2021年10月10日日曜日

「兎不可復得(守株)」について。

(01)
① 不甚善
① 不(甚善)⇒
① (甚善)不=
① (甚だしく善か)ら不。
(02)
② 甚不善⇔
② 甚不善⇔
② 甚不(善)⇒
② 甚(善)不=
② 甚だ(善から)不。
然るに、
(03)
つまり、「否定語+副詞」のときはその副詞をふくめた内容が否定されるので、否定されることがらが副詞によって修飾されて部分的に限定されることになる。
逆に「副詞+否定詞」のときは、副詞が不定語を修飾することになるので、否定されることがらは否定語の下におかれた全般にわたることになる。
(旺文社、漢文の基礎、1973年、73頁)
従って、
(01)(02)(03)により、
(04)
「漢文訓読」といふ「語法」からすれば、
①(甚だしく、善から)不。
②  甚だ(善から)不。
に於いて、
①(大変、善い)とまでは、言へない。
② 大変(、善くない)。
である。
従って、
(04)により、
(05)
①(甚だしく、善から)不。
②  甚だ(、善から)不。
に於いて、
① それなりに、善い。
② とても、善くない。
である。
従って、
(05)により、
(06)
①(驚くほど、上手く)ない。
②  驚くほど、(上手く)ない。
に於いて、
それなりに、上手いが、驚くほどではない。
② とても、下手で、驚いてしまふ。
である。
然るに、
(07)
①(アマチュアである、あなたの演奏は)それなりに、上手いが、驚くほどではない。
②(アマチュアである、あなたの演奏は)とても、下手で、驚いてしまふ。
に於いて、
② のやうに言はれれば、「傷付く」であらうが、
① のやうに言はれても、「傷付く」ことは、ないはずである。
然るに、
(08)
私の場合は、私よりも一つ年上の女性に対して、
②(あなたの演奏は、)驚くほど、上手くない。
とは言はず、
①(あなたの演奏は、)驚くほど上手くない。
と言ったところ、『ものすごい剣幕で、怒られた』といふことを、経験してゐる。
然るに、
(09)
ひとりの人間の発達史において、文系・理系の区分が初めて明確に意識されるようになるのは、一般には大学受験に備える高校の高学年からである。[12]しかしながら、大学受験という一回のチャンスに人生が大きく影響されるという考えが根強い日本では、幼いころから「この子は算数や理科が得意だから理系」「この子は社会や国語を好むから文系」などと言われるようである。
(ウィキペディア)
然るに、
(10)
その方は、「理系の高校生」であったため、「文系の高校生」であった、私ほどには、「漢文」を、勉強していなかったに違ひない。
従って、
(04)(07)(10)により、
(11)
「漢文の語法」といふ「日本語の語法」に従って、
①(アマチュアである、あなたの演奏は)それなりに、上手いが、驚くほどではない。
と、私が、発言したにも拘はらず、
②(アマチュアである、あなたの演奏は)とても、下手で、驚いてしまふ。
といふ「意味」に、「誤解」してしまひ、その「結果」として、その女性は、『ものすごい剣幕で、怒られた』のではないのか。
といふ風に、私自身は、思ってゐる。
(12)
 守株(韓非子)
〔返り点〕
① 宋人有 耕田者
② 田中有株、兎走觸株、折頸而死。
③ 因釋其耒而守株、冀復得一レ兎。
④ 兎不復得、而身爲宋國笑
⑤ 今、欲先王之政、治當世之民、皆守株之類也。
〔括弧〕
① 宋人有〔耕(田)者〕。
② 田中有(株)、兎走觸(株)、折(頸)而死。
③ 因釋(其耒)而守(株)、冀〔復得(兎)〕。
④ 兎不〔可(復得)〕、而身爲(宋國笑)。
⑤ 今欲〔以(先王之政)、治(當世之民)〕、皆守(株)之類也。
〔訓読〕
① 宋人に〔(田を)耕す者〕有り。
② 田中に(株)有り、兎走りて(株に)觸れ、(頸を)折りて死す。
③ 因りて(其の耒を)釋てて(株を)守り、〔復た(兎を)得んことを〕冀ふ。
④ 兎〔(復た得)可から〕ずして、身は(宋國の笑ひと)爲れり。
⑤ 今〔(先王之政)以て、(當世之民)治〕欲、皆(株)守の類なり。
〔通釈〕
① 宋の国の人で、畑を耕作しているものがあった。
② 畑の中に、木の切り株があって、兎が走ってきて、切り株に突っ込み、首の骨を折って死んだ。
③ そこで、畑を耕作しているものは、耒を手放し、株を見守り、もう一度、兎を手に入れるたいものだと、願った。
④ 兎は、二度とは、手に入らず、その人は、宋の国の、笑い者になった。
⑤ 昔の聖王の行なった政治によって、今の国民を治めようとすることは、すべて、このような話と、同じことである。
(13)
④ 兎不〔可(復得)〕。
⑭ 兎復不〔可(得)〕。
であれば、「訓読の語順」は、両方とも、
④ 兎〔(復得)可〕不。
⑭ 兎復〔(得)可〕不。
である。
従って、
(13)により、
(14)
④ 兎不〔可(復得)〕。
⑭ 兎復不〔可(得)〕。
であれば、
④ 兎、復た、得べからず。
⑭ 兎、復た、得べからず。
となって、「訓読」すれば、「区別」が無い。
然るに、
(03)(13)(14)により、
(15)
④ 兎不〔可(復得)〕。
⑭ 兎復不〔可(得)〕。
に於いて、それぞれ、
④ 兎を、「2度得る」ことは、出来なかった。    ⇒「兎を、1度、得ること」が出来た
⑭ 兎を、「得ること出来ない」ことが、2度、続いた。⇒「兎を、1度、得ること」が出来なかった
である。
従って、
(14)(15)により、
(16)
④ 兎不〔可(復得)〕。
⑭ 兎復不〔可(得)〕。
であれば、
④ 兎、復た、得べからず。
⑭ 兎、復た、得べからず。
となって、「訓読」すれば、「区別」が無いが、
④ 兎を、一度、得ることが出来た
⑭ 兎を、一度、得ることが出来なかった
となるため、「命題」としては、
④=⑭ ではない
従って、
(03)(16)により、
(17)
④ 兎不可復得。
⑭ 兎復不可得。
といふ「漢文」の、
④ 兎不〔可(復得)〕。
⑭ 兎復不〔可(得)〕。
といふ「括弧」は、極めて、「重要」である。
令和03年10月10日、毛利太。

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