2019年5月18日土曜日

「楚人有鬻盾与矛者(韓非子、矛盾)」の「述語論理」(Ⅱ)。

―「返り点と括弧」に関しては、
(α)「返り点」と「括弧」に付いて。 :(https://kannbunn.blogspot.com/2017/12/blog-post_11.html
(β)「返り点」と「括弧」の条件。  :(https://kannbunn.blogspot.com/2017/12/blog-post_15.html
(γ)「返り点」と「括弧」の条件(Ⅱ):(https://kannbunn.blogspot.com/2017/12/blog-post_16.html
(δ)「返り点」は、下には戻らない。 :(https://kannbunn.blogspot.com/2017/12/blog-post_20.html
(ε)「下中上点」等が必要な「理由」。:(https://kannbunn.blogspot.com/2017/12/blog-post_22.html
(ζ)「返り点・モドキ」について。  :(https://kannbunn.blogspot.com/2017/12/blog-post_24.html)⇒
 Web上には存在しますが、何故か、アクセス出来ません。
(η)「一二点・上下点」に付いて。  :(https://kannbunn.blogspot.com/2017/12/blog-post_26.html
(θ)「括弧」の「順番」。      :(https://kannbunn.blogspot.com/2018/01/blog-post.html
(ι)「返り点」と「括弧」の関係   :(https://kannbunn.blogspot.com/2019/01/blog-post_21.html
等々、「その他、諸々」を、お読み下さい。今となっては、どのやうなことを書いて、どのやうなことを書かなかったのか、ハッキリとは、覚えてはゐません。―

(01)
楚人有鬻盾与矛者。
誉之曰、
吾盾之堅、莫能陥也。
又誉其矛曰、
吾矛之利、於物無不陥也。
或曰、
以子之矛、陥子之盾、何如。
其人弗能応也。
(02)
楚人有[鬻〔盾与(矛)〕者]。
誉(之)曰、
吾盾之堅、莫(能陥)也。
又誉(其矛)曰、
吾矛之利、於(物)無〔不(陥)〕也。
或曰、
以(子之矛)、陥(子之盾)、何如。
其人弗〔能(応)〕也。
(03)
楚人に[〔盾と(矛)とを〕鬻く者]有り。
(之を)誉めて曰く、
吾が盾の堅きこと、(能く陥す)莫きなり。
又た(其の矛を誉めて)曰く、
吾矛の利なること、(物に)於いて〔(陥さ)不る〕無きなり。
或ひと曰く、
(子の矛を)以て、(子の盾を)陥さば、何如ん。
其の人〔(応ふる)能は〕ざるなり。
(04)
[一]矛盾〈韓非子〉
(通 釈)
楚の国の人に、楯と矛を売り歩くものがあった。
(その人)がこの商品をほめて「わたしの楯の堅くてじょうぶなこといったら、これを突きとおすことのできるものはない。」と言い、
またその矛をほめて「わたしの矛の鋭利なことといったら、どんな物であろうと突きとおしてしまう。」と言った。
(これを聞いた)ある人が「あなたの矛でもってあなたの楯をついたら、どういうことになりますか。」と言った。
(楯と矛を売っていた)その人は何とも返事をすることができなかった。
(旺文社、漢文の基礎、1973年、31頁)
従って、
(04)により、
(05)
「盾の集合」の中に「いかなる矛も陥さない盾」があって、「わたしの盾」が「その盾」である。
「矛の集合」の中に「すべての盾を陥す矛」  があって、「わたしの矛」が「その矛」である。
と、楚の国の人が、言ってゐる。
従って、
(04)(05)により、
(06)
「盾の集合」の中に「いかなる矛も陥さない盾」がある。
「矛の集合」の中に「すべての盾を陥す矛」  がある。
といふことは、「矛盾」であると、ある人が、言ってゐる。
然るに、
(07)
1       (1) ∃x(盾x)&∃y(矛y)      A
1       (2) ∃x(盾x)             1&E
 3      (3)    盾a              A
1       (4)        ∃y(矛y)      1&E
  5     (5)           矛b       A
   6    (6) ∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)} A
    7   (7)    盾a&∀y(矛y→~陥ya)  A
    7   (8)       ∀y(矛y→~陥ya)  7&E
    7   (9)          矛b→~陥ba   8UE
  5 7   (ア)             ~陥ba   59MPP
     イ  (イ) ∃y{矛y&∀x(盾x→ 陥yx)} A
      ウ (ウ)    矛b&∀x(盾x→ 陥bx)  A
      ウ (エ)       ∀x(盾x→ 陥bx)  ウUE
      ウ (オ)          盾a→ 陥ba   エUE
 3    ウ (カ)              陥ba   3オMPP
 35 7 ウ (キ)         ~陥ba&陥ba   アカ&I
 35 7イ  (ク)         ~陥ba&陥ba   イウキEE
 356 イ  (ケ)         ~陥ba&陥ba   67クEE
13 6 イ  (コ)         ~陥ba&陥ba   45ケEE
1  6 イ  (サ)         ~陥ba&陥ba   23コEE
   6 イ  (シ)~[∃x(盾x)& ∃y(矛y)]   1サRAA
   6 イ  (ス) ~∃x(盾x)∨~∃y(矛y)    シ、ド・モルガンの法則
   6 イ  (セ)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)    ス含意の定義 
      ソ (ソ) ~∃x(盾x)            A
      ソ (タ) ~∃y(矛y)∨~∃x(盾x)    ソ∨I
       チ(チ)         ~∃x(盾x)    A
       チ(ツ) ~∃y(矛y)∨~∃x(盾x)    チ∨I
   6 イ  (テ) ~∃y(矛y)∨~∃x(盾x)    スソタチツ∨E
   6 イ  (ト)  ∃y(矛y)→~∃x(盾x)    スソチツト∨E
   6 イ  (ナ)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)&
             ∃y(矛y)→~∃x(盾x)    セト&I
然るに、
(08)
1  (1)∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)} A
 2 (2)   盾a&∀y(矛y→~陥ya)  A
 2 (3)   盾a              2&E
 2 (4)      ∀y(矛y→~陥ya)  3&E
 2 (5)         矛b→~陥ba   4UE
  6(6)         矛b        A
 26(7)            ~陥ba   56MPP
 26(8)         盾a&~陥ba   37&I
 26(9)      ∃x(盾x&~陥bx)  8EI
1 6(ア)      ∃x(盾x&~陥bx)  129EE
1  (イ)   矛b→∃x(盾x&~陥bx)  6アCP
1  (ウ)∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)} イUI
従って、
(08)により、
(09)
① ∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)}
② ∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)}
に於いて、
① ならば、
② である。
cf.
ただし、「逆」は「正しく」はない。
従って、
(07)(08)(09)により、
(10)
1       (1) ∃x(盾x)&∃y(矛y)       A
1       (2) ∃x(盾x)              1&E
 3      (3)    盾a               A
1       (4)       ∃y(矛y)        1&E
  5     (5)          矛b         A
   6    (6) ∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)}  A
ではなく、
1       (1) ∃x(盾x)&∃y(矛y)       A
1       (2) ∃x(盾x)              1&E
 3      (3)    盾a               A
1       (4)        ∃y(矛y)       1&E
  5     (5)           矛b        A
   6    (6) ∀y{矛y→ ∃x(盾x&~陥yx)} A
である、としても、
次に示す「計算(11)」は、「正しい」。
(11)
1       (1)   ∃x(盾x)&∃y(矛y)       A
1       (2)   ∃x(盾x)              1&E
 3      (3)      盾a               A
1       (4)          ∃y(矛y)       1&E
  5     (5)             矛b        A
   6    (6)   ∀y{矛y→ ∃x(盾x&~陥yx)} A
   6    (7)      矛b→ ∃x(盾x&~陥bx)  6UE
  56    (8)          ∃x(盾x&~陥bx)  57MPP
    9   (9)             盾a&~陥ba   A
    9   (ア)                ~陥ba   9&E
     イ  (イ)   ∀x{盾x→ ∃y(矛y& 陥yx)} A
     イ  (ウ)      盾a→ ∃y(矛y& 陥ya)  イUE
 3   イ  (エ)          ∃y(矛y& 陥ya)  3ウMPP
      オ (オ)             矛b& 陥ba   A
      オ (カ)                 陥ba   オ&E
    9 オ (キ)            ~陥ba&陥ba   アカ&I
  56  オ (ク)            ~陥ba&陥ba   89キEE
 356 イ  (ケ)            ~陥ba&陥ba   エオクEE
1 56 イ  (コ)            ~陥ba&陥ba   23ケEE
1  6 イ  (サ)            ~陥ba&陥ba   45コEE
   6 イ  (シ)~{∃x(盾x)& ∃y(矛y)}      1サRAA
   6 イ  (ス) ~∃x(盾x)∨~∃y(矛y)       シ、ド・モルガンの法則
   6 イ  (セ)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)       ス含意の定義
      ソ (ソ) ~∃x(盾x)               A
      ソ (タ) ~∃y(矛y)∨~∃x(盾x)       ソ∨I
       チ(チ)         ~∃y(矛y)       A
       チ(ツ) ~∃y(矛y)∨~∃x(盾x)       チ∨I
   6 イ  (テ) ~∃y(矛y)∨~∃x(盾x)       スソタチツ∨E
   6 イ  (ト)  ∃y(矛y)→~∃x(盾x)       テ含意の定義
   6 イ  (ナ)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)&
             ∃y(矛y)→~∃x(盾x)       セト&I
従って、
(07)(11)により、
(12)
1       (1) ∃x(盾x)&∃y(矛y)     A
1       (1) ∃x(盾x)&∃y(矛y)     A
と「仮定」し、
   6    (6)∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)} A
   6    (6)∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)} A
と「仮定」し、
     イ  (イ)∃y{矛y&∀x(盾x→ 陥yx)} A
     イ  (イ)∀x{盾x→∃y(矛y& 陥yx)} A
と「仮定」すると、
   6 イ  (ナ)∃x(盾x)→~∃y(矛y)&∃y(矛y)→~∃x(盾x) セト&I
   6 イ  (ナ)∃x(盾x)→~∃y(矛y)&∃y(矛y)→~∃x(盾x) セト&I
といふ、『結論』が、「演繹」される。
従って、
(12)により、
(13)
(1)あるxは盾であり、あるyは矛である。
(〃)あるxは盾であり、あるyは矛である。
と「仮定」し、
(6)あるxは盾であり、すべてのyについて、yが矛であるならば、yはxを突き通さない。
(6)すべてのyについて、yが矛であるならば、あるxは盾であり、yはxを突き通さない。
と「仮定」し、
(イ)あるyは矛であり、すべてのxについて、xが盾であるならば、yはxを突き通す。
(イ)すべてのxについて、xが盾であるならば、あるyは矛であり、yはxを突き通す。
と「仮定」すると、
(ナ)ある楯xが存在するならば、ある矛yは存在せず、ある矛yが存在するならば、ある楯xは存在しない。
(〃)ある楯xが存在するならば、ある矛yは存在せず、ある矛yが存在するならば、ある楯xは存在しない。
といふ、『結論』が、「演繹」される。
従って、
(12)(13)により、
(14)
(6)いかなる「矛」であっても、突き通すことが出来ない、「楯」が存在する。と仮定し、
(〃)いかなる「楯」であっても、突き通すことが出来る、 「矛」が存在する。と仮定すると、
(ナ)そのやうな「楯」が存在するならば、そのやうな「矛」は存在せず、
(〃)そのやうな「矛」が存在するならば、そのやうな「楯」は存在しない。
といふ「矛盾(Contradiction)」が、生じることになる。
従って、
(01)~(14)により、
(15)
夫不可陷之楯與無不陷之矛、不可同世而立。
夫不〔可(陷)〕之楯與[無〔不(陷)〕之矛]、不[可〔同(世)而立〕]。
夫れ陥すべからざるの楯と、陥らざる無きの矛とは、世を同じくして立たつべからず。
といふ「主張」、すなはち、
「わたしの盾の堅くてじょうぶなこといったら、これを突きとおすことのできるものはない。」
「わたしの矛の鋭利なことといったら、どんな物であろうと突きとおしてしまう。」といった、「そのやうな盾と矛は、同時には、存在しない」。
といふ「主張」は、「述語論理(Predicate logic)」としても、「妥当(Valid)」である。
 ―「補足」―
(16)
① ∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)}
② ∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)}
に於いて、
①=② であるはず。
と、思っゐたものの、(08)でも示した通り、
1  (1)∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)} A
 2 (2)   盾a&∀y(矛y→~陥ya)  A
 2 (3)   盾a              2&E
 2 (4)      ∀y(矛y→~陥ya)  3&E
 2 (5)         矛b→~陥ba   4UE
  6(6)         矛b        A
 26(7)            ~陥ba   56MPP
 26(8)         盾a&~陥ba   37&I
 26(9)      ∃x(盾x&~陥bx)  8EI
1 6(ア)      ∃x(盾x&~陥bx)  129EE
1  (イ)   矛b→∃x(盾x&~陥bx)  6アCP
1  (ウ)∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)} イUI
であり、それ故、
① ならば、② である。
然るに、
(17)

1  (1)∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)} A
1  (2)   矛b→∃x(盾x&~陥bx)  1UE
 3 (3)   矛b              A
13 (4)      ∃x(盾x&~陥bx)  23MPP
  5(5)         盾a&~陥ba   A
13 (6)         盾a&~陥ba   455EE
13 (7)            ~陥ba   6&E
1  (8)         矛b→~陥ba   37CP
1  (9)      ∀y(矛y→~陥ya)  8UI
13 (ア)   盾a              6&E
13 (イ)   盾a&∀y(矛y→~陥ya)  9ア&I
 (ウ)∃x{盾a&∀y(矛y→~陥ya)} イEI
然るに、
(18)
 (ウ)∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)} エEI
ではなく、
1  (ウ)∃x{盾a&∀y(矛y→~陥ya)} エEI
でなければ、
① ∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)}
② ∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)}
に於いて、
①=② ではない。
従って、
(16)(17)(18)により、
(19)
① ∃x{盾x&∀y(矛y→~陥yx)}
② ∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)}
に於いて、
① ならば、② であるが、
② ならば、① である。ではない
令和元年05月18日、毛利太。

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