2022年4月29日金曜日

「All the nice girls love a sailor」の「述語論理」×3。

(01)
(37) All the nice girls love a sailor.
いまひとつの多義性(ambiguity)がこの文には見いだされる。
この文は、
(ⅰ)すべてのxに対して、xが素敵な少女であるならば、xはある水夫を愛する。    の意味なのであろうか。
(ⅱ)すべてのxに対して、xが素敵な少女であるならば、xはどのような水夫をも愛する。の意味なのであろうか。
(E.J.レモ 著、論理学初歩、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、1973年、128頁改)
然るに、
(02)
{少年の集合}={a,b}
{少女の集合}={c,d,e}
とするならば、
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」は、
(ⅰ)
{[cが素敵であってcが少女であるならば、(aは水夫であって、cはaを愛している)か、または(bは水夫であって、cはbを愛している)。]その上、
{[dが素敵であってdが少女であるならば、(aは水夫であって、dはaを愛している)か、または(bは水夫であって、dはbを愛している)。]その上、
{[eが素敵であってeが少女であるならば、(aは水夫であって、eはaを愛している)か、または(bは水夫であって、eはbを愛している)。]}。
(ⅱ)
{[cが素敵であってcが少女であるならば、(aが水夫であるならば、cはaを愛していて、)その上、(bが水夫であるならば、cはbを愛していて、)]その上、
{[dが素敵であってdが少女であるならば、(aが水夫であるならば、dはaを愛していて、)その上、(bが水夫であるならば、dはbを愛していて、)]その上、
{[eが素敵であってeが少女であるならば、(aが水夫であるならば、eはaを愛していて、)その上、(bが水夫であるならば、eはbを愛していて、)]}。
といふ「意味」になる。
従って、
(02)により、
(03)
N=素敵である。
G=少女である。
S=水夫である。
L=愛す。
とすると、
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」は、
①{[Nc&Gc→(Sa&Lca)∨(Sb&Lcb)]&[Nd&Gd→(Sa&Lda)∨(Sb&Ldb)]&[Ne&Ge→(Sa&Lea)∨(Sb&Leb)]}
②{[Nc&Gc→(Sa→Lca)&(Sb→Lcb)]&[Nd&Gd→(Sa→Lda)&(Sb→Ldb)]&[Ne&Ge→(Sa→Lea)&(Sb→Leb)]}
といふ風に、「翻訳」出来る。
然るに、
(04)
①{[Nc&Gc→(Sa&Lca)∨(Sb&Lcb)]&[Nd&Gd→(Sa&Lda)∨(Sb&Ldb)]&[Ne&Ge→(Sa&Lea)∨(Sb&Leb)]}
②{[Nc&Gc→(Sa→Lca)&(Sb→Lcb)]&[Nd&Gd→(Sa→Lda)&(Sb→Ldb)]&[Ne&Ge→(Sa→Lea)&(Sb→Leb)]}
といふ「論式」は、「E.J.レモ 著、論理学初歩」に於いては、
① ∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
といふ風に書く。
然るに、
(05)
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」の「否定」は、
① It is not true that All the nice girls love a sailor.
② It is not true that All the nice girls love a sailor.
であって、
① ∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
の「否定」は、
① ~∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ~∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
である。
然るに、
(06)
(a)
1    (1)~∀x{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)}  A
1    (2)∃x~{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)}  1含意の定義
 3   (3)  ~{(Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)}  1UE
  4  (4)   ~(Na&Ga)∨ ∃y(Sy&Lay)   A
  4  (5)    (Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)   4含意の定義
 34  (6)  ~{(Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)}&
           {(Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)}  35&I
 3   (7) ~{~(Na&Ga)∨ ∃y(Sy&Lay)   46RAA
 3   (8)    (Na&Ga)&~∃y(Sy&Lay)   7ド・モルガンの法則
 3   (9)    (Na&Ga)               8&E
 3   (ア)            ~∃y(Sy&Lay)   8&E
 3   (イ)            ∀y~(Sy&Lay)   A量化子の関係
 3   (ウ)              ~(Sb&Lab)   イUE
   エ (エ)                Sb        A
    オ(オ)                   Lab    A
   エオ(カ)                Sb&Lab    エオ&I
 3 エオ(キ)     ~(Sb&Lab)&(Sb&Lab)   ウカ&I
 3 エ (ク)                  ~Lab    オキRAA
 3   (ケ)               Sb→~Lab    エクCP
 3   (コ)            ∀y(Sy→~Lay)   ケUI
 3   (サ)    (Na&Ga)&∀y(Sy→~Lay)   クコ&I
 3   (シ) ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}  サEI
1    (ス) ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}  13シEE
(b)
1    (1) ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}  A
 2   (2)    (Na&Ga)&∀y(Sy→~Lay)   A
 2   (3)    (Na&Ga)               2&E
 2   (4)            ∀y(Sy→~Lay)   2&E
 2   (5)               Sb→~Lab    4UE
 2   (6)              ~Sb∨~Lab    5含意の定義
 2   (7)              ~(Sb&Lab)   6ド・モルガンの法則
 2   (8)            ∀y~(Sy&Lay)   7UI
 2   (9)            ~∃y(Sy&Lay)   8量化子の関係
  ア  (ア)    (Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)   A
 2ア  (イ)             ∃y(Sy&Lay)   3アMPP
 2ア  (ウ) ~∃y(Sy&Lay)&∃y(Sy&Lay)   9イ&I
 2   (エ)  ~{(Na&Ga)→ ∃y(Sy&Lay)}  アウRAA
 2   (オ)∃x~{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)}  エEI
1    (カ)∃x~{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)}  12オEE
1    (キ)~∀x{(Nx&Gx)→ ∃y(Sy&Lxy)}  カ量化子の関係
(07)
(c)
1    (1)~∀x{(Nx&Gx)→ ∀y(Sy→Lxy)}  A
1    (2)∃x~{(Nx&Gx)→ ∀y(Sy→Lxy)}  1量化子の関係
 3   (3)  ~{(Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)}  2UE
  4  (4)   ~(Na&Ga)∨ ∀y(Sy→Lay)   A
  4  (5)    (Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)   4含意の定義
 34  (6)  ~{(Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)}&
           {(Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)}  35&I
 3   (7) ~{~(Na&Ga)∨ ∀y(Sy→Lay)}  46RAA
 3   (8)    (Na&Ga)&~∀y(Sy→Lay)   7ド・モルガンの法則
 3   (9)    (Na&Ga)               8&E
 3   (ア)            ~∀y(Sy→Lay)   8&E
 3   (イ)            ∃y~(Sy→Lay)   ア含意の定義
   ウ (ウ)              ~(Sy→Lay)   A
    エ(エ)               ~Sb∨Lab    A
    エ(オ)                Sb→Lab    エ含意の定義
   ウエ(カ)     ~(Sy→Lay)&(Sb→Lab)   ウオ&I
   ウ (キ)             ~(~Sb∨Lab)   エカRAA
   ウ (ク)               Sb&~Lab    キ、ド・モルガンの法則
   ウ (ケ)            ∃y(Sy&~Lay)   クEI
  3  (コ)            ∃y(Sy&~Lay)   イウEE
  3  (サ)    (Na&Ga)&∃y(Sy&~Lay)   9コ&I
  3  (シ) ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}  サEI
1    (ス) ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}  13シEE
(d)
1    (1) ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}  A
 2   (2)    (Na&Ga)&∃y(Sy&~Lay)   A
 2   (3)    (Na&Ga)               2&E
 2   (4)            ∃y(Sy&~Lay)   2&E
  2  (5)               Sb&~Lab    A
   6 (6)               Sb→ Lab    A
  2  (7)               Sb         5&E
  26 (8)                   Lab    67MPP
   6 (9)                  ~Lab    5&E
  26 (ア)              Lab&~Lab    89&I
  2  (イ)              ~(Sb→Lab)   6アRAA
  2  (ウ)            ∃y~(Sy→Lay)   イEI
  2  (エ)            ~∀y(Sy→Lay)   ウ量化子の関係
    オ(オ)    (Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)   A
  2 オ(カ)             ∀y(Sy→Lay)   3オMPP
  2 オ(キ) ~∀y(Sy→Lay)&∀y(Sy→Lay)   エカ&I
  2  (ク)  ~{(Na&Ga)→ ∀y(Sy→Lay)}  オキRAA
  2  (ケ)∃x~{(Nx&Gx)→ ∀y(Sy→Lxy)}  クEI
1    (コ)∃x~{(Nx&Gx)→ ∀y(Sy→Lxy)}  12ケEE
1    (サ)~∀x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}  コ量化子の関係
従って、
(05)(06)(07)により、
(08)
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」の「否定」は、
① It is not true that All the nice girls love a sailor.
② It is not true that All the nice girls love a sailor.
であって、
① ∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
の「否定」は、
① ~∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ~∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
であって、
① ~∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ~∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
といふ「述語論理式」は、
① ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}
② ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}
といふ「述語論理式」に、「等しい」。
然るに、
(09)
① ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}
② ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}
といふ「述語論理式」は、
① あるxは{(素敵な少女)であって、すべてのyについて(yが水夫であるならば、xはyを愛さない)}。
② あるxは{(素敵な少女)であって、あるyは(水夫であって、xはyを愛さない)}。
といふ「意味」である。
然るに、
(10)
① あるxは{(素敵な少女)であって、すべてのyについて(yが水夫であるならば、xはyを愛さない)}。
② あるxは{(素敵な少女)であって、あるyは(水夫であって、xはyを愛さない)}。
といふことは、
① 幾人かの素敵な少女は、 いかなる水夫を愛さない。
② 幾人かの素敵な少女には、愛していない水夫がゐる。
といふことに、他ならない。
従って、
(01)~(10)により、
(11)
① It is not true that All the nice girls love a sailor.
② It is not true that All the nice girls love a sailor.
といふ「1つ(意味は2つ)の英文」は、
① ∃x{(Nx&Gx)&∀y(Sy→~Lxy)}
② ∃x{(Nx&Gx)&∃y(Sy&~Lxy)}
といふ「意味」、すなはち、
① 幾人かの素敵な少女は、 いかなる水夫を愛さない。
② 幾人かの素敵な少女には、愛してゐない水夫がゐる。
といふ「意味」である。
然るに、
(12)
論理学には、ある種のあいまい性を、きわめて明確に示すことができるという、大きな利点がある。例えば、
All the nice girls love a sailor.
(すべての素敵な女の子は、水夫を愛する)
という文を取り上げてみよう。 この文は、
どの素敵な女の子も、水夫を誰か愛している。
   アリスはジョーを愛し、
  メアリーはバートを愛し、
デズデモーナはビリーを愛している。
という意味にもとれるし、
この文は、
どの素敵な女の子も、一人の特定の水夫を愛している。
その水夫の名前はジャック・タールである。
という意味にもとれる。
論理学は、この二つの異なる構造をはっきり示す、厳密な表記を提供してくれるのである。
(入門言語学、ジーン・エイチソン 著、田中春美・田中幸子 訳、1980年、92頁)
然るに、
(13)
どの素敵な女の子も、一人の特定の水夫を愛している。
その水夫の名前はジャック・タールである。
という意味にもとれる。
といふのであれば、この場合は、
③ All the nice girls love a sailor.⇔
③ ∃x{Sy&∀y(Nx&Gx→Lxy)}⇔
③ あるxは{水夫であって、すべてのyについて(yが素敵な少女であるならば、yはxを愛す)}。
といふ風に、「翻訳」出来る。
従って、
(01)(12)(13)により、
(14)
① All the nice girls love a sailor.
② All the nice girls love a sailor.
③ All the nice girls love a sailor.
といふ「英語」には、少なくとも、
① ∀x{(Nx&Gx)→∃y(Sy&Lxy)}
② ∀x{(Nx&Gx)→∀y(Sy→Lxy)}
③ ∃x{Sy&∀y[(Nx&Gx)→Lxy]}
といふ「3つの意味」が有る。
令和04年04月29日、毛利太。

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