(01)
さて次の論証を考えてみよう(これはQuine〔17〕の翻案である)。
(12)スミスとその門衛のみが合言葉を知っていた。合言葉を知っていたある者が銃を盗んだ。故に、スミスかあるいはその門衛が銃を盗んだ。
Only Smith and the guard at the gate knew the password; Someone who knew the password stole the gun. Therefore, either Smith or the guard at the gate stole the gun.
これは明らかに健全である。しかしその健全性を、等号を含まない述語計算の中で示すことはできないのである。
「のみ(only)」という語の通常の意味を念頭におくならば、(12)の第1の前提は次のことを意味する。
(13)合言葉を知っていたすべての人は、スミスであったか、あるいはその門衛であった。
Everyone who knew the the password either was Smith or was the guard at the gate.
(13)において、2つの「であった(was)」は同一性の「であった(was)」である。従って、
「K」が「合言葉を知っていたこと」を、「m」がスミス、「n」がその門衛を表すとするならば、(13)はつぎのように記号化される。
(14)∀x(Kx→x=m∨x=n)
(E.J.レモン著、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、論理学初歩、1973年、209頁)
然るに、
(02)
1 (1)∀x(Kx→x=m∨x=n) A
1 (2) Ka→a=m∨a=n 1UE
3 (3)∃x(x=o&x≠m&x≠n) A
4 (4) a=o&a≠m&a≠n A
4 (5) a=o 4&E
4 (6) a≠m&a≠n 4&E
7 (7) a=m∨a=n A
4 (8) a≠m 6&E
9 (9) a=m A
4 9 (ア) a≠m&a=m 89&I
9 (イ) ~(a≠m&a≠n) 4アRAA
4 (ウ) a≠n 6&E
エ(エ) a=n A
4 エ(オ) a≠n&a=n ウエ&I
エ(カ) ~(a≠m&a≠n) 4オRAA
7 (キ) ~(a≠m&a≠n) 79イエカ∨E
47 (ク) (a≠m&a≠n)&
~(a≠m&a≠n) 6キ&I
4 (ケ) ~(a=m∨a=n) 7クRAA
3 (コ) ~(a=m∨a=n) 34ケEE
13 (サ) ~Ka 2コMTT
1 4 (シ) a=o&~Ka 4サ&I
1 4 (ス)∃x(x=o&~Kx) シEI
13 (セ)∃x(x=o&~Kx) 34スEE
1 (ソ)∃x(x=o&x≠m&x≠n)→
∃x(x=o&~Kx) 3セCP
従って、
(02)により、
(03)
① ∀x(Kx→x=m∨x=n)├ ∃x(x=o&x≠m&x≠n)→∃x(x=o&~Kx)
といふ「推論」、すなはち、
① すべてのxについて、(xが合言葉を知っていたならば、xはスミスであるか、あるいは、門衛であった)。従って、
あるxがoであって、そのxが、スミスではなく、門衛でもないならば、oといふxで、合言葉を知らなかったxが存在する。
といふ「推論」は「妥当」である。
然るに、
(03)により、
(04)
① あるxがoであって、そのxが、スミスではなく、門衛でもないならば、oといふxで、合言葉を知らなかったxが存在する。
といふことは、
(13)合言葉を知っていたすべての人は、スミスであったか、あるいは、その門衛の、いずれかであった。
Everyone who knew the the password either was Smith or was the guard at the gate.
といふことに、「他ならない」。
従って、
(01)(04)により、
(05)
E.J.レモンによる、
「のみ(only)」という語の通常の意味を念頭におくならば、(12)の第1の前提は次のことを意味する。
(13)合言葉を知っていたすべての人は、スミスであったか、あるいは、その門衛の、いずれかであった。
Everyone who knew the the password either was Smith or was the guard at the gate.
といふ「説明」は、「正しい」。
従って、
(05)により、
(06)
「S」を、「銃を盗んだこと」を表すものとして用いるならば、われわれが証明しなくてはならないものはつぎの連式である。
141 ∀x(Kx→x=m∨x=n),∃x(Kx&Sx)├ Sm∨Sn
1 (1)∀x(Kx→x=m∨x=n) A
2 (2)∃x(Kx&Sx) A
3 (3) Ka&Sa A
3 (4) Ka 3&E
3 (5) Sa 3&E
1 (6) Ka→a=m∨a=n 1UE
1 3 (7) a=m∨a=n 46MPP
8 (8) a=m A
38 (9) Sm 58=E
38 (ア) Sm∨Sn 9∨I
イ(イ) a=n A
3 イ(ウ) Sn 5イ=E
3 イ(エ) Sm∨Sn ウ∨I
1 3 (オ) Sm∨Sn 78アイエ∨E
12 (カ) Sm∨Sn 23オEE
(E.J.レモン著、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、論理学初歩、1973年、209頁)
といふ「計算」は、「正しい」。
然るに、
(07)
「数学」が得意な学生は、世間では、「論理的な思考」が「得意」であるとされてゐるが、
「論理学」が得意な学生が、「論理的な思考」が「不得手」であるはずが無い。
然るに、
(08)
① ∀x(Kx→x=m∨x=n)├ ∃x(x=o&x≠m&x≠n)→∃x(x=o&~Kx)
② ∀x(Kx→x=m∨x=n),∃x(Kx&Sx)├ Sm∨Sn
といふ「述語論理式」は、「数学(mathematics)」ではなく、『語学(language)』である。
従って、
(09)
「(文法を基礎とした)外国語としての英語の学習」が得意な「学生」は、あるいは、
「数学の学習」が得意な「学生」よりも、「論理的な思考」が得意なのかも、知れない(?!)。
令和6年1月6日、毛利太。
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