2021年6月17日木曜日

「ラッセルの確定記述」と「定冠詞(the)」の「一意性」。

然るに、
(01)
(ⅰ)
1 (1) ∃x{Fx&∀y(Fy→x=y)} A
 2(2)    Fa&∀y(Fy→a=y)  A
 2(3)    Fa             2&E
 2(4)       ∀y(Fy→a=y)  2&E
 2(5)          Fb→a=b   4UE
 2(6)         ~Fb∨a=b   5含意の定義
 2(7)         a=b&~Fb   6交換法則
 2(8)        ~(a≠b&Fb)  7ド・モルガンの法則
 2(9)      ∀y~(a≠y&Fy)  8UI
 2(ア)      ~∃y(a≠y&Fy)  9量化子の関係
 2(イ)   Fa&~∃y(a≠y&Fy)  3ア&I
 2(ウ)∃x{Fx&~∃y(x≠y&Fy)} イEI
1 (エ)∃x{Fx&~∃y(x≠y&Fy)} 12ウEE
(ⅱ)
1 (1)∃x{Fx&~∃y(x≠y&Fy)} A
 2(2)   Fa&~∃y(a≠y&Fy)  A
 2(3)   Fa              2&E
 2(4)      ~∃y(a≠y&Fy)  2&E
 2(5)      ∀y~(a≠y&Fy)  4量化子の関係
 2(6)        ~(a≠b&Fb)  5UE
 2(7)         a=b∨~Fb   6ド・モルガンの法則
 2(8)         ~Fb∨a=b   7交換法則
 2(9)          Fb→a=b   8含意の定義
 2(ア)       ∀y(Fy→a=y)  9UI
 2(イ)    Fa&∀y(Fy→a=y)  3ア&I
 2(ウ) ∃x{Fx&∀y(Fy→x=y)} イEI
1 (エ) ∃x{Fx&∀y(Fy→x=y)} 12ウEE
従って、
(01)により、
(02)
① ∃x{Fx&  ∀y(Fy→x=y)}
② ∃x{Fx&~∃y(x≠y&Fy)}
に於いて、
①=② である。
従って、
(02)により、
(03)
① あるxについて{xはFであり、すべてのyについて(yがFならば、xはyに等しい)}。
② あるxについて{xはFであり、(x以外に、Fであるy)は存在しない}。
に於いて、
①=② である。
従って、
(03)により、
(04)
F=偶数の素数である。
とするならば、
① あるxについて{xは偶素数であり、すべてのyについて(yが偶素数ならば、xはyに等しい)}。
② あるxについて{xは偶素数であり、(x以外に、偶素数であるy)は存在しない}。
に於いて、
①=② である。
従って、
(04)により、
(05)
① ある数2について{2は偶素数であり、すべてのyについて(yが偶素数ならば、2はyに等しい)}。
② ある数2について{2は偶素数であり、(2以外に、偶素数であるy)は存在しない}。
に於いて、
①=② である。
従って、
(01)~(05)により、
(06)
① ∃x{Fx&  ∀y(Fy→x=y)}
② ∃x{Fx&~∃y(x≠y&Fy)}
といふ「述語論理式」は、両方とも、
① ある、唯一のxは、Fであり、x以外にFは、存在しない
② ある、唯一のxは、Fであり、x以外にFは、存在しない
といふ「意味」になる。
従って、
(06)により、
(07)
① ∃x{Ix&Ox& ∀y(Iy→x=y)}
② ∃x{Ix&Ox&~∃y(x≠y&Iy)}
といふ「述語論理式」は、両方とも、
① ある、唯一のxは、Iであり、Oであり、x以外にIは、存在しない
② ある、唯一のxは、Iであり、Oであり、x以外にIは、存在しない
といふ「意味」になる。
然るに、
(08)
 (21)イリアスの著者はオデュッセイアを書いた。故にある人はイリアスとオデュッセイアの両方を書いた。
 (21)The author of the Iliad wrote the odyssey; therefore someone wrote both Iliad and the odyssey.
 ― 中略 ―、
(22)∃x{Ix&Ox& ∀y(Iy→x=y)}
    ある人はイリアスを書いた。そしてオデュッセイアを書いた、そしてさらにその人はイリアスを書いた唯一の人である。
someone wrote the Iliad, and wrote the odyssey, and further that person is unique in having written the Iliad;
 ― 中略 ―、
 The treatment of definite description in(22)is of considerable importance in logical analysis; due to Russell, it has come to be known as Russell's theory of definite description.
 (22)における確定記述の取り扱いは、論理分析において無視できぬ重要さをもつ。それはラッセルに由来するものなので、ラッセルの確定記述の理論として知られるに到っている。
 (E.J.レモン 著、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、論理学初歩、1973年、213・214頁改)
従って、
(07)(08)
(09)
① ∃x{Ix&Ox& ∀y(Iy→x=y)}
② ∃x{Ix&Ox&~∃y(x≠y&Iy)}
における確定記述の取り扱いは、論理分析において無視できぬ重要さをもつ。それはラッセルに由来するものなので、ラッセルの確定記述の理論として知られるに到っている。
然るに、
(10)
問題5.
ラッセルの確定記述の理論を用いて、つぎの論証の健全性を確立せよ。
(a)マイン・カンプの著者は1945年に死んだ。ヒトラーマイン・カンプを書いた。故にヒトラーは1945年に死んだ。
(a)The author of Mine Kamp died in 1945. Hitler wrote Mine Kamp. Hitler therefore died in 1945.
(E.J.レモン 著、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、論理学初歩、1973年、215頁
〔私による解答〕
1   (1)∃x(我が闘争x&45年死x)               A
 2  (2)   我が闘争a&45年死a                A
  3 (3)∃y{ヒトラーy&我が闘争y&∀x(我が闘争x→x=y)} A
   4(4)   ヒトラーb&我が闘争b&∀x(我が闘争x→x=b)  A
   4(5)               ∀x(我が闘争x→x=b)  4&E
   4(6)                  我が闘争a→a=b   5UE
 2  (7)                  我が闘争a       2&E
 2 4(8)                        a=b   67MPP
   4(9)   ヒトラーb                      4&E
 2 4(ア)   ヒトラーa                      89=E
 2  (イ)         45年死a                2&E
 2 4(ウ)   ヒトラーa&45年死a                アイ&I
 2 4(エ)∃x(ヒトラーx&45年死x)               ウEI
 23 (オ)∃x(ヒトラーx&45年死x)               34エEE
1 3 (カ)∃x(ヒトラーx&45年死x)               12オEE
1 3 (〃)あるxはヒトラーであって1945年に死んだ。        12オEE
然るに、
(11)
定冠詞the)は、それが厳密に用いられるときには、一意性を内含している。確かに、しかじかのひと(So-and-so)がいく人かの息子をもっている場合でさえ、the son of So-and-so という表現を使用するが、本当はその場合には、a son of So-and-so という方がより正しいといえよう。それゆえわれわれの目的のためには、the一意性を内含しているものと考えていく(頸草書房、現代哲学基本論文集Ⅰ、バートランド・ラッセル、指示について、1986年、53頁)。
従って、
(10)(11)により、
(12)
(a)The author of Mine Kamp died in 1945. Hitler wrote Mine Kamp.
といふことは、
(a)マイン・カンプの唯一の著者が、マイン・カンプを書いたことになる。
令和03年06月17日、毛利太。

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