(01)
① 3{2(1)}。
に於いて、
3{ }⇒{ }3
2( )⇒( )2
といふ「移動」を行ふと、
① 3{2(1)}⇒
① 〔(1)2〕3=
① 1<2<3。
といふ「並び替へ(ソート)」を行ふことになる。
(02)
② 2(3{1)}。
に於いて、
2( )⇒( )2
3{ }⇒{ }3
といふ「移動」を行ふと、
② 2(3{1)}⇒
②({1) 2}3=
② 1<2<3。
といふ「並び替へ(ソート)」を行ふことになる。
然るに、
(01)(02)により、
(03)
①{( )}
②({ )}
に於いて、
① は「括弧」であるが、
② は「括弧」ではない。
(04)
③ 7[3〔2(1)〕5(4)6]。
に於いて、
7[ ]⇒[ ]7
3〔 〕⇒〔 〕3
2( )⇒( )2
5( )⇒( )5
といふ「移動」を行ふと、
③ 7[3〔2(1)〕5(4)6]⇒
③ [〔(1)2〕3(4)56]7=
③ 1<2<3<4<5<6<7。
といふ「並び替へ(ソート)」を、行ふことになる。
(05)
④ 3〔7{2(5[1)〕4]6}。
に於いて、
3〔 〕⇒〔 〕3
7{ }⇒{ }7
2( )⇒( )2
5[ ]⇒[ ]5
といふ「移動」を行ふと、
④ 3〔7{2(5[1)〕4]6}⇒
④ 〔{([1)2〕34]56}7=
④ 1<2<3<4<5<6<7。
といふ「並び替へ(ソート)」を、行ふことになる。
然るに、
(06)
③[〔( )〕( )]
④ 〔{([ )〕]}
に於いて、
③ は「括弧」であるが、
④ は「括弧」ではない。
従って、
(01)~(06)により、
(07)
「括弧」は、
② n+1<n+m>n(nは、0より大きい整数で、mは1より大きい整数である。)
といふ「順番」を、含んでゐないのであれば、そのときに限って、「その順番」を、
② 1<2<3<4<5<6<7<8<9・・・・・・
といふ「順番」に「並び替へる」ことが、出来る。
然るに、
(08)
(a)1<2<3
(b)1 3>2
(c)2>1<3
(d)2<③>1
(e)3>1<2
(f)3>2<1
然るに、
(09)
(a)1<2<3
の場合は、そのままで、
(a)1<2<3
である。
従って、
(07)(08)(09)により、
(10)
「3桁の順番」であれば、
(d)2<③>1
だけが、「括弧」を用ひて、
② 1<2<3
といふ「順番」に「並び替へる」ことが、出来ない。
然るに、
(11)
「4桁」になると、
(a)1 2 3
(b)1 3 2
(c)2 1 3
(d)2 3 1
(e)3 1 2
(f)3 2 1
に於いて、
(a)1 2 3
であるならば、
(a)4 1 2 3
(〃)1 4 2 3
(〃)1 2 4 3
(〃)1 2 3 4
である。
従って、
(11)により、
(12)
(a)は「4倍」になり、
(b)も「4倍」になり、
(c)も「4倍」になり、
(d)も「4倍」になり、
(e)も「4倍」になり、
(f)も「4倍」になる。
従って、
(11)(12)により、
(13)
「3桁」が「6通リ」ならば、
「4桁」は「6×4=24通リ」である。
従って、
(11)(12)(13)により、
(14)
「3桁」が「6通リ」ならば、
「4桁」は「6×4=24通リ」であり、
「5桁」は「24×5=120通り」であり、
「6桁」は「120×6=720通り」である。
従って、
(14)により、
(15)
「n桁」であれば、「nの階乗(n!)通り」である。
然るに、
(16)
① 無非欲不揮快刀不断乱麻者。
の場合は、「12文字」であるため、「12桁」に相当する。
従って、
(11)(15)(16)により、
(17)
「3桁」であれば、
(a)1 2 3
(b)1 3 2
(c)2 1 3
(d)2 3 1
(e)3 1 2
(f)3 2 1
といふ風に、
①(3×2×1)通り。
であるのに対して、
⑩ 無非欲不揮快刀不断乱麻者
といふ「12個の漢字」を、「並べる」のであれば、
⑩(12×11×10×9×8×7×6×5×4×3×2×1)通り。
を、「調べる」ことになるが、もちろん、そんなことは、「人力(man power)」では「無理」である。
然るに、
(18)
(Ⅰ)レ 一レ 上レ 甲レ 天レ
(Ⅱ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
(Ⅲ)上 中 下
(Ⅳ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅴ)天 地 人
に於いて、
(Ⅰ)レ 一レ 上レ 甲レ 天レ
の場合は、
(Ⅰ)二 一
(〃)三 二 一
(〃)下 中 上
(〃)丙 乙 甲
(〃)人 地 天
と、「同じ」である。
従って、
(18)により、
(19)
(Ⅰ)レ 一レ 上レ 甲レ 天レ
(Ⅱ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
(Ⅲ)上 中 下
(Ⅳ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅴ)天 地 人
といふ「返り点」が表す「順番」は、
(Ⅰ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
(Ⅱ)上 中 下
(Ⅲ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅳ)天 地 人
といふ「返り点」が表す「順番」に、「等しい」。
然るに、
(20)
(Ⅰ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
(Ⅱ)上 中 下
(Ⅲ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅳ)天 地 人
または、
(Ⅰ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
(Ⅱ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅲ)上 中 下
(Ⅳ)天 地 人
に於いて、
(Ⅰ)を挟んで返る場合には、
(Ⅱ)を用ひ、
(Ⅱ)を挟んで返る場合には、
(Ⅲ)を用ひ、
(Ⅲ)を挟んで返る場合には、
(Ⅳ)を用ひる。
といふ『ルール』が有る。
然るに、
(21)
cf.
① 快刀を揮ふ。
② 快刀を揮はんと欲す。
③ 快刀を揮って乱麻を断たんと欲す。
④ 快刀を揮って乱麻を断たんと欲せず。
⑤ 快刀を揮って乱麻を断たんと欲する者に非ず。
⑥ 快刀を揮はずして乱麻を断たんと欲する者に非ず。
⑦ 快刀を揮って乱麻を断たざらんと欲する者に非ず。
⑧ 快刀を揮はずして乱麻を断たざらんと欲する者に非ず。
⑨ 快刀を揮はずして乱麻を断たざらんと欲する者に非ざるは無し。
従って、
(20)(21)により、
(22)
① 二 一
② 三 二 一
③ 下 二 一 中 上
④ 丁 丙 二 一 乙 甲
⑤ 乙 下 二 一 中 上 甲
⑥ 乙 下 三 二 一 中 上 甲
⑦ 地 丁 二 一 丙 乙 甲 天
⑧ 地 丁 三 二 一 丙 乙 甲 天
⑨ 人 地 丁 三 二 一 丙 乙 甲 天
といふ「返り点」は、『ルール』を、満たしてゐる。
然るに、
(23)
① 二 一。
② 三 二 一。
③ 下 二 一 中 上。
④ 丁 丙 二 一 乙 甲。
⑤ 乙 下 二 一 中 上 甲。
⑥ 乙 下 三 二 一 中 上 甲。
⑦ 地 丁 二 一 丙 乙 甲 天。
⑧ 地 丁 三 二 一 丙 乙 甲 天。
⑨ 人 地 丁 三 二 一 丙 乙 甲 天。
といふ「それ」は、「返り点」そのものではなく、「返り点が付いてゐる、漢字」であるとする。
然るに、
(24)
① 二 # 一。
② 三 # 二 # 一。
③ 下 # 二 # 一 # 中 # 上。
④ 丁 # 丙 # 二 # 一 # 乙 # 甲。
⑤ 乙 # 下 # 二 # 一 # 中 # 上 # 甲。
⑥ 乙 # 下 # 三 # 二 # 一 # 中 # 上 # 甲。
⑦ 地 # 丁 # 二 # 一 # 丙 # 乙 # 甲 # 天
⑧ 地 # 丁 # 三 # 二 # 一 # 丙 # 乙 # 甲 # 天。
⑨ 人 # 地 # 丁 # 三 # 二 # 一 # 丙 # 乙 # 甲 # 天。
に於いて、「#」は、「n(n≧0)個以上の、返り点が、付いてゐない、漢字」であるとする。
従って、
(23)(24)により、
(25)
⑨ 人 # 地 # 丁 # 三 # 二 # 一 # 丙 # 乙 # 甲 # 天。
に於いて、
⑨ n=1
であるならば、
⑨ J 1 I 2 F 3 8 4 7 5 6 9 E A D B C G H。
といふ「順番(19個の、20進数)」で「読む」ことになる。
然るに、
(26)
⑨ J〈1 I{2 F[3 8〔4 7(5 6)〕9 E〔A D(B C)〕]G H}〉。
に於いて、
J〈 〉⇒〈 〉J
I{ }⇒{ }I
F[ ]⇒[ ]F
8〔 〕⇒〔 〕8
7( )⇒( )7
E〔 〕⇒〔 〕E
D( )⇒( )D
といふ「移動」を行ふと、
⑨ 〈1 {2 [3 〔4 (5 6)7〕89 〔A (B C)D〕E]FG H}I〉J=
⑨ 1<2<3<4<5<6<7<8<9<A<B<C<D<E<F<G<H<I<J。
といふ「並び替へ(ソート)」を行ふことになる。
然るに、
(24)(25)(26)により、
(27)
かうした「並び替へ(ソート)」は、
n= 0 であっても、
n= 10 であっても、
n=100 であっても、「同様」に、「可能」である。
従って、
(07)(23)~(27)により、
(28)
少なくとも、
① 二 一
② 三 二 一
③ 下 二 一 中 上
④ 丁 丙 二 一 乙 甲
⑤ 乙 下 二 一 中 上 甲
⑥ 乙 下 三 二 一 中 上 甲
⑦ 地 丁 二 一 丙 乙 甲 天
⑧ 地 丁 三 二 一 丙 乙 甲 天
⑨ 人 地 丁 三 二 一 丙 乙 甲 天
といふ「返り点」で表すことが出来る「順番」は、
① 二(一)
② 三〔二(一)〕
③ 下〔二(一)中(上)〕
④ 丁[丙〔二(一)乙(甲)〕]
⑤ 乙[下〔二(一)中(上)〕甲]
⑥ 乙{下[三〔二(一)〕中(上)]甲}
⑦ 地{丁[二(一)丙〔乙(甲)〕]天}
⑧ 地{丁[三〔二(一)〕丙〔乙(甲)〕]天}
⑨ 人〈地{丁[三〔二(一)〕丙〔乙(甲)〕]天}〉
といふ「括弧」で表すことが出来る「順番」に「等しい」。
然るに、
(29)
「返り点」といふのは、
「(横書きであれば、)右から左へ、返る点」であって、
「(横書きであれば、)左から右へ、戻る点」ではない。
然るに、
(30)
⑩ 二 三 一
であれば、
⑩ 一 から、
⑩ 二 へ「返って」、次に、
⑩ 二 から、
⑩ 三 へ、「戻ってゐる」。
従って、
(07)(20)(29)(30)により、
(31)
(Ⅰ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
だけを用ひる場合であっても、
⑩ 二<三>一
のやうな、
⑩ n+1<n+m>n(nは、0より大きい整数で、mは1より大っきい整数である。)
といふ「順番」は、有り得ない。
然るに、
(32)
⑪ 下 二 一 上
といふ「順番」は、
⑪ 4 2 1 3
であるが、
⑫ 二 下 上 一
⑬ 二 下 一 上
⑭ 下 二 上 一
といふ「順番」は、
⑫ 2<4>3 1
⑬ 2<4>1 3
⑭ 4 2<3>1
である。
然るに、
(20)により、
(33)
(Ⅰ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
(Ⅱ)上 中 下
(Ⅲ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅳ)天 地 人
または、
(Ⅰ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
(Ⅱ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅲ)上 中 下
(Ⅳ)天 地 人
に於いて、
(Ⅰ)を挟んで返る場合には、
(Ⅱ)を用ひ、
(Ⅱ)を挟んで返る場合には、
(Ⅲ)を用ひ、
(Ⅲ)を挟んで返る場合には、
(Ⅳ)を用ひる。
といふ『ルール』に従ふ限り、
(Ⅳ)は、
(Ⅰ)
(Ⅱ)
(Ⅲ)
の間には、「現れない」し、
(Ⅲ)は、
(Ⅰ)
(Ⅱ)
の間には、「現れない」し、
(Ⅱ)は、
(Ⅰ)
の間には、「現れない」。
従って、
(33)により、
(34)
例へば、
⑫ 二 下 上 一
⑬ 二 下 一 上
⑭ 下 二 上 一
といふ「順番」は、
⑫ 2<4>3 1
⑬ 2<4>1 3
⑭ 4 2<3>1
であるものの、その一方で、
⑫ 二 下 上 一
⑬ 二 下 一 上
⑭ 下 二 上 一
といふ「返り点」自体が、有り得ない。
従って、
(07)(19)(20)(28)~(34)により、
(35)
① 二 一
② 三 二 一
③ 下 二 一 中 上
④ 丁 丙 二 一 乙 甲
⑤ 乙 下 二 一 中 上 甲
⑥ 乙 下 三 二 一 中 上 甲
⑦ 地 丁 二 一 丙 乙 甲 天
⑧ 地 丁 三 二 一 丙 乙 甲 天
⑨ 人 地 丁 三 二 一 丙 乙 甲 天
といふ「返り点」で表すことが出来る「順番」だけでなく、
(Ⅰ)レ 一レ 上レ 甲レ 天レ
(Ⅱ)一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 ・・・・・
(Ⅲ)上 中 下
(Ⅳ)甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
(Ⅴ)天 地 人
といふ「返り点」が表し得る「順番」は、「括弧」が表し得る「順番」に、「等しい」。
然るに、
(36)
漢語における語順は、国語と大きく違っているところがある。すなわち、その補足構造における語順は、国語とは全く反対である。しかし、訓読は、国語の語順に置きかえて読むことが、その大きな原則となっている。それでその補足構造によっている文も、返り点によって、国語としての語順が示されている(鈴木直治、中国語と漢文、1975年、296頁)。
然るに、
(37)
例へば、
⑨ 夫子非{必欲[不〔揮(快刀)〕不〔断(乱麻)〕]者}而已矣。
といふ「作例」に於いて、
非{ }⇒{ }非
欲[ ]⇒[ ]欲
不〔 〕⇒〔 〕不
揮( )⇒( )揮
不〔 〕⇒〔 〕不
断( )⇒( )断
といふ「移動」を行ふと、
⑨ 夫子非{必欲[不〔揮(快刀)〕不〔断(乱麻)〕]者}而已矣⇒
⑨ 夫子{必[〔(快刀)揮〕不〔(乱麻)断〕不]欲者}非而已矣=
⑨ 夫子は{必ずしも[〔(快刀を)揮は〕ずして〔(乱麻を)断た〕ざらんと]欲する者に}非ざるのみ。
といふ「訓読」を、行ふことが、出来る。
従って、
(37)により、
(38)
例へば、
⑨ 夫子非{必欲[不〔揮(快刀)〕不〔断(乱麻)〕]者}而已矣。
といふ「漢文」に於ける、
⑨{ [ 〔 ( ) 〕〔 ( ) 〕 ] }
といふ「括弧」は、
(ⅰ)「漢文の、補足構造」と、「同時」に、
(ⅱ)「漢文訓読、の語順」を、表してゐる。
従って、
(39)
「括弧」は、ただ単に、
(ⅱ)「漢文訓読、の語順」だけを、表してゐる。
といふ、わけではない。
然るに、
(40)
管到というのは「上の語が、下のことばのどこまでかかるか」ということである。なんのことはない。諸君が古文や英語の時間でいつも練習している、あの「どこまでかかるか」である。漢文もことばである以上、これは当然でてくる問題である(二畳庵主人、漢文法基礎、1984年、389頁)。
然るに、
(41)
⑦ 欲〔揮(快刀)断(乱麻)〕。
であれば、
⑦ 欲 は、
⑦ 〔揮(快刀)断(乱麻)〕までに係ってゐて、
⑦ 揮 は、
⑦ (快刀)までに係ってゐて、
⑦ 断 は、
⑦ (乱麻)までに係ってゐる。
従って、
(38)(40)(41)により、
(42)
例へば、
⑨ 夫子非{必欲[不〔揮(快刀)〕不〔断(乱麻)〕]者}而已矣。
といふ「漢文」に於ける、
⑨{ [ 〔 ( ) 〕〔 ( ) 〕 ] }
といふ「括弧」は、
(ⅰ)「漢文の、補足構造」と、
(ⅱ)「漢文訓読、の語順」と、
(ⅲ)「漢文の、管到」を、表してゐる。
従って、
(42)により、
(43)
例へば、
⑨ 夫子非必欲不揮快刀不断乱麻者而已矣。
といふ「漢文」の「管到」が分からなければ、
⑨ 夫子非{必欲[不〔揮(快刀)〕不〔断(乱麻)〕]者}而已矣。
といふ「括弧」を、付けることは、出来ないし、「括弧」を付けることが、出来ないのであれば、
⑨ 夫子は{必ずしも[〔(快刀を)揮は〕ずして〔(乱麻を)断た〕ざらんと]欲する者に}非ざるのみ。
といふ「訓読」も、出来ない。
従って、
(44)
「漢文の白文」が「読める」ようになることは、私が思ふに、「漢文の白文」に、「括弧」を付けれるようになることである。
従って、
然るに、
(45)
(青木)二百年前、正徳の昔に於て荻生徂徠は夙に道破した。漢学の授業法はまず支那語から取りかからねばならぬ。教うるに俗語を以てし、誦するに支那音を以てし、訳するに日本の俗語を以てし、決して和訓廻環の読み方をしてはならぬ。先ず零細な二字三字の短句から始めて、後には纏った書物を読ませる、斯くて支那語が熟達して支那人と同様になつてから、而る後段々と経子史集四部の書を読ませると云う風にすれば破竹の如しだ、是が最良の策だ(勉誠出版、「訓読」論、2008年、56頁)。
(倉石)徂徠は、単に唐音を操るといふ様なことに満足せず、漢文を学ぶには先ず支那語からとりかり、支那の俗語をば支那語で暗誦させ、これを日本語の俗語に訳し、決して和訓の顚倒読みをしてはならない、始めは零細な二字三字の句から始めて、遂に纏った書物を読ます、支那語が支那人ほど熟達してから、古い書物を読ませば、破竹の勢いで進歩すると説いたこれは、今日の様に外国語に対する理念が発達した時代から見れば、何の不思議もないことであるが、その当時、つとに、かかる意見を吐いたのは、たしかに一世に抜きんでた見識に相違ない(勉誠出版、「訓読」論、2008年、56頁)。
然るに、
(46)
以前にも書いた通り、
中國以北京語爲國語矣。然、
若北京語非漢文也。是以、
中國語直読法雖盛、中華人民共和國語、不可以書中夏之書審矣。
如日本之学生有欲能書漢文者、則宜以括弧学其管到。
古、漢文之於日本語、猶古文之於日本語也。故、漢文亦日本語也。
学中國語、莫若音読、学漢文、莫若以訓読学之。
(47)
中國以(北京語)爲(國語)矣。然、
若(北京語)、非(漢文)也。是以、
中國語直読法雖(盛)中華人民共和國語不[可〔以書(中夏之書)〕]審矣。
如日本之学生有[欲〔能書(漢文)〕者]則宜〔以(括弧)学(其管到)〕。
古、漢文之於(日本語)、猶〔古文之於(日本語)〕也。故、漢文亦日本語也。
学(中國語)、莫〔若(音読)〕、学(漢文)、莫[若〔以(訓読)学(之)〕]。
(48)
中國は北京語を以て國語と爲せり。然れども、
北京語の若きは漢文に非ざるなり。是を以て、
中國語直読法は盛んなりと雖も、中華人民共和國語は以て中華の書を書く可から不ること審かなり。
如し日本の学生に能く漢文を書かむと欲する者有らば則ち、宜しく括弧を以て其の管到を学ぶべし。
古へ、漢文の日本語に於けるや、猶ほ古文の日本語のごときなり。故に、漢文も亦た日本語なり。
中國語を学ぶは、音読に若くは莫く、漢文を学ぶは、訓読を以て之を学ぶに若くは莫し。
といふのが、独学で漢文を学んでゐる、私の見解である。
令和02年03月21日、毛利太。
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