(01)
ジョン・レモンが開発した自然演繹の体系は、証明の構文規則に関する次のような「10個の基本的規則(10 Primitive rules)」だけを持つ。
1.仮定の規則(A)
2.肯定肯定式(MPP)
3.否定否定式(MTT)
4.二重否定律(DN)
5.条件的証明(CP)
6.&-導入 (&I)
7.&-除去 (&E)
8.∨-導入 (∨I)
9.∨-除去 (∨E)
10.背理法 (RAA)
(E.J.レモン、論理学初歩、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、1973年、50・51頁を参照)
然るに、
(02)
最後に注意してよいことは、MTTは原始的規則と解す必要はなく、他の規則から導出される規則としてえられるということである。つまり、
55 P→Q,~Q├ ~P
1 (1) P→Q A
2 (2) ~Q A
3(3) P A
1 3(4) Q 13MPP
123(5)~Q&Q 24&I
12 (6)~P 35RAA
(E.J.レモン、論理学初歩、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、1973年、78頁)
然るに、
(03)
1 (1) P→Q A
2 (2) P A
3(3) ~Q A
1 3(4)~P 13MTT
123(5)P&~P 23&I
12 (6) ~~Q 35RAA
12 (7) Q 6DN
従って、
(02)(03)により、
(04)
「MTTは原始的規則と解す必要はなく、他の規則(MPP)から導出される規則としてえられる」といふのであれば、
「MPPも原始的規則と解す必要はなく、他の規則(MTT)から導出される規則としてえられる」といふことになる。
加へて、
(05)
練習問題
EXERCCISES
1 10個の原始的規則のみを用ひて、次の連式を証明せよ。
1 Using only 10 Primitive rules, prove the following sequents;
(E.J.レモン、論理学初歩、竹尾治一郎・浅野楢英 訳、1973年、79頁)
従って、
(01)~(05)により、
(06)
「ジョン・レモンが開発した体系 L は、証明の構文規則に関する次のような 9つの基本的規則だけを持つ(ウィキペディア)。」といふのは、意図的なマチガイであって、
「ジョン・レモンが開発した体系 L は、証明の構文規則に関する次のような10個の基本的規則だけを持つ。」とするのが、正しい。
然るに、
(07)
[公理]
ルカジェヴィッツによる公理
(1) P→(Q→P)
(2)[P→(Q→R)]→[(P→Q)→(P→R)]
(3)(~P→~Q)→(Q→P)
これはフレーゲが提出した6つの公理を簡単にしたものである。
(沢田允、現代論理学入門、1962年、173頁)
然るに、
(08)
(ⅰ)
1 (1) P A
1 (2) ~Q∨ P 1∨I
3 (3) Q&~P A
4 (4) ~Q A
3 (5) Q 3&E
34 (6) ~Q&Q 45&I
4 (7)~(Q&~P) 36RAA
8 (8) P A
3 (9) ~P 3&E
3 8 (ア) P&~P 89&I
8 (イ)~(Q&~P) 3アRAA
1 (ウ)~(Q&~P) 2478イ∨E
エ (エ) Q A
オ(オ) ~P A
エオ(カ) Q&~P エオ&I
1 エオ(キ)~(Q&~P)
(Q&~P) ウカ&I
1 エ (ク) ~~P オキRAA
1 エ (ケ) P クDN
1 (コ) Q→P エケCP
(サ)P→(Q→P) 1コCP
(ⅱ)
1 (1) P→(Q→R) A
2 (2) P A
3(3) P→ Q A
12 (4) Q→R 12MPP
23(5) Q 23MPP
123(6) R 45MPP
1 3(7) P→R 26CP
1 (8) (P→Q)→(P→R) 37CP
(9)[P→(Q→R)]→[(P→Q)→(P→R)] 18CP
(ⅲ)
1 (1) ~P→~Q A
2(2) Q A
2(3) ~~Q 2DN
12(4) ~~P 13MTT
12(5) P 4DN
1 (6) Q→P 25CP
(7)(~P→~Q)→(Q→P) 16CP
従って、
(01)(06)(07)(08)により、
(09)
フレーゲが提出した6つの公理を簡単にしたものである所の、
(1) P→(Q→P)
(2)[P→(Q→R)]→[(P→Q)→(P→R)]
(3)(~P→~Q)→(Q→P)
といふ「ルカジェヴィッツによる3つの公理」は、「E.J.レモンの10個の規則」によって、「証明」出来る。
然るに、
(10)
(ⅰ)
1 (1) P A
1 (2) ~Q∨ P 1∨I
3 (3) Q&~P A
4 (4) ~Q A
3 (5) Q 3&E
34 (6) ~Q&Q 45&I
4 (7)~(Q&~P) 36RAA
8 (8) P A
3 (9) ~P 3&I
3 8 (ア) P&~P 89&I
8 (イ)~(Q&~P) 3アRAA
1 (ウ)~(Q&~P) 2478イ∨E
エ (エ) Q A
オ(オ) ~P A
エオ(カ) Q&~P エオ&I
1 エオ(キ)~(Q&~P)
(Q&~P) ウカ&I
1 エ (ク) ~~P オキRAA
1 エ (ケ) P クDN
1 (コ) Q→P エケCP
(サ)P→(Q→P) 1コCP
に於いて、
Q=~Q
といふ「代入(Substitution)」を行ふと、
1 (1) P A
1 (2) ~~Q∨ P 1∨I
3 (3) ~Q&~P A
4 (4) ~~Q A
3 (5) ~Q 3&E
34 (6) ~~Q&~Q 45&I
4 (7)~(~Q&~P) 36RAA
8 (8) P A
3 (9) ~P 3&I
3 8 (ア) P&~P 89&I
8 (イ)~(~Q&~P) 3アRAA
1 (ウ)~(~Q&~P) 2478イ∨E
エ (エ) ~Q A
オ(オ) ~P A
エオ(カ) ~Q&~P エオ&I
1 エオ(キ)~(~Q&~P)
(~Q&~P) ウカ&I
1 エ (ク) ~~P オキRAA
1 エ (ケ) P クDN
1 (コ) ~Q→P エケCP
(サ)P→(~Q→P) 1コCP
然るに、
(11)
1 代入の規則
一つの恒真式のなかの命題変項を他の命題変項、または論理式でおきかえることによって得られた式は同じく恒真式である。
(沢田允、現代論理学入門、1962年、173頁)
従って、
(09)(10)(11)により、
(12)
(1)P→( Q→P)≡Pであるならば(Qであるならば、Pである)。
(4)P→(~Q→P)≡Pであるならば(Qでないならば、Pである)。
に於いて、
(1)は、「ルカジェヴィッツの公理」であって、
(4)は、「ルカジェヴィッツの公理」から導かれた、「恒真式(トートロジー)」である。
然るに、
(13)
(1)Pであるならば(Qであるならば、Pである)。
(4)Pであるならば(Qでないならば、Pである)。
といふことは、
(1)Pであるならば(Qであろうと、Qでなかろうと、いづれにせよ、Pである)。
といふことである。
然るに、
(14)
(1)Pであるならば(Qであろうと、Qでなかろうと、いづれにせよ、Pである)。
といふことは、「明らかに、正しい」。
従って、
(13)(14)により、
(15)
(1)Pであるならば(Qであるならば、Pである)。
といふ「言ひ方」に、「不自然さ」を感じるのであれば、
(1)Pであるならば(Qであろうと、Qでなかろうと、いづれにせよ、Pである)。
といふ風に、「読み変へ」ても、かまはない。
然るに、
(16)
1(1)P A
(2)P→P 11CP
従って、
(01)(16)により、
(17)
P→P≡Pであるならば、Pである。
といふ「同一律(Principle of identity)」は、「E.J.レモンの10個の規則」によって、「証明」出来る。
然るに、
(18)
[公理]
ルカジェヴィッツによる公理
(1) P→(Q→P)
(2)[P→(Q→R)]→[(P→Q)→(P→R)]
(3)(~P→~Q)→(Q→P)
[規則]
1 代入の規則
一つの恒真式のなかの命題変項を他の命題変項、または論理式でおきかえることによって得られた式は同じく恒真式である。
2 推論の規則
論理式「P」と「P→Q」が共に真ならば、論理式「Q」も真である。
―中略、―
いま、右の公理(ルカジェヴィッツ)と規則とから、新しいトートロジー
P→P
を導き出してみよう。この場合、この命題は公理と規則から導き出された定理であることが証明されたことになる。このようにして公理から導き出される式を定理とよぶ。
―中略、―
このためにはまずルカジェヴィッツの公理2から出発して、
(2)[P→(Q→R)]→[(P→Q)→(P→R)]
のRにPを代入して、
(3)[P→(Q→P)]→[(P→Q)→(P→P)]
を得る。この(3)と、公理(1)である、
(1) P→(Q→P)
2 推論の規則 をあてはめれば、
(4)(P→Q)→(P→P)
となる。 この(4)の Qに、
1 代入の規則 により、 (Q→P)を代入すると、
(5)[P→(Q→P)]→(P→P)
となる。 この(5)と、
(1) P→(Q→P)に対して、
2 推論の規則 をあてはめれば、
(6)P→P
が導出できる(沢田允、現代論理学入門、1962年、173~175頁改)。
従って、
(18)により、
(19)
「ルカジェヴィッツによる3つの公理と、代入規則と、推論の規則」により、
「P→P≡Pであるならば、Pである。」といふ「同一律」が、「導出」出来る。
従って、
(17)(18)(19)により、
(20)
例へば、
「P→P≡Pであるならば、Pである。」といふ「同一律」は、
「E.J.レモンの10個の規則」を用ひても、
「ルカジェヴィッツによる3つの公理と、代入規則と、推論の規則」を用ひても、「証明」出来るものの、「その証明の仕方」は、「全く違ってゐる」。
然るに、
(21)
ゲンツェンのシークエント計算は、もっともっと私たちの直観から遠いものとなっています(簡単には説明できないので、ここではお見せしません)。
(小島寛之、論理と証明に強くなる、2017年、136頁)
(22)
この3つの演算システムは、演算能力は同一なのですが、見た目が違うし、それぞれに固有の特徴があります。
(小島寛之、論理と証明に強くなる、2017年、136頁)
従って、
(20)(21)(22)により、
(23)
「シークエント計算」に於いて、
「P→P≡Pであるならば、Pである。」といふ「同一律」が、「公理」ではないならば、
「シークエント計算」に於ける、
「P→P≡Pであるならば、Pである。」といふ「同一律」の「証明」は、
「ルカジェヴィッツによる3つの公理と、代入規則と、推論の規則」による「証明」よりも、「もっともっと私たちの直観から遠いもの」である。
といふことに、なりそうである。
令和02年01月22日、毛利太。
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