―「昨日(令和02年06月08日)の記事」を書き直します。―
(01)
沢田充茂の『現代論理学入門』(一九六ニ年)には楽しい解説が載っています。
・・・・・・たとえば「象は鼻が長い」というような表現は、象が主語なのか、鼻が主語なのかはっきりしないから、このままではその論理的構造が明示されていない。いわば非論理的な文章である、というひともある。しかしこの文の論理的な構造をはっきりと文章にあらわして「すべてのxについて、もしそのxが象であるならば、yなるものが存在し、そのyは鼻であり、xはyを所有しており、このyは長い」といえば・・・・・・たとえば動物園で象をはじめて見た小学生が、父親にむかってこのような文章で話しかけたとすれば、その子供は論理的であるといって感心されるまえに社会人としての常識をうたがわれるにきまっている。常識(すなはち共通にもっている情報)でわかっているものはいちいち言明の中にいれないで、いわば暗黙の了解事項として、省略し、できるだけ短い記号の組み合せで、できるだけ多くの情報を伝えることが日常言語の合理性の一つである。・・・・・・
(山崎紀美子、日本語基礎講座―三上文法入門、2003年、214頁)
然るに、
(02)
① 象は鼻が長い。⇔
① ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)}⇔
① すべてのxについて、もしそのxが象であるならば、yなるものが存在し、そのyは鼻であり、xはyを所有しており、このyは長い。
然るに、
(03)
(ⅰ)
1 (1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)} A
1 (2) 象a→∃y(鼻ya&長y) 1UE
3(3) ~∃y(鼻ya&長y) A
13(4) ~象a 23MTT
1 (5) ~∃y(鼻ya&長y)→~象a 34CP
1 (6)∀x{~∃y(鼻yx&長y)→~象x} 1UI
(ⅱ)
1 (1)∀x{~∃y(鼻yx&長y)→~象x} A
1 (2) ~∃y(鼻ya&長y)→~象a 1UE
3(3) 象a A
3(4) ~~象a 3DN
13(5) ~~∃y(鼻ya&長y) 34MTT
13(6) ∃y(鼻ya&長y) 5DN
1 (7) 象a→∃y(鼻ya&長y) 36CP
1 (8)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)} 7UI
従って、
(02)(03)により、
(04)
① ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)}
② ∀x{~∃y(鼻yx&長y)→~象x}
に於いて、すなはち、
① すべてのxについて、もしそのxが象であるならば、yなるものが存在し、そのyは鼻であり、xはyを所有しており、このyは長い。
② すべてのxについて{xの鼻である所の長いyが存在しないのであれば、xは象ではない}。
に於いて、
①=② は、「対偶(Contraposition)」である。
然るに、
(05)
ただ「単に」、
②{xの鼻である所の長いyが存在しないのであれば、xは象ではない}。
といふのであれば、
②{xの耳である所の長いyが存在したとしても、xは象ではない}。
とは、言へない。
従って、
(04)(05)により、
(06)
① 象は鼻が長い。
といふ「日本語」を、
① ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)}⇔
① すべてのxについて{もしそのxが象であるならば、yなるものが存在し、そのyは鼻であり、xはyを所有しており、このyは長い}。
といふ風に、「翻訳」した場合は、
(ⅰ)象は鼻が長い。然るに、
(ⅱ)兎は耳が長く、兎の耳は鼻ではない。故に、
(ⅲ)兎は象ではない。
といふ「三段論法」は、「妥当(Valid)」ではない。
然るに、
(07)
(ⅰ)
1 (1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)& ∀z(~鼻zx→~長z)} A
1 (2) 象a→∃y(鼻ya&長y)& ∀z(~鼻za→~長z)} A
3 (3) ~{∃y(鼻ya&長y)& ∀z(~鼻za→~長z)} A
3 (4) ~∃y(鼻ya&長y)∨~∀z(~鼻za→~長z) 3ド・モルガンの法則
5 (5) ~∃y(鼻ya&長y) A
5 (6) ∀y~(鼻ya&長y) 5量化子の関係
5 (7) ~(鼻ba&長b) 6UE
5 (8) ~鼻ba∨~長b 7ド・モルガンの法則
5 (9) 鼻ba→~長b 8含意の定義
5 (ア) ∀y(鼻ya→~長y) 9UI
5 (イ) ∀y(鼻ya→~長y)∨ ∃z(~鼻za& 長z) ア∨I
ウ (ウ) ~∀z(~鼻za→~長z) A
ウ (エ) ∃z~(~鼻za→~長z) ウ量化子の関係
オ (オ) ~(~鼻ca→~長c) A
カ(カ) 鼻ca∨~長c A
カ(キ) ~鼻ca→~長c カ含意の定義
オカ(ク) ~(~鼻ca→~長c)&
(~鼻ca→~長c) オキ&I
オ (ケ) ~(鼻ca∨~長c) カクRAA
オ (コ) ~鼻ca& 長c ケ、ド・モルガンの法則
オ (サ) ∃z(~鼻za& 長z) コEI
ウ (シ) ∃z(~鼻za& 長z) ウオサEE
ウ (ス) ∀y(鼻ya→~長y)∨ ∃z(~鼻za& 長z) シ∨I
3 (セ) ∀y(鼻ya→~長y)∨ ∃z(~鼻za& 長z) 35イウス∨E
13 (ソ) ~象a 2セMTT
1 (タ) ∀y(鼻ya→~長y)∨∃z(~鼻za&長z)→~象a セソCP
1 (チ)∀x{∀y(鼻yx→~長y)∨∃z(~鼻zx&長z)→~象x} タUI
(ⅱ)
1 (1)∀x{∀y(鼻yx→~長y)∨∃z(~鼻zx&長z)→~象x} A
1 (2) ∀y(鼻ya→~長y)∨∃z(~鼻za&長z)→~象a 1UE
3 (3) 象a A
3 (4) ~~象a 3DN
13 (5) ~{∀y(鼻ya→~長y)∨ ∃z(~鼻za&長z)} 24MTT
13 (6) ~∀y(鼻ya→~長y)&~∃z(~鼻za&長z) 5ド・モルガンの法則
13 (7) ~∀y(鼻ya→~長y) 6&E
13 (8) ∃y~(鼻ya→~長y) 7量化子の関係
9 (9) ~(鼻ba→~長b) A
ア (ア) ~鼻ba∨~長b A
ア (イ) 鼻ba→~長b ア含意の定義
9ア (ウ) ~(鼻ba→~長b)&(鼻ba→~長b) アイ&I
9 (エ) ~(~鼻ba∨~長b) アウRAA
9 (オ) 鼻ba& 長b エ、ド・モルガンの法則
9 (カ) ∃y(鼻ya& 長y) オEI
13 (キ) ∃y(鼻ya& 長y) 89カEE
13 (ケ) ~∃z(~鼻za& 長z) 6&E
13 (コ) ∀z~(~鼻za& 長z) ケ量化子の関係
13 (サ) ~(~鼻ca& 長c) コUE
13 (シ) 鼻ca∨~長c サ、ド・モルガンの法則
13 (ス) ~鼻ca→~長c シ、含意の定義
13 (セ) ∀z(~鼻za→~長z) スUI
13 (ソ) ∃y(鼻ya&長y)&∀z(~鼻za→~長z) キセ&I
1 (タ) 象a→∃y(鼻ya&長y)&∀z(~鼻za→~長z) 3ソCP
1 (チ)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z) タUI
従って、
(07)により、
(08)
① ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)& ∀z(~鼻zx→~長z)}
② ∀x{∀y(鼻yx→~長y)∨∃z(~鼻zx&長z)→~象x}
に於いて、すなはち、
① すべてのxについて{xが象であるならば、あるyはxの鼻であって、長く、すべてのzについて、zがxの鼻でないならば、zは長くない}。
② すべてのxについて{すべてのyについて、yがxの鼻であるならば、yは長くないか、または、あるzがxの鼻以外であって、長いならば、xは象ではない}。
①=② は、「対偶(Contraposition)」である。
然るに、
(09)
① すべてのxについて{xが象であるならば、あるyはxの鼻であって、長く、すべてのzについて、zがxの鼻でないならば、zは長くない}。
② すべてのxについて{すべてのyについて、yがxの鼻であるならば、yは長くないか、または、あるzがxの鼻以外であって、長いならば、xは象ではない}。
といふことは、
① 象は、鼻は長く、鼻以外は長くない。
② 鼻が長くないか、もしくは、鼻以外が長いのであれば、象ではない。
といふことである。
然るに、
(10)
② 鼻以外が長いのであれば、象ではない。
といふことは、
② 耳の長い象はゐない。
といふことである。
従って、
(07)~(10)により、
(11)
① 象は鼻が長い。
といふ「日本語」を、
① ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)& ∀z(~鼻zx→~長z)}⇔
① すべてのxについて{xが象であるならば、あるyはxの鼻であって、長く、すべてのzについて、zがxの鼻でないならば、zは長くない}。
といふ風に、「翻訳」をするのであれば、
(ⅰ)象は鼻が長い。然るに、
(ⅱ)兎は耳が長く、兎の耳は鼻ではない。故に、
(ⅲ)兎は象ではない。
といふ「三段論法」は、「妥当(Valid)」である。
従って、
(11)により、
(12)
(ⅰ)象は鼻が長い。然るに、
(ⅱ)兎は耳が長く、兎の耳は鼻ではない。故に、
(ⅲ)兎は象ではない。
といふ「三段論法」は、「妥当(Valid)」であるならば、そのときに限って、
① 象は鼻が長い。⇔
① ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)& ∀z(~鼻zx→~長z)}⇔
① すべてのxについて{xが象であるならば、あるyはxの鼻であって、長く、すべてのzについて、zがxの鼻でないならば、zは長くない}。
といふ「等式」が成立する。
然るに、
(13)
(ⅰ)象は鼻が長い。然るに、
(ⅱ)兎は耳が長く、兎の耳は鼻ではない。故に、
(ⅲ)兎は象ではない。
といふ「三段論法」は、「妥当(Valid)」である。
従って、
(12)(13)により、
(14)
① 象は鼻が長い。⇔
① ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)& ∀z(~鼻zx→~長z)}⇔
① すべてのxについて{xが象であるならば、あるyはxの鼻であって、長く、すべてのzについて、zがxの鼻でないならば、zは長くない}。
といふ「等式」が成立する。
従って、
(01)(02)(14)により、
(15)
沢田充茂 先生による、
① 象は鼻が長い。
に対する、
① ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)}⇔
① すべてのxについて{もしそのxが象であるならば、yなるものが存在し、そのyは鼻であり、xはyを所有しており、このyは長い}。
といふ「翻訳」は、「誤訳」であると、言はざるを得ない。
令和02年06月09日、毛利太。
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