2018年6月20日水曜日

ヒルベルトの公理:Pならば(QならばPである)。

(a)『返り点と括弧』については、『「括弧」の「順番」(https://kannbunn.blogspot.com/2018/01/blog-post.html)』他をお読み下さい。
(b)『返り点』については、『「返り点」の「付け方」を教へます(https://kannbunn.blogspot.com/2018/01/blog-post_3.html)』他をお読み下さい。
(01)
ヒルベルトの演繹システムは、公理が多く、推論規則が少ないものです。そして、公理も、わけのわからない論理式となっています。例えば、
     P→(Q→P)(Pならば(QならばP))
という論理式が公理として設定されています。つまり、この論理式を出発点として演繹を行って良い。ということです。多くの人は、この論理式の意味を飲みこめないでしょう。
(小島寛之、証明と論理に強くなる、2017年、136頁)
然るに、
(02)
次に、命題論理の自然演繹の「公理」です。面白いことに「公理」は一つもありません。ここに自然演繹の大きな特徴があります。「出発点とする公理が何もないのに、いったいどうやって演繹するんだ」という疑問が湧いてくるでしょう。
(小島寛之、証明と論理に強くなる、2017年、140頁)
(03)
自然演繹には「仮定の解消」(最初に仮定しておいて、あとでなかったことにする)という手続きがあり、それがなかなか理解しづらいことです。自然演繹は「仮定の解消」のおかげで公理なしに演繹システムとなり得ており、その意味で「仮定の解消」は自然演繹の本質だと言っても過言ではありません。
(小島寛之、証明と論理に強くなる、2017年、144頁)
然るに、
(04)
     P→(Q→P)(Pならば(QならばP))
といふ「ヒルベルトの公理」に対する、「自然演繹」による「証明」は、次のやうになる。
(05)
(5)├ P→(Q→P) 
1       (1)  P      仮定
1       (2)  P∨~Q   1∨導入
 3      (3)  P      A
 3      (4) ~Q∨ P   3∨導入
  5     (5) ~Q      A
  5     (6) ~Q∨ P   5∨導入
1       (7) ~Q∨ P   23456∨除去
   8    (8)  Q&~P   仮定
    9   (9) ~Q      A
   8    (ア)  Q      &除去
   89   (イ) ~Q& Q   9ア&導入
    9   (ウ)~(Q&~P)  8イ背理法
     エ  (エ)     P   仮定
    8   (オ)    ~P   8&除去
    8エ  (カ)  P&~P   エオ&導入
     エ  (キ)~(Q&~P)  8カ背理法
1       (ク)~(Q&~P)  79ウエキ∨除去
      ケ (ケ)  Q      仮定
       コ(コ)    ~P   仮定
      ケコ(サ)  Q&~P   ケコ&導入
1     ケコ(シ)~(Q&~P)&
            (Q&~P)  クサ&導入
1     ケ (ス)   ~~P   コシ背理法
1     ケ (セ)     P   ス二重否定 
1       (ソ)   Q→P   ケセ条件法(仮定の解消)
        (タ)P→(Q→P)  1ソ条件法(仮定の解消)
然るに、
(06)
① P├ P
② P→ P
といふ「式」は、それぞれ、
① Pだから、Pである。
② Pならば、Pである。
といふ、「意味」である。
cf.
同一律(law of identity)
然るに、
(07)
① Pだから、Pである。
② Pならば、Pである。
に於いて、
① であれば、 Pである。が、
② であっても、Pである。とは、限らない。
従って、
(06)(07)により、
(08)
① Pだから、Pである。
② Pならば、Pである。
に於いて、
①≠② であって、
①=② ではない。
然るに、
(09)
① P├ P
② P→ P
に於いて、
① を、
② に、「書き換へ」ることを、「仮定の解消」といふ。
cf.
1(1)P   仮定
 (2)P→P 11条件法
従って、
(10)
① P├(Q→P)
② P→(Q→P)
に於いて、
① を、
② に、「書き換へ」ることも、「仮定の解消」である。
然るに、
(05)により、
(11)
1       (1)P        仮定
1       (ソ)   Q→P   ケセ条件法(仮定の解消)
        (タ)P→(Q→P)  1ソ条件法(仮定の解消)
であるものの、このことは、
① P├(Q→P):Pだから(QならばPである。)
② P→(Q→P):Pならば(QならばPである。)
に於いて、
① を、
② に、「書き換へ」ることに、相当する。
従って、
(01)(11)により、
(12)
① P├(Q→P):Pだから、QならばPである。
といふ「式」の、「仮定を解消」した「結果」が、
② P→(Q→P):Pならば、QならばPである。
といふ「ヒルベルトの公理」である。
然るに、
(13)
(a)
1  (1)  Q→ P   仮定
 2 (2)  Q&~P   仮定
 2 (3)  Q      2&E
12 (4)     P   13前件肯定
 2 (5)    ~P   2&除去
12 (6)  P&~P   45&導入
1  (7)~(Q&~P)  26背理法
(b)
1  (1)~(Q&~P)  仮定
 2 (2)  Q      仮定
  3(3)    ~P   仮定
 23(4)  Q&~P   23&導入
123(5)~(Q&~P)&
       (Q&~P)  14&導入
12 (6)   ~~P   35背理法
12 (7)     P   6二重否定
1  (8)  Q→ P   27条件法
従って、
(13)により、
(14)
①     Q→  P =QならばPである。
② ~(Q&~P)=QであってPでない。といふことはない。
に於いて、
①=② である。
然るに、
(15)
② QであってPでない。といふことはない。
といふのであれば、
② Qでない。
といふ場合については、何も、言ってゐない。
従って、
(14)(15)により、
(16)
① QならばPである。
といふのであれば、すなはち、
② QであってPでない。といふことはない。
といふのであれば、
② Qでない。
といふ場合については、
② Pである。
といふことを、「否定」しない。
従って、
(14)(15)(16)により、
(17)
① QならばPである。
といふ場合に、
① Qでない。
としても、
① Pでない。
といふことには、ならない。
従って、
(12)(17)により、
(18)
① P├ Q→P(Pだから、QならばPである。)
といふ「式」は、
① P├ Q→P(Pだから、Qであっても、Qでなくとも、Pである。)
といふ風に、「読むこと」が出来る。
従って、
(01)(18)により、
(19)
② Pならば、QならばPである。
といふ、「ヒルベルトの公理」は、
① Pだから、Qであっても、Qでなくとも、Pである。
としたら、
② Pならば、QならばPである。
といふ「意味」に、解することが出来る。
(20)
自然演繹論理のあるバージョンには、公理が存在しない。ジョン・レモンが開発した体系 L は、証明の構文規則に関する次のような9つの基本的規則だけを持つ。
1.仮定の規則         "The Rule of Assumption"       (A)
2.モーダスポネンス   "Modus Ponendo Ponens"         (MPP)
3.二重否定の規則   "The Rule of Double Negation"  (DN)
4.条件付き証明の規則 "The Rule of Conditional Proof"(CP)
5.&-導入の規則    "The Rule of &-introduction"  (&I)
6.&-除去の規則      "The Rule of &-elimination"   (&E)
7.∨-導入の規則      "The Rule of ∨-introduction"  (∨I)
8.∨-除去の規則      "The Rule of ∨-elimination"   (∨E)
9.背理法             "Reductio Ad Absurdum"      (RAA)
(ウィキペディア)
然るに、
(21)
ジョン・レモンが開発した体系 L には、
3.否定否定式(MTT)
も、含まれてゐるため、実際には、「9つの基本的規則」ではなく、「10個の基本規則(The 10 primitive rules)」とするのが、正しい。
然るに、
(21)
(a)
1  (1) P→ Q A
 2 (2)   ~Q A
  3(3) P    A
1 3(4)    Q 13MPP
123(5)~Q& Q 23&I
12 (6)~P    35RAA
1  (7)~Q→~P 26CP
(b)
1  (1) ~Q→~P A
 2 (2)     P A
  3(3) ~Q    A
1 3(4)    ~P 13MPP
123(5)  P&~P 24&I
12 (6)~~Q    35RAA
12 (7)  Q    67DN
1  (8)  P→ Q 27CP
(22)
(a)
1  (1) P→ Q A
 2 (2)   ~Q A
  3(3) P    A
12 (4)~P    12MTT
123(5)~P& P 34&I
12 (6)~P    35RAA
1  (7)~Q→~P 26CP
(b)
1  (1) ~Q→~P A
 2 (2)     P A
 2 (3)   ~~P 2DN
  4(4) ~Q    A
12 (5)~~Q    13MTT
12 (6)  Q    5DN
124(7)  Q&~Q 46&I
12 (8)~~Q    47RAA
12 (9)  Q    8DN
1  (ア)  P→ Q 29CP
従って、
(21)(22)により、
(23)
MPPは、MTTに、「置き換へ」ることが出来、
MTTは、MPPに、「置き換へ」ることが出来る。
従って、
(23)により、
(24)
MTTは原始的規則と解される必要はなく、他の規則から導出される規則としてえられる(E.J.レモン著、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、論理学初歩、78頁)し、MPPも、さうである。
然るに、
(25)
① 今日は水曜である。
② 今日は水曜であるか、明日は雨でない。
に於いて、
① が「本当(真)」ならば、
② も「本当(真)」である。
然るに、
(26)
① 今日は水曜である。従って、
② 今日は水曜であるか、明日は雨でない。
といふ「推論」を、「∨-導入の規則」といふ。
然るに、
(27)
「今日は水曜日である。従って、今日は水曜であるか、明日は雨でない。」
といふ「推論」を、「日常に於いて行ふ」ことは、「普通は、無い」。
然るに、
(05)により、
(28)
(5)├ P→(Q→P) 
1       (1)  P      仮定
1       (2)  P∨~Q   1∨導入
 3      (3)  P      A
 3      (4) ~Q∨ P   3∨導入
  5     (5) ~Q      A
  5     (6) ~Q∨ P   5∨導入
1       (7) ~Q∨ P   23456∨除去
   8    (8)  Q&~P   仮定
    9   (9) ~Q      A
   8    (ア)  Q      &除去
   89   (イ) ~Q& Q   9ア&導入
    9   (ウ)~(Q&~P)  8イ背理法
     エ  (エ)     P   仮定
    8   (オ)    ~P   8&除去
    8エ  (カ)  P&~P   エオ&導入
     エ  (キ)~(Q&~P)  8カ背理法
1       (ク)~(Q&~P)  79ウエキ∨除去
      ケ (ケ)  Q      仮定
       コ(コ)    ~P   仮定
      ケコ(サ)  Q&~P   ケコ&導入
1     ケコ(シ)~(Q&~P)&
            (Q&~P)  クサ&導入
1     ケ (ス)   ~~P   コシ背理法
1     ケ (セ)     P   ス二重否定 
1       (ソ)   Q→P   ケセ条件法(仮定の解消)
        (タ)P→(Q→P)  1ソ条件法(仮定の解消)
であれば、
1       (2)  P∨~Q   1∨導入
 3      (4) ~Q∨ P   3∨導入
  5     (6) ~Q∨ P   5∨導入
といふ「三つ」が、「∨-導入の規則」に、他ならない。
従って、
(01)(26)(28)により、
(29)
① 今日は水曜である。従って、
② 今日は水曜であるか、明日は雨でない。
といふやうな、「∨-導入の規則」を、認めないのであれば、
        (タ)P→(Q→P)  1ソ条件法(仮定の解消)
といふ「結論」、すなはち、
     P→(Q→P)(Pならば(QならばP))
といふ「ヒルベルトの公理」を、「自然演繹」では、「証明」出来ない。
従って、
(27)(28)(29)により、
(30)
「今日は水曜日である。従って、今日は水曜であるか、明日は雨でない。」
といふ「推論」は、「ナンセンス(無意味)」であるやうでゐて、それを認めない限り、
     P→(Q→P)(Pならば(QならばP))
といふ「ヒルベルトの公理」を、「自然演繹」では、「証明」出来ない。
平成30年06月21日、毛利太。

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