2023年4月7日金曜日

「ド・モルガンの法則」と「二畳庵主人」の「誤訳(藤文公章句上 五十一節)」について。

(01)
遂に出た!二畳庵主人『漢文法基礎』
まだ現物を見ていませんが、幻の書と言われた漢文の解説本が復刊されました。
2chの漢文参考書スレには必ずといっていいほど登場する本。
そして古本では必ず1万円以上する!!
というのも、いわゆる受験参考書だったために一般に流布せず、従って、国会図書館にも蔵書がなければ、地域や大学図書館などにもほぼ蔵書がないというものでした。扱いとしては図録と同じですね。でも、最近は図録は図書館でも見かけるようになりました。知る人ぞ知る、『漢文法基礎』です。久々に「買い」の本が出ましたよ。本は買わない宣言しちゃいましたが、今年はこの1冊だけ買って打ち止めにしようとすら思ってます。たぶんあまり数を刷っていないででしょうから、学術文庫版も早晩、品切れになるかと思われます。買うなら今です(古田島洋介、FC2ブログ、古代中国箚記)。
然るに、
(02)
豈以為非是、而不貴也。
この傍線部分をどう読むかが問題である。
― 中略、―
「以為」は、ふつうなら「もって・・・・・となす」と読み、要するに「おもう、おもえらく」と同じことだから、全体的にはさして重要なことばではない。
そこで代数でいこう。「是」をa、「貴」をbとする。「豈」はどうなるかというと、これは反語表現マイナスで表せる。すると、
① -(-a)+(-b)、
② -(-a-b) の二つが考えられる。
そこで括弧を解いてみよう。
① の場合、a-b となり、a・bにもとの意味を入れてみると「是、而不貴」である。訳してみると「(薄葬を)よろしいと考えるが、(薄葬を)尊重しない」というわけのわからないことになってしまって、アウト。
② の場合、-(-a-b)=a+b となるから「是、而貴」となる。訳してみると「(薄葬を)よろしいと考えて、尊重している」となって、墨家の立場をはっきりしめすことになる。
だからこの文章の場合、必ず②のように、「豈」(反語表現だから「不」は全体にかからねばならない。
(二畳庵主人、漢文法基礎、1984年10月、326・327頁)
従って、
(01)(02)により、
(03)
『(知る人ぞ知る)漢文法基礎』によると、
① 豈(非是而不貴)
②  ( 是而 貴)
に於いて、
①=② である。
然るに、
(02)により、
(04)
① 豈(非是而不貴)
に於いて、
豈=否定(~)
非=否定(~)
不=否定(~)
而=&
従って、
(03)(04)により、
(05)
『(知る人ぞ知る)漢文法基礎』によると、
① ~(~是&~貴)
②  ( 是& 貴)
に於いて、
①=② である。
然るに、
(06)
(ⅱ)
1   (1)   是& 貴   A
 2  (2)  ~是∨~貴   A
  3 (3)  ~是      A
1   (4)   是      1&E
1 3 (5)  ~是& 是   34&I
  3 (6) ~(是& 貴)  1RAA
   7(7)     ~貴   A
1   (8)      貴   1&E
1  7(9)   ~貴&貴   78&I
   7(ア) ~(是& 貴)  79RAA
 2  (イ) ~(是& 貴)  2367ア∨E
12  (ウ)  (是& 貴)&
        ~(是& 貴)  1イ&I
1   (エ)~(~是∨~貴)  2ウRAA
(ⅲ)
1   (1)~(~是∨~貴)  A
 2  (2) ~(是& 貴)  A
  3 (3)  ~是      A
  3 (4)  ~是∨~貴   3∨I
1 3 (5)~(~是∨~貴)&
        (~是∨~貴)  14&I
1   (6) ~~是      35RAA
1   (7)   是      6DN
   8(8)     ~貴   8
   8(9)  ~是∨~貴   8∨I
1  8(ア)~(~是∨~貴)&
        (~是∨~貴)  19&I
1   (イ)    ~~貴   8アRAA
1   (ウ)      貴   イDN
1   (エ)   是& 貴   7ウ&I
12  (オ) ~(是& 貴)&
         (是& 貴)  2エ&I
1   (カ)~~(是& 貴)  2オRAA
1   (キ)   是& 貴   カDN
従って、
(06)により、
(07)
②    是& 貴
③ ~(~是∨~貴)
に於いて、
②=③ は、「ド・モルガンの法則」である。
従って、
(05)(06)(07)により、
(08)
① ~(~是&~貴)
②  ( 是& 貴)
③ ~(~是∨~貴)
に於いて、
①=② は『(知る人ぞ知る)漢文法基礎』 であって、
②=③ は『(有名な)ド・モルガンの法則』である。
然るに、
(08)により、
(09)
① ~(~是&~貴)
②  ( 是& 貴)
③ ~(~是∨~貴)
に於いて、
①=② であって、
②=③ であるとすれば、
① ~(~是&~貴)
③ ~(~是∨~貴)
に於いて、
①=③ である。
然るに、
(10)
① ~(~是&~貴)
③ ~(~是∨~貴)
に於いて、
① は「言()の否定」であって、
③ は「言()の否定」である。
従って、
(10)により、
(11)
① ~(~是&~貴)
③ ~(~是∨~貴)
に於いて、
①=③ ではなく、
①≠③ である。
従って、
(09)(10)(11)により、
(12)
① ~(~是&~貴)
②  ( 是& 貴)
③ ~(~是∨~貴)
に於いて、
①≠③ であって、
③=② は、「ド・モルガンの法則」であるため、
①≠② である。
従って、
(02)~(12)により、
(13)
豈以為非是、而不貴也。
この傍線部分をどう読むかが問題である。
① -(-a)+(-b)、
② -(-a-b) の二つが考えられる。
② の場合、-(-a-b)=a+b となるから「是、而貴」となる。訳してみると「(薄葬を)よろしいと考えて、尊重している」となって、墨家の立場をはっきりしめすことになる。
といふ「解釈」は、「ド・モルガンの法則」からすると、『誤解』である。
然るに、
(14)
(ⅰ)
1  (1)~(~是&~貴)  A
 2 (2)     ~貴   A
  3(3)  ~是      A
 23(4)  ~是&~貴   23&I
123(5)~(~是&~貴)&
       (~是&~貴)  14&I
12 (6) ~~是      35RAA
12 (7)   是      6DN
1  (8)  ~貴→ 是   27CP
(ⅱ)
1  (1)  ~貴→ 是  A
 2 (2)  ~是&~貴  A
 2 (3)     ~貴  2&E
12 (4)      是  13MPP
 2 (5)  ~是     2&E
12 (6)  ~是& 是  45&I
1  (7)~(~是&~貴) 26RAA
従って、
(14)により、
(15)
① ~(~是&~貴)
②   ~貴→ 是
に於いて、
①=② は、「含意の定義」である。
従って、
(04)(15)により、
(16)
① 豈〔非(是)而不(貴)〕也。
② 不(貴)則為(是)也。
に於いて、すなはち、
① 豈に、是に非ずとして、貴ばざらんや。
② 貴ばずんば、則ち、是と為すなり。
に於いて、すなはち、
① どうして、正しくないとして、貴ばないことがあらうか。
② 貴ばないとしたら、正しいとしてゐるのである。
に於いて、
①=② であるが、これだけでは、「分けがわからない」。
然るに、
(17)
吾聞夷子墨者。墨之治喪也、以薄為其道也。夷子思以易天下。豈以為非是而不貴也。然而夷子葬其親厚。則是以所賤事親也=
吾聞夷子墨者。墨之治(喪)也、以(薄)為(其道)也。夷子思〔以易(天下)〕。豈以為〔非(是)〕而不(貴)也。然而夷子葬(其親)厚。則是以〔所(賤)〕事(親)也=
吾聞く、夷子は墨者なり。墨の喪を治むるや、薄きを以て其の道と為す。夷子は以て天下を易へんと思ふ。豈に以て是に非ずと為して貴ばざらんや。然り而して夷子は其の親を葬ること厚し、と。則ち是れ賤しむ所を以て親に事ふるなり。
(『孟子』巻第五藤文公章句上 五十一節)
従って、
(16)(17)により、
(18)
「薄葬」=「墨子の主義」
「厚葬」=「孟子の主義」
であるとして、
① どうして、正しくないとして、貴ばないことがあらうか。
②(墨子の主義を)貴ばないとしたら、(孟子の主義を)正しいとしてゐるのである。
に於いて、
①=② であるならば、「意味が分かる」。
令和5年4月8日、毛利太。

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