2021年3月15日月曜日

「矛盾・韓非子」の「述語論理」(Ⅶ)。

(01)
 ― 矛盾・韓非子 ―
楚人有鬻盾与矛者。誉之曰、吾盾之堅、莫能陥也。又誉其矛曰、吾矛之利、於物無不陥也。或曰、以子之矛、陥子之盾、何如。其人弗能応也=
楚人有[鬻〔盾与(矛)〕者]。誉(之)曰、吾盾之堅、莫(能陥)也。又誉(其矛)曰、吾矛之利、於(物)無〔不(陥)〕也。或曰、以(子之矛)、陥(子之盾)、何如。其人弗〔能(応)〕也⇒
楚人[〔盾(矛)与〕鬻者]有。(之)誉曰、吾盾之堅、(能陥)莫也。又(其矛)誉曰、吾矛之利、(物)於〔(陥)不〕無也。或曰、(子之矛)以、(子之盾)陥、何如。其人〔(応)能〕也弗=
楚人に[〔盾と(矛)とを〕鬻ぐ者]有り。(之を)誉めて曰く、吾が盾の堅きこと、(能く陥す)莫きなり。又た(其の矛を誉めて)曰く、吾が矛の利なること、(物に)於いて〔(陥さ)不る〕無きなり。或ひと曰く、(子之矛を)以て、(子之盾を)陥さば、何如。其の人〔(応ふる)能は〕弗るなり=
楚の国の人で盾と矛とを売る者がいた。その人が自分の盾を誉めて言った。 私のこの堅い盾を突き通すことが出来るものは何も無い。 また、自分の矛を誉めて言った。 私のこの鋭い矛は、どんな物でも突き通さないものは無い。或るひとが言った。 あなたの矛で、あなたの盾を突いたらどうなるのか。 其の盾と矛を売る人は、答えることが、出来なかった。
然るに、
(02)
(ⅰ)
1    (1) ∃x{盾x& ∀y(矛y→~陥yx)} A
 2   (2) ∃y{矛y&~∃x(盾x&~陥yx)} A
  3  (3)    矛b&~∃x(盾x&~陥bx)  A
  3  (4)    矛b               3&E
  3  (5)       ~∃x(盾x&~陥bx)  3&E
  3  (6)       ∀x~(盾x&~陥bx)  5含意の定義
  3  (7)         ~(盾a&~陥ba)  6UE
  3  (8)          ~盾a∨ 陥ba   7ド・モルガンの法則
  3  (9)           盾a→ 陥ba   8含意の定義
  3  (ア)        ∀x(盾x→ 陥bx)  9UI
  3  (イ)    矛b& ∀x(盾x→ 陥bx)  4ア&I
  3  (ウ) ∃y(矛y& ∀x(盾x→ 陥yx)} イEI
 2   (エ) ∃y(矛y& ∀x(盾x→ 陥yx)} 23ウEE
   オ (オ)    盾a& ∀y(矛y→~陥ya)  A
   オ (カ)    盾a               オ&E
   オ (キ)        ∀y(矛y→~陥ya)  オ&E
   オ (ク)           矛b→~陥ba   キUE
    ケ(ケ)    矛b& ∀x(盾x→ 陥bx)  A
    ケ(コ)    矛b               ケ&E
    ケ(サ)        ∀x(盾x→ 陥bx)  ケ&E
    ケ(シ)           盾a→ 陥ba   サUE
   オケ(ス)              ~陥ba   クコMPP
   オケ(セ)               陥ba   カシMPP
   オケ(ソ)          ~陥ba&陥ba   スセ&I
 2 オ (タ)          ~陥ba&陥ba   エケソEE
12   (チ)          ~陥ba&陥ba   1オタEE
1    (ツ)~∃y(矛y& ∀x(盾x→ 陥yx)} 2チRAA(背理法
(ⅲ)
1    (1)~∃y(矛y& ∀x(盾x→ 陥yx)} A
1    (2)∀y~(矛y& ∀x(盾x→ 陥yx)} 1含意の定義
1    (3)  ~(矛b& ∀x(盾x→ 陥bx)} 1UE
1    (4)   ~矛b∨~∀x(盾x→ 陥bx)  3ド・モルガンの法則
 5   (5)   ~矛b               A
 5   (6)   ~矛b∨ ∃x(盾x&~陥bx)  5∨I
  7  (7)       ~∀x(盾x→ 陥bx)  A
  7  (8)       ∃x~(盾x→ 陥bx)  7量化子の関係
   9 (9)         ~(盾a→ 陥ba)  A
   9 (ア)         ~(~盾a∨陥ba)  9含意の定義
   9 (イ)           盾a&~陥ba   ア、ド・モルガンの法則
   9 (ウ)        ∃x(盾x&~陥bx)  イEI
  7  (エ)        ∃x(盾x&~陥bx)  79ウEE
  7  (オ)   ~矛b∨ ∃x(盾x&~陥bx)  エ∨I
1    (カ)   ~矛b∨ ∃x(盾x&~陥bx)  4567オ∨E
1    (キ)  ~{矛b&~∃x(盾x&~陥bx)} カ、ド・モルガンの法則
1    (ク)∀y~{矛y&~∃x(盾x&~陥yx)} キUI
1    (ケ)~∃y{矛y&~∃x(盾x&~陥yx)} ク量化子の関係
従って、
(02)により、
(03)
①  ∃x{盾x& ∀y(矛y→~陥yx)}
②  ∃y{矛y&~∃x(盾x&~陥yx)}
③ ~∃y(矛y& ∀x(盾x→ 陥yx)}
に於いて、すなはち、
① あるxは盾であって、すべてのyについて、yが矛ならば、yはxを陥さない。
② あるyは矛であって、xは盾であって、yはxを陥さないといふ、そのやうなxは存在しない(二重否定)。
③ yは矛であって、すべてのxについて、xが盾であるならば、yはxを陥す、といふ、そのやうなyは存在しない。
に於いて、
①と② は「矛盾」し、
  ② の「否定」は、
③ である。
従って、
(03)により、
(04)
① いかなる矛をも、陥さない盾が存在する。
② いかなる盾をも、陥す矛が存在する。
③ いかなる盾をも、陥す矛は存在しない。
に於いて、
①と② は「矛盾」し、
  ② の「否定」は、
③ である。
従って、
(01)~(04)により、
(05)
① 吾盾之堅、莫(能陥)也。
② 吾矛之利、於(物)無〔不(陥)〕也。
③ 不{有[無〔不(陷)〕之矛]}也。
に於いて、
①と② は、「矛盾」し、
②と③ も、「矛盾」する。
といふことは、「述語論理」としても、「正しい」。
cf.
③ 不有無不陷之矛也=
③ 不{有[無〔不(陷)〕之矛]}也⇒
③ {[〔(陷)不〕無之矛]有}不也=
③ {[〔(陷さ)不る〕無きの矛は]有ら}不る也。
令和03年03月15日、毛利太。

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