2017年11月9日木曜日

「ある参考書」の「(微妙な)誤訳」について。

(01)
① 欲数為姉煮粥=
① 欲〔数為(姉)煮(粥)〕⇒
① 〔数(姉)為(粥)煮〕欲=
① 〔数々(姉の)為に(粥を)煮んと〕欲す=
① しばしば姉のために粥を煮てあげようと思った(小学)。
然るに、
(02)
① 欲〔数為(姉)煮(粥)〕。
であれば、
① 数=しばしば
といふ「副詞」は、
① 欲=Want
ではなく、
①「名詞節」の中の、
① 為姉
といふ「副詞句」を「修飾」してゐる。
従って、
(01)(02)により、
(03)
① 欲〔数為(姉)煮(粥)〕。
であれば、
① しばしば姉のために粥を煮てあげようと思った(小学)。
に於ける、
①「欲す」の「回数」は、「数回」ではなく、「一回」である。
然るに、
(04)
② 数欲為姉煮粥=
② 数欲〔為(姉)煮(粥)〕⇒
② 数〔(姉)為(粥)煮〕欲=
② 数々〔(姉の)為に(粥を)煮んと〕欲す=
② しばしば姉のために粥を煮てあげようと思った(作例)。
然るに、
(05)
② 数欲〔為(姉)煮(粥)〕。
の場合は、
② 数=しばしば
といふ「副詞」は、
② 欲=Want
といふ「他動詞」を「修飾」してゐる。
従って、
(04)(05)により、
(06)
② 数欲〔為(姉)煮(粥)〕。
であれば、
② しばしば姉のために粥を煮てあげようと思った(作例)。
に於ける、
②「欲す」の「回数」は、「一回」ではなく、「数回」である。
従って、
(03)(06)により、
(07)
① 欲〔為(姉)煮(粥)〕。
欲〔為(姉)煮(粥)〕。
といふ「漢文」に対する、
① しばしば姉の為に粥を煮んと欲す。
② しばしば姉の為に粥を煮んと欲す。
といふ「訓読」からは、
①「欲す」の「回数」が、「回」なのか、
②「欲す」の「回数」が、「回」なのが、「分からない」。
従って、
(07)により、
(08)
③ 請(出自致)。
請(出自致)。
といふ「漢文」に対する、
に対する、
③ しばしば出でて自ら致さんことを請ふ。
④ しばしば出でて自ら致さんことを請ふ。
といふ「訓読」からも、
③「請ふ」の「回数」が、「回」なのか、
④「請ふ」の「回数」が、「回」なのかが、「分からない」。
然るに、
(09)
(A)常不油 (全部否定)
(B)不常得一レ油(部分否定)
この例は次のように下から返読してその意味をはっきりさせることができる。
(A)常油(油ヲ得ザルコト常ナリ)
(B)不油(油ヲ得ルコト常ナラズ)
(原田種成、私の漢文講義、1995年、156頁)
従って、
(07)(08)(09)により、
(10)
② 数欲〔為(姉)煮(粥)〕。
④ 数請(出自致)。
であれば、
② 数[欲〔為(姉)煮(粥)〕]。
④ 数〔請(出自致)〕。
とすることによって、
② 姉の為に粥を煮んと、欲すること、しばしばなり。
④ 出でて自ら致さんと、請ふこと、 しばしばなり。
といふ風に、「読む」ことが出来る。
従って、
(08)(10)により、
(11)
③ 請(数出自致)。
④ 数〔請(出自致)〕。
に対する「訓読」は、
③ (しばしば出でて自ら致さんこと)を請ふ。
④ 〔出でて自ら致さんと、請ふこと〕しばしばなり。
である。
従って、
(11)により、
(12)
③ 請(数出自致)。
④ 数〔請(出自致)〕。
に対する「和訳」は、
③ (何度でも外に出て自分でやりたい)と頼んだ。
④ 〔外に出て自分でやりたい〕と、何度も頼んだ。
である。
然るに、
(13)
④ 〔外に出て自分でやりたい〕と、何度も頼んだ。
といふことと、
何度も、〔外に出て自分でやりたい〕と頼んだ。
といふことは、「同じ」である。
従って、
(12)(13)により、
(14)
③ 請(数出自致)。
④ 数〔請(出自致)〕。
に対する「和訳」は、
③ (何度でも外に出て自分でやりたい)と頼んだ。
④ 何度も、〔外に出て自分でやりたい〕と頼んだ。
である。
然るに、
(15)
⑤ 数出請自致=
⑤ 数出請(自致)⇒
⑤ 数出(自致)請=
⑤ しばしば出でて(自ら致さんと)請ふ。
従って、
(15)により、
(16)
⑤ 数出(請自致)。
に対する「和訳」は、
⑤ 何度も外に出て、(自分でやりたい)と頼んだ。
である。
従って、
(14)(16)により、
(17)
③ 請(数出自致)。
④ 数〔請(出自致)〕。
⑤ 数出(請自致)。
に対する「和訳」は、
③ (何度でも外に出て自分でやりたい)と頼んだ。
何度も、〔外に出て自分でやりたい〕と頼んだ。
何度も外に出て、(自分でやりたい)と頼んだ。
である。
然るに、
(17)により、
(18)
③ (何度でも外に出て自分でやりたい)と頼んだ。
④ 何度も、〔外に出て自分でやりたい〕と頼んだ。
であれば、
③     (外に出て)は、「頼んだ、内容」であって、
④     〔外に出て〕も、「頼んだ、内容」である。
従って、
(18)により、
(19)
③ (何度でも外に出て自分でやりたい)と頼んだ。
④ 何度も、〔外に出て自分でやりたい〕と頼んだ。
であれば、
③ 実際に、(外に出た)わけではないし、
③ 実際に、〔外に出た〕わけではない
然るに、
(20)
⑤ 何度も外に出て、(自分でやりたい)と頼んだ。
であれば、実際に、
何度も外に出てその上で、(自分でやりたい)と頼んだ。
といふ、ことになる。
従って、
(17)~(20)により、
(21)
③ 請(数出自致)。
④ 数〔請(自致)〕。
⑤ 数(請自致)。
に対する、
③ (何度でも外に出て自分でやりたい)と頼んだ。
④ 何度も、〔外に出て自分でやりたい〕と頼んだ。
⑤ 何度も外に出て、(自分でやりたい)と頼んだ。
といふ「三つの和訳」は、「三つとも、同じ意味」ではない
従って、
(22)
④ 数請自致(宋史列伝)。
⑤ 数請自致(私の作例)。
に於いて、
何度も、外に出て自分でやりたいと頼んだ。
何度も外に出て、自分でやりたいと頼んだ。
といふ「二つの和訳」は、「同じ意味」ではない
従って、
(22)により、
(23)
④ 数請自致(宋史列伝)。
に対する、
何度も外に出て、自分でやりたいと頼んだ。
といふ「和訳」は、「誤訳」となる。
然るに、
(24)
しかし、あれこれ説明しても「ワカラヘン」奴ばかり。そこでええいと思いきって黒板に大書した。「キンタマケルナ」と。右の文に正しく句読点をつけよ、と前へひっぱり出してチョークを持たせた。ところがどいつもこいつもマチガイ。正解は、「金太、負けるな」であるぞ。句読点の大切さを頭にタタキコメ。
(二畳庵主人、漢文法基礎、1984年、80頁)
従って、
(22)(23)(24)により、
(25)
④ 数請自致(宋史列伝)。
に対する、
④ 何度も、外に出て自分でやりたいと頼んだ。
⑤ 何度も外に出て、自分でやりたいと頼んだ。
⑥ 何度も外に出て自分でやりたいと頼んだ。
の場合は、
④ 金太負けるな。
に対する、
④ キンタ、マケルナ。
⑤ キンタマ、ケルナ。
⑥ キンタマケルナ。
に「相当」する。
従って、
(23)(24)(25)により、
(26)
④ 数請出自致(宋史列伝)。
に対する、
何度も、外に出て自分でやりたいと頼んだ。
何度も外に出て、自分でやりたいと頼んだ。
何度も外に出て自分でやりたいと頼んだ。
といふ「和訳」の中で、「唯一、正しい」のは、
何度も、外に出て自分でやりたいと頼んだ。
でなければ、ならない。
然るに、
(27)
 数請出自致、輒不許。
[よみ]数々出でて致さんことを請うも、輒ち許さず。
[訳]何度も外に出て自分でやりたいと頼んだが、そのたびごとに許さなかった。
(教学社、風呂で覚える漢文、1998年、97頁)
従って、
(13)(26)(27)により、
(28)
[訳]何度も外に出て自分でやりたいと頼んだが
[訳]何度も外に出て、自分でやりたいと頼んだが
ではなく、
[訳]何度も、外に出て自分でやりたいと頼んだが
[訳]外に出て自分でやりたいと、何度も頼んだが
でなければ、ならない。
平成29年11月09日、毛利太。
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請以十五城易之(https://kannbunn.blogspot.com/2017/11/blog-post_11.html)。

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