
(22)
⑥ 読v書。
⑦ 読v(漢文)。
ではなく、
⑥ 読v(書)。
⑦ 読v(漢文)。
であっても、「支障」はない。
従って、
(22)により、
(23)
① 君子不v(以v(其(所以)v(養v人)者)害v人)。
ではなく、
① 君子不v(以v(其(所以)v(養v(人))者)害v(人))。
であっても、「支障」はない。
然るに、
(24)
① 君子不v(以v(其(所以)v(養v(人))者)害v(人))。
に於いて、
① (所以)
を、
① 所‐以
に替へて、
① 君子不v(以v(其 所‐以v(養v(人))者)害v(人))。
としたとしても、「支障」はない。
然るに、
(25)
① 君子不v(以v(其 所‐以v(養v(人))者)害v(人))。
であれば、「レ点の位置」は、常に、「( )の左」である。
従って、
(25)により、
(26)
① 君子不(以(其 所‐以(養(人))者)害(人))。
であったとしても、「レ点が有った位置」を見失ふことはない。
従って、
(16)(23)~(26)により、
(27)
① 君子不v(以v(其(所以)v(養v人)者)害v人)。
といふ「試み」は、
① 君子不(以(其 所‐以(養(人))者)害(人))。
といふ「用法」に、「書き換へ」ることが出来る。
(28)
⑧ 非v不v欲v(捕取)v(鳥雀) =鳥雀を捕取せんと欲っせざるに非ず。
⑨ 非{不[欲〔捕‐取(鳥雀)〕]}=鳥雀を捕取せんと欲っせざるに非ず。
に於いて、
⑧ は「試み」であって、
⑨ は「用法」である。
然るに、
(29)
⑨ 非{不[欲〔捕‐取(鳥雀)〕]}。
であれば、
⑨「二重否定」といふ「構造」を表してゐるのに対して、
⑧ 非v不v欲v(捕取)v(鳥雀)。
であれば、ただ単に、「逆から読む」といふ「順番」を表してゐるに、過ぎない。
平成28年09月15日、毛利太。
―「関連記事」―
(a)「レ点」は要らない。「括弧」があれば、「返り点」も要らない。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_22.html)
(b)「括弧」は「返り点」の「代用」ではない。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/01_25.html)
(c)「一二点」だけでは、「読みにくい」。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_26.html)
(d)「(レ点を含む)返り点」は、「構造(syntax)」を表してゐない。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/syntax.html)
(e)「括弧と返り点」で表すこと出来る「訓読」の「順番」。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/08/blog-post_31.html)
(f)「括弧」の読み方。(http://kannbunn.blogspot.com/2016/09/blog-post.html)
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