(01)
『概略』で言ふと、「返り点」は、
(Ⅰ)レ点 :「下の字」から、 「一字上の字」へ返る。
(Ⅱ)一二点:「レ点」 を挟んで「二字以上、上の字」へ返る。
(Ⅲ)上下点:「一二点」を挟んで「二字以上、上の字」へ返る。
(Ⅳ)甲乙点:「上下点」を挟んで「二字以上、上の字」へ返る。
(Ⅴ)天地天:「甲乙点」を挟んで「二字以上、上の字」へ返る。
そのため、
(02)
(Ⅰ)レ点:「下の字」から、「一字上の字」へ返る。
があることによって、例へば、
① 読(書) ⇒(書を)読む。
② 読(漢文)⇒(漢文を)読む。
の「返り点」は、
① レ
② 二 一
といふ具合に、「同じ」には、ならない。
(03)
(Ⅰ)レ点:「下の字」から、「一字上の字」へ返る。
があることによって、例へば、
③ 不〔読(書)〕⇒〔(書を)読ま〕不。
④ 不〔常読(書)〕⇒〔常には(書を)読ま〕不。
の「返り点」は、
③ レ レ
④ 二 一レ
といふ具合に、「同じ」には、ならない。
(04)
(Ⅰ)レ点:「下の字」から、「一字上の字」へ返る。
がなければ、
⑤ 不{恐[衆狙之不〔馴(於己)〕]}⇒
⑤ {[衆狙の〔(己に)馴れ〕不るを]恐れ}不。
の「返り点」は、
⑤ 五 四 三 二 一
であるが、「レ点」があるため、
⑥ レ 二 一レ 二 一
が、「正しい」。
cf.
従って、
(01)~(04)により、
(05)
(Ⅰ)レ点 :「下の字」から、 「一字上の字」へ返る。
(Ⅱ)一二点:「レ点」 を挟んで「二字以上、上の字」へ返る。
(Ⅲ)上下点:「一二点」を挟んで「二字以上、上の字」へ返る。
(Ⅳ)甲乙点:「上下点」を挟んで「二字以上、上の字」へ返る。
(Ⅴ)天地天:「甲乙点」を挟んで「二字以上、上の字」へ返る。
の中に、
(Ⅰ)レ点:「下の字」から、「一字上の字」へ返る。
といふ「ルール」があるために、「返り点」は、「複雑」になってゐる。
然るに、
(06)
従って、
(06)により、
(07)
① 何不レ
令丁
人謂二
韓公叔一
曰乙
秦之敢絶レ
周而伐レ
韓者、信二
東周一
也、公何不下
与二
周地一
発二
質使一
之上レ
楚、秦必疑レ
楚、不レ
信レ
周、是韓不甲レ
伐也、又謂レ
秦、曰丙
韓彊与二
周地一
、将三
以疑二
周於秦一
也、周不乙
敢不甲レ
受。
② 何不己
令戊
人謂二
韓公叔一
曰丙
秦之敢絶二
周一而伐二
韓一者、信二
東周一
也、公何不下
与二
周地一
発二
質使一
之中
楚上、秦必疑二
楚一、不三
信ニ
周一、是韓不乙
伐甲也、又謂二
秦一、曰丁
韓彊与二
周地一
、将三
以疑二
周於秦一
也、周不丙
敢不乙
受甲。
であるため、
① レ 丁 二 一 乙 レ レ 二 一 下 二 一 二 一 上レ レ レ レ 甲レ レ 丙 二 一 三 二 一 乙 甲レ
② 己 戊 二 一 丙 二 一 二 一 二 一 下 二 一 二 一 中 上 二 一 三 二 一 乙 甲 二 一 丁 二 一 三 二 一 丙 乙 甲
に於いて、
① が表す「訓読の語順」は、
② が表す「訓読の語順」に、「等しい」。
従って、
(05)(07)により、
(08)
(Ⅰ)レ点:「下の字」から、「一字上の字」へ返る。
は、「ほとんど、不要」であるだけなく、
(Ⅰ)レ点:「下の字」から、「一字上の字」へ返る。
があるために、「返り点」は、「複雑」になってゐる。
然るに、
(09)
③ 何不〈令{人謂(韓公叔)曰[秦之敢絶(周)而伐(韓)者信(東周)也公何不〔与(周地)発(質使)之(楚)〕秦必疑(楚)不〔信(周)〕是韓不(伐)也]又謂(秦)曰[韓彊与(周地)将〔以疑(周於秦)〕也周不〔敢不(受)〕]}〉。
に於いて。
□〈 〉⇒〈 〉□
□{ }⇒{ }□
□[ ]⇒[ ]□
□〔 〕⇒〔 〕□
□( )⇒( )□
といふ「移動」を行ひ、「平仮名」を加へると、
③ 何ぞ〈{人をして(韓の公叔に)謂ひて[秦之敢へて(周を)絶つ而(韓を)伐んとする者、(東周を)信ずれば也、公何ぞ〔(周に地を)与へ(質使を)発して(楚に)之かしめ〕不る、秦必ず(楚を)疑ひ、〔(周を)信ぜ〕不らん、是れ韓(伐たれ)不らん也と]曰ひ、又(秦に)謂ひて、[韓彊ひて(周に地を)与ふるは、将に〔以て(周を秦於)疑はしめんとする〕也、周〔敢へて(受け)不んば〕不ずと]曰は}令め〉不る。
といふ「訓読」になる。
従って、
(09)により、
(10)
① レ 丁 二 一 乙 レ レ 二 一 下 二 一 二 一 上レ レ レ レ 甲レ レ 丙 二 一 三 二 一 乙 甲レ
② 己 戊 二 一 丙 二 一 二 一 二 一 下 二 一 二 一 中 上 二 一 三 二 一 乙 甲 二 一 丁 二 一 三 二 一 丙 乙 甲
といふ「返り点」は、
③〈{( )[( )( )( )〔( )( )( )〕( )〔( )〕( )]( )[( )〔( )〕〔( )〕]}〉
といふ「括弧」に「置き換へ」ることが、出来る。
然るに、
(11)
漢語における語順は、国語と大きく違っているところがある。すなわち、その補足構造における語順は、国語とは全く反対である。しかし、訓読は、国語の語順に置きかえて読むことが、その大きな原則となっている。それでその補足構造によっている文も、返り点によって、国語としての語順が示されている(鈴木直治、中国語と漢文、1975年、296頁)。
従って、
(10)(11)により、
(12)
③ 何不〈令{人謂(韓公叔)曰[秦之敢絶(周)而伐(韓)者信(東周)也公何不〔与(周地)発(質使)之(楚)〕秦必疑(楚)不〔信(周)〕是韓不(伐)也]又謂(秦)曰[韓彊与(周地)将〔以疑(周於秦)〕也周不〔敢不(受)〕]}〉。
に於ける、
③〈{( )[( )( )( )〔( )( )( )〕( )〔( )〕( )]( )[( )〔( )〕〔( )〕]}〉
といふ「括弧」は、「訓読の語順」を表してゐると同時に、
② 何不令人謂韓公叔曰秦之敢絶周而伐韓者信東周也公何不与周地発質使之楚秦必疑楚不信周是韓不伐也又謂秦曰韓彊与周地将以疑周於秦也周不敢不受。
といふ「漢文の補足構造」と、
② 何ぞ人をして韓の公叔に謂ひて秦之敢へて周を絶つ而韓を伐んとする者、東周を信ずれば也、公何ぞ周に地を与へ質使を発して楚に之かしめ不る、秦必ず楚を疑ひ、周を信ぜ不らん、是れ韓伐たれ不らん也と曰ひ、又秦に謂ひて、韓彊ひて周に地を与ふるは、将に以て周を秦於疑はしめんとする也、周敢へて受け不んば不ずと曰は令め不る。
といふ「日本語の補足構造」を表してゐる。
(13)
〈 { [ 〔 ( ) 〕 ] } 〉 といふ「括弧」 の下に、
間 地 乙 下 二 一 上 甲 天 人 といふ「返り点」を書くことが、出来る。
従って、
(14)
③ 何不〈令{人謂(韓公叔)曰[秦之敢絶(周)而伐(韓)者信(東周)也公何不〔与(周地)発(質使)之(楚)〕秦必疑(楚)不〔信(周)〕是韓不(伐)也]又謂(秦)曰[韓彊与(周地)将〔以疑(周於秦)〕也周不〔敢不(受)〕]}〉。
といふ「括弧が付いた、漢文」は、
③ 何不間 令地 人謂二 韓公叔一 曰乙 秦之敢絶二 周一 而伐二 韓一 者信二 東周一 也公何不下 与二 周地一 発二 質使一 之二 楚一 上 秦必疑二 楚一 不下 信二 周一 上 是韓不二 伐一 也甲 又謂二 秦一 曰乙 韓彊与二 周地一 将下 以疑二 周於秦一 上 也周不下 敢不二 受一 上 甲 天 人。
といふ「返り点(?)が付いた、漢文」である。といふ風に、見做すことも、可能である。
従って、
(15)
(Ⅰ)レ 一レ 上レ 甲レ 天レ
(Ⅱ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・・・
(Ⅲ)上 中(下) 下
(Ⅳ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅴ)天 地 人
からなる「通常の、返り点」に対して、例へば、
(Ⅰ)二 一
(Ⅱ)下 上
(Ⅲ)乙 甲
(Ⅳ)地 天
(Ⅴ)間 人
からなら「返り点」が、「括弧」であるといふ風に、見做すことが出来る。
令和元年12月16日、毛利太。
0 件のコメント:
コメントを投稿