2017年6月8日木曜日

「先生は」の「は」について(Ⅱ)。

(01)
① 臣有〔弑(其君)者〕。
① 臣に〔(其の君を)弑する者〕有り。
① 臣下に〔(自分の主君を)殺す者が〕ゐる。
に於いて、
① 弑(其君)者
といふ「それ」を、
① 有 の前に、「倒置(強調)」すると、
① 臣弑(其君)者有〔 〕。
といふ、ことになる。
然るに、
(02)
① 臣弑(其君)者有( )。
に於いて、
① ( )
の中に、
① 之
を「補ふ」と、
① 臣弑(其君)者有(之)。
といふ、ことになる。
然るに、
(03)
① 臣弑(其君)者有(之)。
① 臣にして(其の君を)弑する者(之)有り。
① 臣下であって(自分の主君を)殺す者(、これ)有り。
といふ「漢文訓読」は、「孟子、滕文公章句下」である。
(04)
② 吾知(鳥能飛)。
② 吾(鳥の能く飛ぶを)知る。
② 私は(鳥が飛べるといふことを)知ってゐる。
に於いて、
② 鳥
といふ「それ」を、
② 吾 の前に、「倒置(強調)」すると、
② 鳥吾知( 能飛)。
といふ、ことになる。
然るに、
(05)
② 鳥吾知( 能飛)。
に於いて、
② ( 能飛)。
の中に、
② 其
をを「補ふ」と、
② 鳥吾知(其能飛)。
といふ、ことになる。
然るに、
(06)
② 鳥吾知(其能飛)。
② 鳥吾(其の能く飛ぶを)知る。
② 鳥について、私は(彼等が飛べるといふことを)知ってゐる。
といふ「漢文訓読」は、「十八史略、老子伝」である。
然るに、
(07)
② 鳥吾知(其能飛)。
② 鳥吾(其の能く飛ぶを)知る。
といふ「漢文訓読」が「正しい」のであれば、当然、
③ 鳥吾〔知(其能飛)〕
③ 鳥吾〔(其の能く飛ぶを)知ら〕ざるなり
といふ「漢文訓読」も、「正しい」。
然るに、
(08)
③ 鳥吾不〔知(其能飛)〕也。
から、
③ 吾 を除くと、
③ 鳥不〔知(其能飛)〕也。
③ 鳥〔(其の能く飛ぶを)知ら〕ざるなり。
といふ、ことになる。
然るに、
(09)
③ 鳥不〔知(其能飛)〕也。
に於いて、
③ 鳥 =鵬之背
③ 能飛=幾千里
といふ「代入」を行ふと、
③ 鵬之背不〔知(其幾千里)〕也。
といふ、ことになる。
然るに、
(10)
③ 鵬之背不〔知(其幾千里)〕也。
③ 鵬の背〔(其の幾千里なるを)知ら〕ざるなり。
③ 鵬の背の大きさは〔(其れが、幾千里になるのか)分からない〕ないのだ。
といふ「漢文訓読」は、「荘子」である。
従って、
(09)(10)により、
(11)
③ 鳥不〔知(其能飛)〕也。
③ 鳥〔(其の能く飛ぶを)知ら〕ざるなり。
といふ「漢文」は、「正しい」。
然るに、
(12)
中国語の「助字」は、あってもなくともよい字である。さればこそ「補助の字」というのである。添加される場合は、文中のあいの手としてある(吉川幸次郎、漢文の話、1962年、49頁)。
従って、
(13)
③ 也
だけでなく、
③ 其
も「助字」であれば、
③ 其(名詞節の主語)
は、「省略可能」であるし、固より、漢文の場合は、
③「主語」他を、「省略できる」。
従って、
(08)(11)(12)(13)により、
(14)
③ 鳥吾不〔知(其能飛)〕也。
③ 鳥吾〔(其の能く飛ぶを)知ら〕ざるなり。
といふ「漢文」は、
④ 鳥不〔知(能飛)〕。
④ 鳥〔(能く飛ぶを)知ら〕ず。
といふ風に、書くことが、出来る。
然るに、
(15)
④ 鳥不〔知(能飛)〕。
に於いて、
④ 鳥 =先生
④ 能飛=何許人
といふ「代入」を行ふと、
④ 先生不〔知(何許人)〕。
④ 先生〔(何許の人なるかを)知ら〕ず。
④ 先生〔(何処の人であるのかを)知ら〕ない。
といふ「漢文訓読(陶潜、五柳先生伝)」が、成立する。
従って、
(14)(15)により、
(16)
逆に言へば、
④ 先生不〔知(何許人)〕。
④ 先生は〔(何許の人なるかを)知ら〕ず。
④ 先生は〔(何処の人であるのかを)知ら〕ない。
といふ「漢文訓読」は、
⑤ 先生吾不〔知(其何許人)〕也。
⑤ 先生は吾〔(其の何許人なるか)知ら〕ざるなり。
⑤ 先生ついて、私〔(彼何処の人であるかを)知ら〕ないのだ。
といふ風に、「書き換へ可能」である。
従って、
(16)により、
(17)
意味内容」からすれば、
④ 先生 不〔知( 何許人)〕 。
⑤ 先生吾不〔知(其何許人)〕也。
に於いて、
④=⑤ である。
従って、
(16)(17)により、
(18)
④ 先生何処の人であるのかを知らない。
に於いて、
④「である」 の主語=先生。
④「知らない」の主語=私(たち)。
といふ、ことなる。
従って、
(19)
この文の「先生」は主文の主語ではなく、名詞節の主語である。意味内容からすれば、「我不先生何許人」ということだが、この文のように表現するから注意を要する(天野成之、漢文基本語辞典、1999年、六〇頁)。
といふ、ことになる。
平成29年06月08日、毛利太。

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