2022年7月26日火曜日

「等号を含む述語計算」の「例題(E.J.レモン)」。

(01)
2 つぎの論証を等号を含む述語計算の記号に翻訳し、それに対応する連式の妥当性を示すことによって、論証の健全性を証明せよ。
2 Prove the soundness of the following arguments by translating them into the symbolism of the predicate calculus with identity and showing the validity of the corresponding sequents;
(a)すべての殺人者は精神異常である。ジーキルは殺人者である。ジーキルはハイドである。故にハイドは精神異常である。
(b)いかなる殺人者も精神が正常でない。ジーキルは殺人者である。ハイドは精神が正常である。故にジーキルはハイドではない。
(c)トムとジェーンのみ(Only Tom and Jane)がダンスをしている。トムとジェーンはどちらもツイストをしている。故にすべてのダンスをしているものはツイストをしている。
(d)多くとも1人(at most one)の無法な国家主席がいる。毛沢東は無法な国家主席である。ジョンソンは毛沢東ではない。故にジョンソンは無法な国家主席ではない。
(E.J.レモン 著、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、論理学初歩、1973年、215頁)
 ―「私による解答と解説」―
(02)
(a)すべての殺人者は精神異常である。ジーキルは殺人者である。ジーキルはハイドである。故にハイドは精神異常である。
に於いて、
j=ジーキル(固有名)
h=ハイド (固有名)
とすると、
1  (1)∀x(殺人者x→精神異常x) A
 2 (2)殺人者j           A
  3(3)   j=h         A
1  (4)殺人者j→精神異常j     1UE
12 (5)     精神異常j     24MPP
12 (6)     精神異常h     35=E
(〃)
「どのやうな殺人者であっても、例外なく精神異常である。」
とするならば、
「ジーキルが殺人者であれば、ジーキルは精神異常である。」
ところが、
「ジーキル(j)とハイド(h)は「同一人物(the same person)」である。
従って、
「ハイド(ジーキル)」は精神異常である。
(03)
(b)いかなる殺人者も精神が正常でない。ジーキルは殺人者である。ハイドは精神が正常である。故にジーキルはハイドではない。
に於いて、
j=ジーキル(固有名)
h=ハイド (固有名)
とすると、
1   (1)∀x(殺人者x→~正常x) A
 2  (2)殺人者j          A
  3 (3)正常h           A
1   (4)殺人者j→~正常j     1UE
12  (5)     ~正常j     24MPP
   4(6)j=h           A
12 4(7)     正常j      36=E
12 4(8)~正常j&正常j      57&I
12  (9)j≠h           48RAA
(〃)
「どのやうな殺人者であっても、例外なく精神が正常でない。」
とするならば、
「ジーキルが殺人者であれば、ジーキルは精神が正常ではない。」
ところで、
「ジーキルは殺人者である。」
従って、
「ジーキルは精神が正常ではない。」
然るに、
「ハイドは精神が正常である。」
従って、
「ジーキルとハイドが同一人物(the same person)」である。
とするならば、
「ジーキルは精神が異常であって、尚且つ、正常である。」
ということになって、「矛盾」する。
従って、
「ジーキル(j)とハイド(h)は「同一人物(the same person)」ではない。
(04)
(c)トムとジェーンのみ(Only Tom and Jane)がダンスをしている。トムとジェーンはどちらもツイストをしている。故にすべてのダンスをしているものはツイストをしている。
に於いて、
t=トム  (固有名)
h=ジェーン(固有名)
とすると、
1    (1)∀x{~(x=t∨x=j)→~ダンスx} A
1    (2)   ~(a=t∨a=j)→~ダンスa  1UE
  3  (3)               ダンスa  A
  3  (4)             ~~ダンスa  3DN
1 3  (5)     a=t∨a=j         24MTT
   6 (6)   ツイストt&ツイストj       A
   6 (7)   ツイストt             6&E
   8 (8)     a=t             A
  68 (9)   ツイストa             78=E
  6  (ア)         ツイストj       6&E
    イ(イ)           a=j       A
  6 イ(ウ)         ツイストa       アイ=E
136  (エ)   ツイストa             589イウ∨E
1 6  (オ)   ダンスa→ ツイストa       3エCP
1 6  (カ)∀x(ダンスx→ ツイストx)      オUI
(〃)
「誰であれ、(トムか、ジェーン)でなければ、ダンスをしていない。」
然るに、
「トムも、ジェーンも、ツイストをしている。」
従って、
「ツイストをしている人以外は、ダンスをしていない。」
従って、
「すべてのダンスをしているものはツイストをしている。」
(05)
(d)多くとも1人(at most one)の無法な国家主席がいる。毛沢東は無法な国家主席である。ジョンソンは毛沢東ではない。故にジョンソンは無法な国家主席ではない。
に於いて、
m=毛沢東  (固有名)。
j=ジョンソン(固有名)。
F=無法な国家主席である(といふ述語文字)。
とすると、
1  (1)~∃x∃y(Fx&Fy&x≠y) A
1  (2)∀x~∃y(Fx&Fy&x≠y) 1量化子の関係
1  (3)∀x∀y~(Fx&Fy&x≠y) 2量化子の関係
1  (4)  ∀y~(Fm&Fy&m≠y) 3UE
1  (5)    ~(Fm&Fj&m≠j) 4UE
1  (6)  ~{(Fm&Fj)&m≠j} 5結合法則
1  (7)   ~(Fm&Fj)∨m=j  6ド・モルガンの法則
1  (8)    (Fm&Fj)→m=j  7含意の定義
 9 (9)     Fm          A
  ア(ア)            m≠j  A
1 ア(イ)   ~(Fm&Fj)      8アMTT
1 ア(ウ)   ~Fm∨~Fj       イ、ド・モルガンの法則
1 ア(エ)    Fm→~Fj       ウ含意の定義
19ア(オ)       ~Fj       9エMPP
(〃)
(ⅰ)
① 少なくとも2人=2人以上。
② 多くとも、1人=1人以下(1人か、0人)。
であるため、
① の「否定」が、② である。
然るに、
(ⅱ)
① ∃x∃y(Fx&Fy&x≠y)
② 少なくとも2人以上の無法な国家主席がいる。
に於いて、
①=② である。
従って、
(ⅰ)(ⅱ)により、
(ⅲ)
① ~∃x∃y(Fx&Fy&x≠y)
② 多くとも1人(at most one)の無法な国家主席がいる。
に於いて、
①=② である。
然るに、
(ⅳ)
(α)
1  (1)~∃x∃y(Fx&Fy&x≠y) A
1  (2)∀x~∃y(Fx&Fy&x≠y) 1量化子の関係
1  (3)∀x∀y~(Fx&Fy&x≠y) 2量化子の関係
1  (4)   3UE
1  (5)    ~(Fa&Fb&a≠b) 4UE
1  (6)  ~{(Fa&Fb)&a≠b} 5結合法則
1  (7)   ~(Fa&Fb)∨a=b  6ド・モルガンの法則
1  (8)    (Fa&Fb)→a=b  7含意の定義
 9 (9)            a≠b  A
19 (ア)   ~(Fa&Fb)      89MTT
19 (イ)    ~Fa∨~Fb      ア、ド・モルガンの法則
19 (ウ)     Fa→~Fb      イ、含意の定義
1  (エ)a≠b→(Fa→~Fb)     9ウCP
  オ(オ)a≠b& Fa          A
  オ(カ)a≠b              オ&E
1 オ(キ)     Fa→~Fb      エカMPP
  オ(ク)     Fa          オ&E
1 オ(ケ)        ~Fb      キクMPP
1  (コ)     a≠b&Fa→~Fb  オケCP
1  (サ)  ∀y(a≠y&Fa→~Fy) コUI
1  (シ)∀x∀y(x≠y&Fx→~Fy) サUI
(β)
1  (1)∀x∀y(x≠y&Fx→~Fy) A
1  (2)  ∀y(a≠y&Fa→~Fy) 1UE
1  (3)     a≠b&Fa→~Fb  1UE
 4 (4)         Fa& Fb  A
 4 (5)             Fb  4&E
 4 (6)           ~~Fb  5DN
14 (7)   ~(a≠b& Fa)    36MTT
14 (8)     a=b∨~Fa     7ド・モルガンの法則
14 (9)     ~Fa∨a=b     8交換法則
14 (ア)      Fa→a=b     9含意の定義
 4 (イ)      Fa         4&E
14 (ウ)          a=b    アイMPP
1  (エ)    (Fa&Fb)→a=b  4ウCP
1  (オ)   ~(Fa&Fb)∨a=b  エ含意の定義
1  (カ)  ~{(Fa&Fb)&a≠b} オ、ド・モルガンの法則
1  (キ)    ~(Fa&Fb&a≠b) カ結合法則
1  (ク)  ∀y~(Fa&Fy&a≠y) キUI
1  (ケ)∀x∀y~(Fx&Fy&x≠y) クUI
1  (コ)∀x~∃y(Fx&Fy&x≠y) ケ量化子の関係
1  (サ)~∃x∃y(Fx&Fy&x≠y) コ量化子の関係
従って、
(ⅲ)(ⅳ)により、
(ⅴ)
① ~∃x∃y(Fx&Fy&x≠y)
多くとも1人しか無法な国家主席はいない
③ ∀x∀y(x≠y&Fx→~Fy)
④ xとyが誰であれ、xとyが「同一人物」ではなく、xが無法な国家主席であるならば、yは無法な国家主席ではない。
に於いて、
①=②=③=④ である。
従って、
(ⅴ)により、
(ⅵ)
(d)多くとも1人(at most one)の無法な国家主席がいる。毛沢東は無法な国家主席である。ジョンソンは毛沢東ではない。故にジョンソンは無法な国家主席ではない。
という「推論」は、「妥当」である。
従って、
(01)~(05)により、
(06)
(a)すべての殺人者は精神異常である。ジーキルは殺人者である。ジーキルはハイドである。故にハイドは精神異常である。
(b)いかなる殺人者も精神が正常でない。ジーキルは殺人者である。ハイドは精神が正常である。故にジーキルはハイドではない。
(c)トムとジェーンのみ(Only Tom and Jane)がダンスをしている。トムとジェーンはどちらもツイストをしている。故にすべてのダンスをしているものはツイストをしている。
(d)多くとも1人(at most one)の無法な国家主席がいる。毛沢東は無法な国家主席である。ジョンソンは毛沢東ではない。故にジョンソンは無法な国家主席ではない。
という「論証の健全性」は、「等号を含む述語計算(The predicate calculus with identity)」によって「証明」出来る。
ということが、「証明」出来た。
令和04年07月26日、毛利太。

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