(01)
さて次の論証を考えてみよう(これはQuine〔17〕の翻案である)。
(ⅰ)スミスと門衛のみが合言葉を知っていた。
(ⅱ)合言葉を知っていたある者が銃を盗んだ。
(ⅲ)故に、スミスかあるいはその門衛が銃を盗んだ。
これは明らかに健全である。
(E.J.レモン著、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、論理学初歩、1973年、209頁改)
従って、
(01)により、
(02)
(ⅰ)スミスとジョンソンと門衛のみが合言葉を知っていた。
(ⅱ)合言葉を知っていたある者が銃を盗んだ。
(ⅲ)然るに、スミスとジョンソンは盗んでいない(アリバイが有る)。
(ⅳ)従って、門衛が銃を盗んだ。
といふ「推論」も、明らかに、健全である。
然るに、
(03)
K=合言葉を知ってゐた。
S=銃を盗んだ。
s=スミス。
j=ジョンソン。
g=門衛。
とする。
然るに、
(04)
1 (1)∀x(Kx→x=s∨x=j∨x=g) A
2 (2)∃x(Kx&Sx) A
3 (3) ~Ss&~Sj A
4 (4) Ka&Sa A
4 (5) Ka 4&E
4 (6) Sa 4&E
1 (7) Ka→a=s∨a=j ∨a=g 1UE
1 4 (8) a=s∨a=j ∨a=g 57MPP
1 4 (9) (a=s∨a=j)∨a=g 8結合法則
ア (ア) (a=s∨a=j) A
イ (イ) a=s A
4 イ (ウ) Ss 6イ=E
4 イ (エ) Ss∨Sj ウ∨I
4 イ (オ) Ss∨Sj∨Sg エ∨I
カ (カ) a=j A
4 カ (キ) Sj 6カ=E
4 カ (ク) Ss∨Sj キ∨I
4 カ (ケ) Ss∨Sj∨Sg ク∨I
4 (コ) Ss∨Sj∨Sg アイオカケ∨E
4 サ(サ) a=g A
4 サ(シ) Sg 6サ=E
4 サ(ス) Sj∨Sg シ∨I
4 サ(セ) Ss∨Sj∨Sg ス∨I
1 4 (ソ) Ss∨Sj∨Sg 9アコサセ∨E
12 (タ) Ss∨Sj∨Sg 24ソEE
12 (チ) (Ss∨Sj)∨Sg タ結合法則
12 (ツ) ~~(Ss∨Sj)∨Sg チDN
12 (テ) ~(Ss∨Sj)→Sg ツ含意の定義
3 (ト) ~(Ss∨Sj) 3ド・モルガンの法則
123 (ナ) Sg テトMPP
従って、
(04)により、
(05)
∀x(Kx→x=s∨x=j∨x=g),∃x(Kx&Sx),~Ss&~Sj├ Sg
といふ「連式」は「妥当」である。
従って、
(03)(04)(05)により、
(06)
(ⅰ)∀x(Kx→x=s∨x=j∨x=g)
(ⅱ)∃x(Kx&Sx)
(ⅲ)~Ss&~Sj
(ⅳ) Sg
といふ「推論」、すなはち、
(ⅰ)すべてのxについて(xが合言葉を知ってゐたならば、xはスミスか、ジョンソンか、門衛である)。然るに、
(ⅱ)あるxは(合言葉を知ってゐたし、銃を盗んだ)。然るに、
(ⅲ)スミスは銃を盗んでゐないし、ジョンソンも銃を盗んでいない。従って、
(ⅳ)銃を盗んだのは門衛である。
といふ「推論」は、「妥当」である。
従って、
(02)(06)により、
(07)
(ⅰ)スミスとジョンソンと門衛のみが合言葉を知っていた。
(ⅱ)合言葉を知っていたある者が銃を盗んだ。
(ⅲ)然るに、スミスとジョンソンは盗んでいない(アリバイが有る)。
(ⅳ)従って、門衛が銃を盗んだ。
といふ「推論」は、『述語論理』としても、「妥当」である。
従って、
(05)(06)(07)により、
(08)
P=スミスとジョンソンと門衛のみが合言葉を知っていた。
Q=合言葉を知っていたある者が銃を盗んだ。
R=スミスとジョンソンは盗んでいない(アリバイが有る)。
S=門衛が銃を盗んだ。
とするならば、
P,Q,R├ S
であるものの、
① ∀x(Kx→x=s∨x=j∨x=g),∃x(Kx&Sx),~Ss&~Sj├ Sg
② P,Q,R├ S
に於いて、
① は、『述語論理』として 「妥当(valid)」 であるが、
② は、『命題論理』として「不妥当(invalid)」である。
従って、
(07)(08)により、
(09)
例へば、
(ⅰ)スミスとジョンソンと門衛のみが合言葉を知っていた。
(ⅱ)合言葉を知っていたある者が銃を盗んだ。
(ⅲ)然るに、スミスとジョンソンは盗んでいない。
(ⅳ)従って、門衛が銃を盗んだ。
といふ「推論」の「妥当性」は、『命題論理』では「証明」出来ない。
令和6年1月10日、毛利太。
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