(01)
(37) All the nice girls love a sailor.
いまひとつの多義性(ambiguity)がこの文には見いだされる。
この文は、
(ⅰ)すべてのxに対して、xが素敵な少女であるならば、xはある水夫を愛する。 の意味なのであろうか。
(ⅱ)すべてのxに対して、xが素敵な少女であるならば、xはどのような水夫をも愛する。の意味なのであろうか。
(E.J.レモ 著、論理学初歩、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、1973年、128頁改)
然るに、
(02)
{少年の集合}={a,b}
{少女の集合}={c,d,e}
とするならば、
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」は、
(ⅰ)
{[cが素敵であってcが少女であるならば、(aは水夫であって、cはaを愛している)か、または(bは水夫であって、cはbを愛している)。]その上、
{[dが素敵であってdが少女であるならば、(aは水夫であって、dはaを愛している)か、または(bは水夫であって、dはbを愛している)。]その上、
{[eが素敵であってeが少女であるならば、(aは水夫であって、eはaを愛している)か、または(bは水夫であって、eはbを愛している)。]}。
(ⅱ)
{[cが素敵であってcが少女であるならば、(aが水夫であるならば、cはaを愛していて、)その上、(bが水夫であるならば、cはbを愛していて、)]その上、
{[dが素敵であってdが少女であるならば、(aが水夫であるならば、dはaを愛していて、)その上、(bが水夫であるならば、dはbを愛していて、)]その上、
{[eが素敵であってeが少女であるならば、(aが水夫であるならば、eはaを愛していて、)その上、(bが水夫であるならば、eはbを愛していて、)]}。
といふ「意味」になる。
従って、
(02)により、
(03)
N=素敵である。
G=少女である。
S=水夫である。
L=愛す。
とすると、
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」は、
①{[Nc&Gc→(Sa&Lca)∨(Sb&Lcb)]&[Nd&Gd→(Sa&Lda)∨(Sb&Ldb)]&[Ne&Ge→(Sa&Lea)∨(Sb&Leb)]}
②{[Nc&Gc→(Sa→Lca)&(Sb→Lcb)]&[Nd&Gd→(Sa→Lda)&(Sb→Ldb)]&[Ne&Ge→(Sa→Lea)&(Sb→Leb)]}
といふ風に、「翻訳」出来る。
然るに、
(04)
①{[Nc&Gc→(Sa&Lca)∨(Sb&Lcb)]&[Nd&Gd→(Sa&Lda)∨(Sb&Ldb)]&[Ne&Ge→(Sa&Lea)∨(Sb&Leb)]}
②{[Nc&Gc→(Sa→Lca)&(Sb→Lcb)]&[Nd&Gd→(Sa→Lda)&(Sb→Ldb)]&[Ne&Ge→(Sa→Lea)&(Sb→Leb)]}
といふ「論式」は、「E.J.レモ 著、論理学初歩」に於いては、
① ∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
といふ風に書く。
然るに、
(05)
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」の「否定」は、
① It is not true that All the nice girls love a sailor.
② It is not true that All the nice girls love a sailor.
であって、
① ∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
の「否定」は、
① ~∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ~∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
である。
然るに、
(06)
(a)
1 (1)~∀x{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)} A
1 (2)∃x~{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)} 1含意の定義
3 (3) ~{(Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)} 1UE
4 (4) ~(Na&Ga)∨ ∃y(Sy&Lay) A
4 (5) (Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay) 4含意の定義
34 (6) ~{(Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)}&
{(Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)} 35&I
3 (7) ~{~(Na&Ga)∨ ∃y(Sy&Lay) 46RAA
3 (8) (Na&Ga)&~∃y(Sy&Lay) 7ド・モルガンの法則
3 (9) (Na&Ga) 8&E
3 (ア) ~∃y(Sy&Lay) 8&E
3 (イ) ∀y~(Sy&Lay) A量化子の関係
3 (ウ) ~(Sb&Lab) イUE
エ (エ) Sb A
オ(オ) Lab A
エオ(カ) Sb&Lab エオ&I
3 エオ(キ) ~(Sb&Lab)&(Sb&Lab) ウカ&I
3 エ (ク) ~Lab オキRAA
3 (ケ) Sb→~Lab エクCP
3 (コ) ∀y(Sy→~Lay) ケUI
3 (サ) (Na&Ga)&∀y(Sy→~Lay) クコ&I
3 (シ) ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)} サEI
1 (ス) ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)} 13シEE
(b)
1 (1) ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)} A
2 (2) (Na&Ga)&∀y(Sy→~Lay) A
2 (3) (Na&Ga) 2&E
2 (4) ∀y(Sy→~Lay) 2&E
2 (5) Sb→~Lab 4UE
2 (6) ~Sb∨~Lab 5含意の定義
2 (7) ~(Sb&Lab) 6ド・モルガンの法則
2 (8) ∀y~(Sy&Lay) 7UI
2 (9) ~∃y(Sy&Lay) 8量化子の関係
ア (ア) (Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay) A
2ア (イ) ∃y(Sy&Lay) 3アMPP
2ア (ウ) ~∃y(Sy&Lay)&∃y(Sy&Lay) 9イ&I
2 (エ) ~{(Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)} アウRAA
2 (オ)∃x~{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)} エEI
1 (カ)∃x~{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)} 12オEE
1 (キ)~∀x{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)} カ量化子の関係
(07)
(c)
1 (1)~∀x{(Nx&Gx)→ ∀y(Sy→Lxy)} A
1 (2)∃x~{(Nx&Gx)→ ∀y(Sy→Lxy)} 1量化子の関係
3 (3) ~{(Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)} 2UE
4 (4) ~(Na&Ga)∨ ∀y(Sy→Lay) A
4 (5) (Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay) 4含意の定義
34 (6) ~{(Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)}&
{(Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)} 35&I
3 (7) ~{~(Na&Ga)∨ ∀y(Sy→Lay)} 46RAA
3 (8) (Na&Ga)&~∀y(Sy→Lay) 7ド・モルガンの法則
3 (9) (Na&Ga) 8&E
3 (ア) ~∀y(Sy→Lay) 8&E
3 (イ) ∃y~(Sy→Lay) ア含意の定義
ウ (ウ) ~(Sy→Lay) A
エ(エ) ~Sb∨Lab A
エ(オ) Sb→Lab エ含意の定義
ウエ(カ) ~(Sy→Lay)&(Sb→Lab) ウオ&I
ウ (キ) ~(~Sb∨Lab) エカRAA
ウ (ク) Sb&~Lab キ、ド・モルガンの法則
ウ (ケ) ∃y(Sy&~Lay) クEI
3 (コ) ∃y(Sy&~Lay) イウEE
3 (サ) (Na&Ga)&∃y(Sy&~Lay) 9コ&I
3 (シ) ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)} サEI
1 (ス) ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)} 13シEE
(d)
1 (1) ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)} A
2 (2) (Na&Ga)&∃y(Sy&~Lay) A
2 (3) (Na&Ga) 2&E
2 (4) ∃y(Sy&~Lay) 2&E
2 (5) Sb&~Lab A
6 (6) Sb→ Lab A
2 (7) Sb 5&E
26 (8) Lab 67MPP
6 (9) ~Lab 5&E
26 (ア) Lab&~Lab 89&I
2 (イ) ~(Sb→Lab) 6アRAA
2 (ウ) ∃y~(Sy→Lay) イEI
2 (エ) ~∀y(Sy→Lay) ウ量化子の関係
オ(オ) (Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay) A
2 オ(カ) ∀y(Sy→Lay) 3オMPP
2 オ(キ) ~∀y(Sy→Lay)&∀y(Sy→Lay) エカ&I
2 (ク) ~{(Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)} オキRAA
2 (ケ)∃x~{(Nx&Gx)→ ∀y(Sy→Lxy)} クEI
1 (コ)∃x~{(Nx&Gx)→ ∀y(Sy→Lxy)} 12ケEE
1 (サ)~∀x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)} コ量化子の関係
従って、
(05)(06)(07)により、
(08)
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」の「否定」は、
① It is not true that All the nice girls love a sailor.
② It is not true that All the nice girls love a sailor.
であって、
① ∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
の「否定」は、
① ~∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ~∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
であって、
① ~∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ~∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
といふ「述語論理式」は、
① ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}
② ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}
といふ「述語論理式」に、「等しい」。
然るに、
(09)
① ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}
② ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}
といふ「述語論理式」は、
① あるxは{(素敵な少女)であって、すべてのyについて(yが水夫であるならば、xはyを愛さない)}。
② あるxは{(素敵な少女)であって、あるyは(水夫であって、xはyを愛さない)}。
といふ「意味」である。
然るに、
(10)
① あるxは{(素敵な少女)であって、すべてのyについて(yが水夫であるならば、xはyを愛さない)}。
② あるxは{(素敵な少女)であって、あるyは(水夫であって、xはyを愛さない)}。
といふことは、
① 幾人かの素敵な少女は、 いかなる水夫を愛さない。
② 幾人かの素敵な少女には、愛していない水夫がゐる。
といふことに、他ならない。
従って、
(01)~(10)により、
(11)
① It is not true that All the nice girls love a sailor.
② It is not true that All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」は、
① ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}
② ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}
といふ「意味」、すなはち、
① 幾人かの素敵な少女は、 いかなる水夫を愛さない。
② 幾人かの素敵な少女には、愛してゐない水夫がゐる。
といふ「意味」である。
然るに、
(12)
論理学には、ある種のあいまい性を、きわめて明確に示すことができるという、大きな利点がある。例えば、
All the nice girls love a sailor.
(すべての素敵な女の子は、水夫を愛する)
という文を取り上げてみよう。
この文は、
どの素敵な女の子も、水夫を誰か愛している。
アリスはジョーを愛し、
メアリーはバートを愛し、
デズデモーナはビリーを愛している。
という意味にもとれるし、
この文は、
どの素敵な女の子も、一人の特定の水夫を愛している。
その水夫の名前はジャック・タールである。
という意味にもとれる。
論理学は、この二つの異なる構造をはっきり示す、厳密な表記を提供してくれるのである。
(入門言語学、ジーン・エイチソン 著、田中春美・田中幸子 訳、1980年、92頁)
然るに、
(13)
どの素敵な女の子も、一人の特定の水夫を愛している。
その水夫の名前はジャック・タールである。
という意味にもとれる。
といふのであれば、この場合は、
③ All the nice girls love a sailor.⇔
③ ∃x{Sy&∀y(Nx&Gx→Lxy)}⇔
③ あるxは{水夫であって、すべてのyについて(yが素敵な少女であるならば、yはxを愛す)}。
といふ風に、「翻訳」出来る。
従って、
(01)(12)(13)により、
(14)
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
③ All the nice girls love a sailor.
といふ「英語」には、少なくとも、
① ∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
③ ∃x{Sy&∀y[(Nx&Gx)→Lxy]}
といふ「3つの意味」が有る。
令和04年04月29日、毛利太。
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