(01)
「J・G・メイシェン、新約聖書ギリシャ語原典入門、1967年、57頁」により、
ΑΓΕΙ ΜΕ Ο ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΤΟΥΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
然るに、
(02)
ΑΓΕΙ=LEADS
ΜΕ=ME
Ο ΚΥΡΙΟΣ=THE LORD
ΠΡΟΣ=TO
ΤΟΥΣ ΜΑΘΗΤΑΣ=THE DISCIPLES
ΑΥΤΟΥ=HIS
従って、
(01)(02)により、
(03)
④ ΑΓΕΙ ΜΕ ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ=
④ ΑΓΕΙ[ΜΕ(ΚΥΡΙΟΣ)ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕].
に於いて、
ΑΓΕΙ[ ]⇒[ ]ΑΓΕΙ
ΜΕ( )⇒( )ΜΕ
ΠΡΟΣ〔 〕⇒〔 〕ΠΡΟΣ
ΜΑΘΗΤΑΣ( )⇒ΜΑΘΗΤΑΣ
といふ「移動」を行ふと、
④ ΑΓΕΙ[ΜΕ(ΚΥΡΙΟΣ)ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕]⇒
④ [(ΚΥΡΙΟΣ)ΜΕ〔(ΑΥΤΟΥ)ΜΑΘΗΤΑΣ〕ΠΡΟΣ]ΑΓΕΙ=
④ [(主は)私を〔(彼の)弟子たち〕へと]導く。
といふ「ギリシャ語訓読」が、成立する。
然るに、
(04)
④ ΑΓΕΙ ΜΕ ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
④ 述語 補語 主語 前置詞 被修飾語 修飾語 .
である。
従って、
(03)(04)により、
(05)
④ ΑΓΕΙ ΜΕ ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ=
④ ΑΓΕΙ[ΜΕ(ΚΥΡΙΟΣ)ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕]=
④ 述語 [補語(主語 )前置詞 〔被修飾語 (修飾語 )〕].
である。
然るに、
(06)
(一)主述関係 主語 ― 述語
(二)修飾関係 修飾語 ― 被修飾語
(三)補足関係 叙述語 ― 補足語
(四)並列関係 並列語 ― 並列語
(鈴木直治著、中国語と漢文、1975年、281~283頁、抜粋)
に於いて、「漢文訓読」の際に「括弧」が付くのは、
(三)補足関係 叙述語 ― 補足語
だけである。
従って、
(05)(06)により、
(07)
④ ΑΓΕΙ[ΜΕ(ΚΥΡΙΟΣ)ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕]=
④ 述語 [補語(主語 )前置詞 〔被修飾語 (修飾語 )〕].
といふ「ギリシャ語訓読」に於ける「括弧」は、「漢文訓読」では、有り得ない。
然るに、
(08)
所有を表わすには、人称代名詞の非強調形が用いられるべきで、英語(日本語も)の my word(私の言葉)とか、これに類した句は、
the word of me の順序にかえてから、ギリシャ語に訳されなければならない(J・G・メイシェン、新約聖書ギリシャ語原典
入門、1967年、55頁)。
従って、
(08)により、
(09)
④ ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)=
④ DISCIPLES(HIS)=
④ DISCIPLES(OF HIM).
といふ「語順」については、「変へること」が、出来ない。
然るに、
(10)
ギリシャ語の文章の通常の順序は、英語におけると同じく、主語(subject)、動詞(verb)、目的語(object)の順である。ラテン語におけるように、動詞を最後におくというような特別な傾向はない。しかし、ギリシャ語では、強調とか語調をよくするとかの目的で、英語の場合よりずっと自由に順序を変えることができる(J・G・メイシェン、新約聖書ギリシャ語原典入門、1967年、29頁改)。
従って、
(05)(09)(10)により、
(11)
① ΚΥΡΙΟΣ ΜΕ ΑΓΕΙ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
② ΚΥΡΙΟΣ ΑΓΕΙ ΜΕ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
③ ΑΓΕΙ ΚΥΡΙΟΣ ΜΕ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
④ ΑΓΕΙ ΜΕ ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
⑤ ΜΕ ΑΓΕΙ ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
⑥ ΜΕ ΚΥΡΙΟΣ ΑΓΕΙ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
といふ「ギリシャ語」は、全て、
① 主は私を彼の弟子たちへと導く。
② 主は私を彼の弟子たちへと導く。
③ 主は私を彼の弟子たちへと導く。
④ 主は私を彼の弟子たちへと導く。
⑤ 主は私を彼の弟子たちへと導く。
⑥ 主は私を彼の弟子たちへと導く。
といふ、「意味」である。
cf.
語順は多様であっても、(11)の各文の意味をとる上で何らの混乱もない。なぜならギリシャ語の名詞句は格(cace)の表示を受けてゐるからである(言語類型論入門―言語の普遍性と多様性2006/10/18リンゼイ・J. ウェイリー、 Lindsay J. Whaley、86頁改)。
然るに、
(12)
以上の六つを、
① 主は私を彼の弟子たちへと導く。
② 主は私を彼の弟子たちへと導く。
③ 主は私を彼の弟子たちへと導く。
④ 主は私を彼の弟子たちへと導く。
⑤ 主は私を彼の弟子たちへと導く。
⑥ 主は私を彼の弟子たちへと導く。
といふ風に、「訓読」する際の「括弧」は、
① ΚΥΡΙΟΣ ΜΕ ΑΓΕΙ[ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕].
② ΚΥΡΙΟΣ ΑΓΕΙ[ΜΕ ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕].
③ ΑΓΕΙ[ΚΥΡΙΟΣ ΜΕ ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕].
④ ΑΓΕΙ[ΜΕ(ΚΥΡΙΟΣ)ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕].
⑤ ΜΕ(ΑΓΕΙ[ΚΥΡΙΟΣ)ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕].
⑥ ΜΕ(ΚΥΡΙΟΣ)ΑΓΕΙ[ΠΡΟΣ〔ΜΑΘΗΤΑΣ(ΑΥΤΟΥ)〕].
である。
従って、
(12)により、
(13)
「括弧」だけを示すと、
① [〔( )〕]
② [〔( )〕]
③ [〔( )〕]
④ [( )〔( )〕]
⑤ ([ )〔( )〕]
⑥ ( )[〔( )〕]
である。
然るに、
(14)
⑤ ΜΕ(ΑΓΕΙ[ΚΥΡΙΟΣ)
に於ける、
⑤ ( [ )
といふ「それ」は、数学に於ける、
⑤ ( { )
がさうであるやうに、「括弧」ではない。
cf.
⑤ 2<6>1 5 4 3
のやうな、
⑤ M<N>L & M-L=1
といふ「順番」を含む「順番」を、「括弧」を用ゐて、
⑤ 1<2<3<4<5<6
といふ「順番」に「並び替へ(ソートす)る」ことが、出来ない。
然るに、
(15)
「返り点」の場合は、次のやうになる。
① ΚΥΡΙΟΣ ΜΕ ΑΓΕΙ四 ΠΡΟΣ三 ΜΑΘΗΤΑΣ二 ΑΥΤΟΥ一.
② ΚΥΡΙΟΣ ΑΓΕΙ四 ΜΕ ΠΡΟΣ三 ΜΑΘΗΤΑΣ二 ΑΥΤΟΥ一.
③ ΑΓΕΙ四 ΚΥΡΙΟΣ ΜΕ ΠΡΟΣ三 ΜΑΘΗΤΑΣ二 ΑΥΤΟΥ一.
④ ΑΓΕΙ丁 ΜΕ二 ΚΥΡΙΟΣ一 ΠΡΟΣ丙 ΜΑΘΗΤΑΣ乙 ΑΥΤΟΥ甲.
⑤ ΜΕ二 ΑΓΕΙ丁 ΚΥΡΙΟΣ一 ΠΡΟΣ丙 ΜΑΘΗΤΑΣ乙 ΑΥΤΟΥ甲.
⑥ ΜΕ二 ΚΥΡΙΟΣ一 ΑΓΕΙ四 ΠΡΟΣ三 ΜΑΘΗΤΑΣ二 ΑΥΤΟΥ一.
従って、
(13)(15)により、
(16)
① [〔( )〕]
② [〔( )〕]
③ [〔( )〕]
④ [( )〔( )〕]
⑤ ([ )〔( )〕]
⑥ ( )[〔( )〕]
に対する「返り点」は、
① 四 三 二 一
② 四 三 二 一
③ 四 三 二 一
④ 丁 二 一 丙 乙 甲
⑤ 二 丁 一 丙 乙 甲
⑥ 二 一 四 三 二 一
である。
然るに、
(17)
⑤ 二 囗 一
であるならば、必ず、
⑤ 二 レ 一
であるため、
⑤ 二 丁 一 丙 乙 甲
のやうな「返り点」は、有り得ない。
従って、
(12)~(17)により、
(18)
① ΚΥΡΙΟΣ ΜΕ ΑΓΕΙ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
② ΚΥΡΙΟΣ ΑΓΕΙ ΜΕ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
③ ΑΓΕΙ ΚΥΡΙΟΣ ΜΕ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
④ ΑΓΕΙ ΜΕ ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
⑤ ΜΕ ΑΓΕΙ ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
⑥ ΜΕ ΚΥΡΙΟΣ ΑΓΕΙ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
に於いて、
⑤ OVS型 である所の、
⑤ ΜΕ ΑΓΕΙ ΚΥΡΙΟΣ ΠΡΟΣ ΜΑΘΗΤΑΣ ΑΥΤΟΥ.
に関しては、「返り点・括弧」を用ゐて、「訓読」することが、出来ない。
然るに、
(19)
SOV型 - 日本語、琉球語、アイヌ語、アルタイ諸語、インド・イラン語派、ドラヴィダ語族、チベット・ビルマ語派、ニヴフ語、ウィルタ語、ブルーシャスキー語、パーリ語、朝鮮語、アムハラ語、エスキモー語、チュクチ語、テュルク諸語、アイマラ語、ケチュア語、ナバホ語、ホピ語、バスク語、シュメール語、アッカド語、ヒッタイト語、エラム語など。
SVO型 - 英語、フランス語、中国語(広東語などの諸方言や漢文を含む)、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、カタルーニャ語、ルーマニア語、ブルガリア語、現代ギリシア語、デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、タイ語、ラーオ語(ラオス語)、ベトナム語、ジャワ語、インドネシア語、マレー語(マレーシア語)、クメール語(カンボジア語)、スワヒリ語、現代アラビア語諸方言、ハウサ語、ヨルバ語、グアラニー語、ナワトル語など。
VSO型 - 古典アラビア語、ヘブライ語、アラム語、フェニキア語、古代エジプト語、ゲエズ語、ゲール語、古典マヤ語、タガログ語、セブアノ語、イロカノ語、マオリ語など。
VOS型 - フィジー語、ツォツィル語など。
OVS型 - ヒシカリヤナ語など。
OSV型 - シャバンテ語(英語版)など。〔語順-ウィキペディア〕
従って、
(18)(19)により、
(20)
OVS型 - ヒシカリヤナ語など。
の場合も、「返り点・括弧」を用ゐて、「訓読」することが、出来ない。
然るに、
(19)により、
(21)
SVO型 - 英語、フランス語、中国語(広東語などの諸方言や漢文を含む)
とあるため、「中国語(漢文を含む)」の場合は、「SOV型」である。
然るに、
(22)
然るに、
(23)
⑦ 端的看二不五出三這婆子的本事一来四。
のやうに、
⑦ 二 五 三 一 四
であれば、
⑦ 二<五 三>一 四
であるものの、
⑦ 二 五 三 一 四
であれば、
⑦ 二(五[三〔一)〕四]
である。
然るに、
(24)
⑦ ([〔 )〕]
は、「括弧」ではない。
然るに、
(25)
「返り点」は、「下 から 上 に しか、返らない」ため、
二 二
↑ ↓
↑ ↓ 五
↑ ↓ ↑
↑ 三 ↑
↑ ↓ ↑
一 ↓ ↑
↓ ↑
四 四
のやうに、「下 から 上 に 返り、上 から 下 へ 降りる点」は、「返り点」ではない。
従って、
(23)(24)(25)により、
(26)
⑦ 端的看二不五出三這婆子的本事一来四。
に於ける、
⑦ 二 五 三 一 四
といふ「それ」は、「返り点」ではないし、尚且つ、
⑦ 2<5 3>1 4
といふ「順番」を、「括弧」を用ゐて、
⑦ 1<2<3<4<5
といふ「順番」に「並び替へ(ソートす)る」ことは、出来ない。
然るに、
(27)
中国の口語文(白話文)も、漢文とおなじように漢字を使っていますが、もともと二つのちがった体系で、単語も文法もたいへんちがうのですから、いっしょにあつかうことはできません。漢文と中国語は別のものです(魚返善雄、漢文入門、1966年、17頁)。
従って、
(21)~(27)により、
(28)
「中国語(漢文を含む)」の場合は、「SOV型」であるものの、「漢文」と「中国語(白話文)」は、もともと二つのちがった体系で、「単語も文法」もたいへん違ふため、
⑦ 端的看不出這婆子的本事来。
⑧ 西門慶促忙促急儧造不出床来。
のやうな「中国語」を、「括弧・返り点」を用ゐて、「訓読」することは、出来ない。
平成28年12月19日、毛利太。
―「関連記事」―
(a)「括弧」の付け方:「係り・及び・並び」(http://kannbunn.blogspot.com/2016/12/blog-post_6.html)。
(b)「訓読」の原理(http://kannbunn.blogspot.com/2016/12/blog-post_3.html)。
(c){( )}の方が「読みやすい」(http://kannbunn.blogspot.com/2016/12/blog-post_2.html)。
(d)「レ点」について(http://kannbunn.blogspot.com/2016/12/blog-post.html)。
(e)「返り点(特にレ点)」が苦手な人へ(http://kannbunn.blogspot.com/2016/11/blog-post_30.html)。
(f)「括弧」と『返り点』(http://kannbunn.blogspot.com/2016/11/blog-post.html)。
(g)「漢文の補足構造」としての「括弧」の付け方(http://kannbunn.blogspot.com/2016/09/blog-post_22.html)。
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