2014年12月21日日曜日

ギリシャ語訓読(其の弐)

(01)
                  (ΑΥΤΟΥ)=(彼の)
          〔ΛΟΓΟΝ(ΑΥΤΟΥ)〕=〔(彼の)言葉を〕
     ΛΕΓΕΙ〔ΛΟΓΟΝ(ΑΥΤΟΥ)〕=〔(彼の)言葉を〕言ふ。
ΟΥ[ΛΕΓΕΙ〔ΛΟΓΟΝ(ΑΥΤΟΥ)〕]=[〔(彼の)言葉を〕言は]ない。
に於いて、
   (彼の)
 〔(彼の)言葉を〕
 〔(彼の)言葉を〕言ふ
[〔(彼の)言葉を〕言は]ない。
は、「右側に伸びてゐる」が故に、「前進的(支配)」であると言ひ、
           (アウトゥ)
      〔ロゴン(アウトゥ)〕
    レゲイ〔ロゴン(アウトゥ)〕
ウー[レゲイ〔ロゴン(アウトゥ)〕]
は、「左側に伸びてゐる」が故に、「後進的(支配)」であると言ふ。
加へて、
(02)
ウー[レゲイ〔ロゴン(アウトゥ)〕]:[〔(彼の)言葉を〕言は]ない。
は、「左右対称(シンメトリー)」であるが故に、「鏡像(mirror image)的な関係」であると言ふ。
然るに、
(03)
例えば「使徒が言葉を言う」(an apostle says a word)という文は、ギリシャ語では通常 ΑΠΟΣΤΟΛΟΣ ΛΕΓΕΙ ΛΟΓΟΝ である。だが ΛΕΓΕΙ ΑΠΟΣΤΟΛΟΣ ΛΟΓΟΝ も、ΛΟΓΟΝ ΛΕΓΕΙ ΑΠΟΣΤΟΛΟΣ も共に全く可能である。だから和訳、英訳は、共に順序でなく、語尾を観察することによって決定しなければならない(J.グレシャム・メイチェン、新約聖書ギリシャ語原典入門、1967年、29頁)。
従って、
(03)により、
(04)
① APOSTLE ウー[レゲイ〔ロゴン(アウトゥ)〕].
② ウー[レゲイ〔APOSTLE ロゴン(アウトゥ)〕].
に於いて、
① は、「SVO(主語+動詞+目的語)」であり、
② は、「VSO(動詞+主語+目的語)」である。
従って、
(05)
① APOSTLE ウー[レゲイ〔ロゴン(アウトゥ)エン(テー エックレーシア)〕].
② ウー[レゲイ〔APOSTLE ロゴン(アウトゥ)エン(テー エックレーシア)〕].
に於いて、
① は、「SVO型」であり、
② は、「VSO型」である。
従って、
(06)
① APOSTLE NOT[SAY〔WORD(HIS)IN(THE CHURCH)〕].
② NOT[SAY〔APOSTLE WORD(HIS)IN(THE CHURCH)〕].
に於いて、
① は、「SVO型」であり、
② は、「VSO型」である。
然るに、
(07)
動詞が文頭に立つVSO型と動詞が常に文末尾に置かれる「厳格な」SOV型は、その統語型が正に鏡像(mirror image)的な関係に立つと見られる。ちなみに、日本語は前進的支配が驚くほど首尾一貫した「厳格な」(S)OV型の言語である。この意味で日本語はもろもろの言語の統語型の特性を判別するための尺度として最適の言語であると言ってよかろう。たとえば、英語は、基本的に配列型はS‐V‐Oで日本語とは逆になるが、Jhon’s book「ジョンの本」、an interesting book「面白い本」などのように、日本語と語順が一致する場合もある。ということは、英語の統語型がそれだけ不整合(inconsistency)を内臓していることを意味している(松本克己、世界言語への視座、2006年、132・133頁)。
従って、
(01)~(07)により、
(08)
① APOSTLE NOT[SAY〔WORD(HIS)IN(THE CHURCH)〕].
② NOT[SAY〔APOSTLE WORD(HIS)IN(THE CHURCH)〕].
③ 使徒は、彼の言葉を、その教会の中で、言はない。
に於いて、
① の「語順」は、「SVO型」であって、
② の「語順」は、「VSO型」であって、
③ の「語順」は、「SOV型」である。
然るに、
(09)
① APOSTLE NOT[SAY〔WORD(HIS)IN(THE CHURCH)〕]⇒
① APOSTLE [〔(HIS)WORD(THE CHURCH)IN〕SAY]NOT=
① 使徒は [〔(彼の)言葉を(その教会)の中で〕言は]ない=
③ 使徒は、彼の言葉を、その教会の中で、言はない。
であって、尚且つ、
② NOT[SAY〔APOSTLE WORD(HIS)IN(THE CHURCH)〕]⇒
② [〔APOSTLE (HIS)WORD(THE CHURCH)IN〕SAY]NOT=
② [〔使徒は(彼の)言葉を(その教会)の中で〕言は]ない=
③ 使徒は、彼の言葉を、その教会の中で、言はない。
従って、
(07)(08)(09)により、
(10)
①「或る言語A」と、
②「或る言語B」が、
① APOSTLE NOT[SAY〔WORD(HIS)IN(THE CHURCH)〕].
② NOT[SAY〔APOSTLE WORD(HIS)IN(THE CHURCH)〕].
のやうな、
①「典型的な、SVO型言語」であるか、
②「典型的な、VSO型言語」であるならば、
それらの「言語」に対しては、『「括弧」を用いた「訓読」』が「可能」である。といふことになる。
然るに、
(11)
Dryer (2011a) は世界1377の言語を調べ、可能な語順が複数ある場合には使用頻度によって基本語順を決めた。この調査によれば、SOV型が一番多く565言語、次いでSVO型が488言語であった。他の4つのタイプはいずれも100言語以下で、VSO型が95言語、VOS型が25、OVS型が11、OSV型が4であった。同じくらいよく使われる語順が二つ以上ある言語は189あり、これらは頻度によって基本語順を決定できないため分類からは除かれている。
SOV型 - 日本語、琉球語、アイヌ語、アルタイ諸語、インド・イラン語派、ドラヴィダ語族、チベット・ミャンマー語派、ニヴフ語、ウィルタ語、ブルーシャスキー語、パーリ語、朝鮮語、アムハラ語、エスキモー語、チュクチ語、テュルク諸語、アイマラ語、ケチュア語、ナバホ語、ホピ語、バスク語、シュメール語、アッカド語、ヒッタイト語、エラム語など。
SVO型 - 英語、フランス語、中国語(広東語などの諸方言や漢文を含む)、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、カタルーニャ語、ルーマニア語、ブルガリア語、現代ギリシア語、デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、タイ語、ラーオ語(ラオス語)、ベトナム語、ジャワ語、インドネシア語、マレー語(マレーシア語)、クメール語(カンボジア語)、スワヒリ語、現代アラビア語諸方言、ハウサ語、ヨルバ語、グアラニー語、ナワトル語など。
VSO型 - 古典アラビア語、ヘブライ語、アラム語、フェニキア語、古代エジプト語、ゲエズ語、ゲール語、古典マヤ語、タガログ語、セブアノ語、イロカノ語、マオリ語など。
VOS型 - フィジー語など。
OVS型 - ヒシカリヤナ語など。
OSV型 - シャバンテ語など。
(ウィキペディア:語順)
従って、
(07)(10)(11)により、
(12)
SVO型 - 英語、フランス語、中国語(広東語などの諸方言や漢文を含む)、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、カタルーニャ語、ルーマニア語、ブルガリア語、現代ギリシア語、デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、タイ語、ラーオ語(ラオス語)、ベトナム語、ジャワ語、インドネシア語、マレー語(マレーシア語)、クメール語(カンボジア語)、スワヒリ語、現代アラビア語諸方言、ハウサ語、ヨルバ語、グアラニー語、ナワトル語など。
VSO型 - 古典アラビア語、ヘブライ語、アラム語、フェニキア語、古代エジプト語、ゲエズ語、ゲール語、古典マヤ語、タガログ語、セブアノ語、イロカノ語、マオリ語など。
にあって、「その言語」が、
①「典型的な、SVO型言語」であるか、
②「典型的な、VSO型言語」であるならば、
それらの「言語」に対しては、『「括弧」を用いた「訓読」』が「可能」である。といふことになる。
然るに、
(13)
④ V(SO).
⑤ O(V〔S)〕.
⑥ O(S)V.
に於いて、
⑤ (〔 )〕.
は、『括弧』ではない。
従って、
(14)
⑤ OVS型 - ヒシカリヤナ語など。
は、『「括弧」を用いた「訓読」』が「可能」ではない。
従って、
(15)
だからこそ、なおのこと、
⑤ OVS型 - ヒシカリヤナ語など。
は、絶対に、滅びてはならない。ものの、
その前に、このままでは、「漢文訓読」も、確実に、死に絶へむ。
平成26年12月21日、毛利太。
(16)
(15)
(05)於いて、
① アポストル ウー[レゲイ〔ロゴン(アウトゥ)エン(テー エックレーシア)〕].
② ウー[レゲイ〔アポストル ロゴン(アウトゥ)エン(テー エックレーシア)〕].
に於いて、
① は、「SVO型」であり、
② は、「VSO型」である。
としたのは、「ギリシャ語」では、両方が、可能である。といふことである。
然るに、
(16)
 Kretheus1 ekhei2 onaton3 paro4 morokwroi5 poimeinei6.
 クレーテウスは1 羊飼い6 モログロス5 から4 借地権を3 受け取る2.
 Kokalos1 apedoke2 elaiwon3 tosson4 Eumedei5.
 コーカロスは1 エウメーデスに5 これだけの4 オリーブを3 支払った2.
ここに見る配列型は日本語のそれと正反対、つまり完全に SVO型のそれである。このような統語型が紀元前
2千年のギリシャ語に現れたことは注目すべきである(ピュロス文書の年代はB.C.1200頃)この点で、ギリシ
ャ語はエーゲ海を挟んで東方小アジアのヒッタイト語とは著しい対照をなしている(松本克己、世界言語への視座、2006年、143頁)。
従って、
(16)により、
(17)
ギリシャ語は、4千年前から、基本的に、「漢文」と同じく、「SVO型」であることになり、だとすれば、
 Kretheus1 ekhei2{onaton3[paro4〔morokwroi5(poimeinei6)〕]}⇒
 Kretheus1 {[〔(poimeinei6)morokwroi5〕paro4]onaton3}ekhei2=
 クレーテウスは1 {[〔(羊飼い6)モログロス5〕から4]借地権を3}受け取る2.
といふ具合に、『「括弧」を用いた「訓読」』が、「ギリシャ語」に対して「可能」であることは、当然である。
平成26年12月21日、毛利太。

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